2017年08月09日 公開
2023年07月12日 更新
芸大を卒業後、アラン氏は台東区谷中にアトリエ兼ギャラリー「繪処アラン・ウエスト」を構え、注文制作を始めた。ただ、これだけの絵を描くことができるのに、なぜ画廊と契約をしなかったのだろうか。
「理由は簡単で、画廊から声をかけられなかっただけです(笑)。また、1つの画廊と契約したからといって生活は保障してくれませんし、契約すると他の画廊で展覧ができないという制約がついて回ります。これでは、自由な創作活動をしにくくなります」
アーティストとして、生計を立てるのは難しい。ただ、注文制作を始めたのには、もっと大きな理由があるという。
「私はいかに『相手をもてなす絵を描くか』を信念に仕事をしています。自己完結した絵よりも、依頼主に喜ばれる絵を描きたい。ですから、飾る場所や絵を眺めるシチュエーションなどを徹底的にリサーチしてから制作に臨みます。互いに意見を交わしながら完成した絵を喜んでくれると、何とも言えない達成感があるものです」
こうした打ち合わせを通じて作り上げた作品には、思い出深いエピソードもあるのだという。
「結婚記念日のプレゼントとして、奥さんに花の絵を贈りたいという依頼がありました。絵の内容だけでなく、プレゼントするシチュエーションまで打ち合わせたのでとても印象に残っています。依頼主が偶然を装って私のアトリエに入り、サプライズで奥さんへプレゼントする。驚きながらも喜ぶ奥さんの姿を見て、私もこんな夫婦になりたいと思いました」
私たちは、「アーティスト」と聞くと、自分の世界観を表現するために内面を追求する特殊な職業だと思いがちだ。しかし、アラン氏は、いかに相手を「もてなすか」を考えて仕事をするという。人を喜ばせるのはどの仕事も同じ。アラン氏の仕事は、忘れがちな大切な姿勢を思い出させてくれる。
2017年9月号 一流の職人に学ぶ「仕事の流儀」
写真撮影 まるやゆういち
更新:12月04日 00:05