2017年09月07日 公開
2022年12月15日 更新
酒巻氏は、40代で仕事が忙しいと嘆く人は「仕事の仕方がわかっていない」と指摘する。
「実際には『忙しい、忙しい』といって何も手を動かしていない人も多いものです。時間に追われている人は、実は仕事の整理がついていないケースが多いのです。
中でも最大のムダは、同じ失敗を繰り返すこと。何が失敗要因で何が成功要因だったかを検証しないから、同じ間違いを繰り返す。経験を次に生かす視点を持たないと、コンスタントに成果が生まれることはありません。こうした仕事の仕方が身につかないまま40代になると、いつまで経っても同じところをグルグル回るだけで、忙しさに追われて何もできない、ということになりがちです」
40代は自身の業務に加え、中間管理職として部下を管理する仕事もあり、それが忙しさを倍加させている節もある。
「部下指導に追われて首が回らないという人は、部下を管理しようとするから疲弊するし、時間を奪われるのです。そもそも、『仕事を手取り足取り教えてやろう』という考えが間違い。上司は方向性だけ示して、部下に自分で考えるクセをつけさせるべきです。
いつまでも上司が助けないと何もできないチームより、各自が主体的に動くチームのほうがムダなく速やかに成果が出るのは当然です。仕事が速い人は例外なく、人をうまく動かす人ですよ」
もう一つ、酒巻氏がムダだと考えることがある。それが「交渉後の持ち帰り」だ。
「せっかく交渉に行ったのにその場で結論が出せず、『社に持ち帰って検討します』というケースが、とくに日本企業にはあまりに多い。海外の企業から見ると『何しに来たのだ』という話です。権限を持たない部下を派遣することは、まったくの時間のムダです」
ちなみに、酒巻氏は数多くの商談や交渉を経て「負けなし」を公言している。その強さにも、時間の使い方が関係していた。
「会議、商談、視察などの社外交渉では、『相手の出方をうかがおう』という姿勢では、勝ちは取れません。探り合いや情報共有、社に持ち帰るといったプロセスは一切ムダ。勝負は、事前に相手の情報を調べ、複数の交渉手段を考えておく準備力で決まります」
時間をかけるべきは、話し合いそのものの時間ではなく、準備の時間だということだ。
「交渉では先に提案したほうが優位に立てる。私は交渉相手の家族構成までリサーチします。
アメリカのある企業との交渉のときのエピソードがあります。そのとき私はスティーブ・ジョブズと組んで仕事をしていたのですが、ジョブズが交渉に行ってもどうしてもOKをくれない企業がありました。そこで私はいろいろと調査した結果、決定権を持つ人の奥さんが大の人形好きで、私との交渉日がちょうど二人の結婚記念日だということがわかったのです。
そこで私は交渉当日、あえて時間を長引かせました。というのも、アメリカ人は結婚記念日を大事にするので、相手は早く帰らなくてはならないはず。すると案の定、相手は時間を気にしてイライラし始めました。そこでさらに話を引き延ばし、ついにOKを引き出したのです。
この話はそれだけで終わりません。私は日本から奥さんへのお土産として日本人形を持参していました。それを彼に渡すと、大喜び。おかげでその後の交渉もスムーズに進みました。あとでジョブズも『どうやったんだ』と驚いていましたね。
リサーチの手間はかかっても、結果的に取れない合意を取れるのなら、調査時間はムダどころか、スピーディに合意を得るために“かけるべき時間”ということになります」
変化のスピードが30年単位だったアナログ時代と異なり、デジタル時代の今は最短1カ月でビジネスや技術の様相が一変する。だからこそ時短が必要だと、酒巻氏は指摘する。
「会社と自宅の往復だけでは、世の中の変化を敏感に感じ取れません。ここ数年を見ても、世の中の変化は驚くほど早かったでしょう。今は短期間のうちに新しい技術が生まれ、短期間で模倣されて、短期間で淘汰されていく時代です。
技術や販売網の構築に時間と手間がかかったアナログ時代は、ヒト・カネ・モノを握る大企業が勝ってきましたが、これからは意思決定が早く、小回りの効くベンチャーが勝つ時代です。
ところが、一部の大企業の経営陣や政府は、発想が二次産業時代で止まってしまっており、意思決定の迅速化ができていない。彼らの『ちょっと待て』という判断が、命取りになる時代なのです」
キヤノン電子の開発部門では、70歳を超えてもなお、現役で開発の中心的役割を担う社員が在籍しているという。
「彼らは例外なく、退勤後の自分の時間を生かし、たゆまぬ自己研鑽を重ねてきた人たちです。私はよく、30~40代になったら、20代の2倍は勉強するべき、50代は3倍勉強するべきと言っています。
勉強の半分はPCなり、ITなり、時代にキャッチアップするための内容。そして残りの半分は、将来を見据えた次のステップのための勉強です。専門分野を掘り下げつつ、周辺分野も広げていく。
たとえば、経理なら会計の勉強だけでなく、経営や人材マネジメントなどにも目を向けて守備範囲を拡張する。それが次のキャリアにつながっていきます。
とくに30代から50代のビジネスマンの方々は、時短を実現して自分の強みとなる付加価値をつけてほしいと思います。それにより、60代以降に自分の得意分野で、これまで以上に力を発揮できるはずです」
《『THE21』8月号より》
更新:11月22日 00:05