2017年04月25日 公開
ビジネスでもプライベートでも、長距離の移動をするときに高速バスを利用した経験がある人は多いだろう。さまざまな車輌の種類があり、全国に路線が張り巡らされている高速バスは、今や日本に欠かせない移動手段となっている。かつてはあまりポピュラーではなかった高速バスを現在の地位にまで押し上げたのが、業界最大手のWILLER GROUP。その裏には、いったいどのような戦略があったのか? 創業社長として同社を率い続け、鉄道事業への参入など、新たな挑戦も現在進行中で進めている村瀬茂高氏にお話をうかがった。
――御社は高速バス会社として広く知られていますが、もともと旅行会社として創業されています。起業の理由はなんだったのでしょうか?
村瀬 1994年に創業したときのビジョンは、若い人たちのレジャーを創造することでした。今はインターネットで簡単に情報を共有できますが、当時はまだ普及していなかったので、レジャーを創造することで人と人が出会う場を作り、そこに集まった人たちが情報を共有できるようにしようと思ったのです。そうすれば、世の中がもっと楽しくなって、人生が豊かになりますから。
具体的には、スキーやテニス、スキューバ、ウィンドサーフィンなどのスポーツを目的とした旅行商品を扱っていました。スポーツを一緒にすれば、知らない人同士でもコミュニケーションを取りやすくなりますよね。
――他に同様の商品を扱っている旅行会社はなかったのですか?
村瀬 ありました。他にもあることがすごく大事なことで、他社が扱っていない商品を扱っても成長することはできません。
他社も扱っている商品を、他社よりも進化させることで、顧客に選んでいただく。そうすると他社も追随してくる。そこで参入障壁なんて作らずに、他社にも成長してもらって、市場全体を拡大させる。このことが重要です。顧客が100万人の市場で30%を取れれば30万人ですが、1,000万人の市場で30%を取れれば300万人ですから。シェアは、市場の中で先行していれば取れます。
同業者が増えれば競争原理が働いて、顧客にとってより魅力的な商品が開発されていき、さらに市場が創造されますし、市場が拡大すると商品がより多くの場所で顧客の目に触れるようになり、流行を作ることにもなります。
――商品を進化させるとは、どういうことでしょうか?
村瀬 ヒット商品が出ると、それを横展開させようと考えるケースが多いと思います。たとえば、長野県で成功したら、次は同じ商品を新潟県でも売る。でも、これは進化ではなく、拡大ですよね。拡大も必要ですが、それだけでなく、一人ひとりの顧客が次は何をほしいと思っているのかというインサイトを拾って、応えていかなければならない。これが進化です。
――「インサイトを拾う」というのは、言うのは簡単ですが、実際には難しいと思います。
村瀬 社員全員が市場に目を向けて、インサイトを拾う意識を持つことですね。私が「これがインサイトだ」と決めるものではないし、企画担当者が決めるものでもありません。役職や勤続年数も関係ない。経験のない社員のほうが、顧客に近い目線でインサイトを拾えるかもしれません。あとは、拾ったインサイトから生まれたアイデアが、商品を作る担当者にきちんと伝わるシステムがあればいい。
今はSNSが普及していますから、たとえば、どこでどんな人がどんなことをツイッターでつぶやいているのかを調べることでもインサイトを拾えます。
更新:11月22日 00:05