2017年08月30日 公開
「徹夜してナンボ、基本的に不健康」が当たり前の漫画界において、徹夜ゼロ、そのうえ18時半に仕事を終える制作現場がある。600万部超えの大ヒット『ドラゴン桜』作者、三田紀房氏の工房だ。しかも、締切に遅れたことは一度もないという。高いプロ意識から生まれる徹底したムダとり・時短についてうかがった。(取材・構成=林加愛、写真撮影=まるやゆういち)
600万部を突破した『ドラゴン桜』をはじめ、数多くのヒット作を世に放つ漫画家・三田紀房氏の制作現場は、毎朝9時半始業、6時半終業がルール。多忙・徹夜・不健康といった漫画制作現場の一般的イメージとかけ離れた職場環境が整備され、締切に遅れたことは一度もない。しかし、かつては自身の現場も「一般的なイメージ」そのものだった、と三田氏は語る。
「当時、アシスタントが長続きしないことが悩みでした。徹夜続きで体力を使い果たし、辞めてしまう。その都度、新しい人を入れ、イチからスキルを教えても、熟練した頃にまた辞める。それに、私自身も年齢を重ねるにつれ徹夜仕事はきつくなってくる。これでは非効率だし先がないと危機感を抱きました」
徹夜作業が慣例化し、それをある種の「美徳」のように見なしている漫画界特有の文化にも違和感を抱いていたという。
「漫画界には、限界まで身体に鞭打ってこそ素晴らしい創作活動ができるという美学、もとい『幻想』があります(笑)。最初は私もその価値観に慣れていましたが、デビューから10年が経ち、自作が売れ、自信がついてきた頃から、『別の方法でもいい作品は作れるはず』と考えるようになったのです」
そこで、「徹夜ゼロ、残業ゼロ」の勤務体制をスタッフに提案、実施。思い切った新システムは意外にも、すぐ定着したという。
「一番の変化は、私語がピタリとやんだこと。6時半に終業するには、仕事に没頭するしかありません。徹夜・残業なしと決めたことで、スタッフらの『目的』に変化が起きたのです。
以前の彼らの目的は、『楽しい職場作り』でした。おしゃべりをしながらともに疲労感や睡魔と戦う連帯感はたしかにあったでしょう。それが一転、『短時間で質の高い仕事をする』ことに意識が向いた。『ながら仕事』がなくなり、結果的にはスピードのみならず質も向上したと思います。職場の雰囲気も、冷たくなるどころか『一致団結していいものを作ろう』という、気持ちのいい緊張感が生まれました」
更新:11月22日 00:05