2017年05月29日 公開
2023年01月25日 更新
「エアビーアンドビーは、ただの会社でも、仕事でもない。『ムーブメント』なのです。あらゆる障壁を打ち崩し、誰もがどこにいても『ここが自分の居場所だ』と感じられるような世界をつくることを夢見て、エアビーアンドビーの社員たちは日々、このオフィスに来ている。それが、エアビーアンドビーが他社と一線を画す点なのです。」
同社は全世界19カ所にオフィスを持つが、グローバル規模で「社員エクスペリエンス」を取り仕切るマーク・レヴィ氏の一言が強烈に心に残った。
エアビーアンドビーの誕生は、共同創業者であるブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアが、若きデザイナーとしてサンフランシスコのフラットで共同生活をしていた時まで遡る。2007年のことだ。
産業デザインの国際カンファレンスがサンフランシスコで行われた際に、リビングルームにエアベッドを3台置き、簡単な朝食つきの簡易宿泊施設として遠方からの参加者に提供するというアイデアを二人は思いついた。ブログで宣伝を出したところ、一人あたり80ドルのリスティングに瞬く間に買い手が見つかり、これがエアビーアンドビーのビジネスの始まりだったという。
サンフランシスコの高い家賃に窮している二人の若者が始めたビジネスは、自分の家やアパートの中に「空き部屋」を持っている人と、旅行者など「滞在先」のニーズを持つ人たちがお互いを見つける「場(プラットフォーム)」を提供するものだった。しかし、ただのマッチングサイトと一線を画したのは、部屋を貸し出す人たちには、ただ単に追加の収入の機会を得るというよりは、他の土地からやってくる人たちと触れ合う機会を与え、また、部屋を借りる人にとっては、旅行者でいながら、まるでその土地に「暮らす」かのようなユニークで夢のある体験を提供するというビジョンだったのだ。
そのビジョンを実現するための決め手は「人」であると彼らは言う。
企業文化を定義するものとして四つの「コア・バリュー(中核となる価値観)」を定めているが、応募者の適性を判断するために、一般の採用面接の中心である「スキル・フィット(経歴・技能適性)」だけでなく、「カルチャー・フィット(文化適性)」に徹底的にこだわっている。「カルチャー・フィット」を判断するひとつの物差しとなるのが、会社の「コア・バリュー」を共有できる人であるか否かだ。
エアビーアンドビーが徹底的にこだわっている「採用」については、エアビーアンドビー・ジャパン、代表取締役の田邉さんが自身の体験を話してくれた。2013年に田邉さんが同社のシンガポール法人に入社した際、2カ月にわたり15人以上と面接を繰り返したという。それまで多くのグローバル企業で働いてきた田邉さんも「こんなに慎重に、手間と時間をかけた採用プロセスは経験したことがない」と心底驚いた。
それも初めのうちは経歴や技能を見るごく普通の採用面接だったのだが、そのうちにまるで友達と話をするようなスタイルの面接になってきた。
後にそれが「コア・バリュー面接」であったと田邉さんは知るのだが、「会社のビジョンを共有し、一緒に働けるような『人間性』を持った人なのか」どうかを見極めるための面接だったのだ。当時の社員数は世界中で600人程度。最後は必ず創業者の一人が面接をすることになっており、田邉さんはCEOのブライアン・チェスキーと面談した。
「会社を拡張するにあたって、決して『スピード』を重視するのではなく、『同じ価値観を共有できる、会社の核となる人材を見つける』ことに創業者たちの熱意と意思が注がれていたのです。だからこそ、今は、そうした『コア・バリュー』を体現する人たちがインフルエンサーとなり、企業文化を育み、維持する力となっていると感じます」と田邉さんは語る。
エアビーアンドビー・ジャパン代表取締役 田邉泰之氏(写真提供Airbnb)
社員数3,000人超の会社となった今ではさすがに15回というわけにはいかないが、少なくとも2、3回のコア・バリュー面接を通し「カルチャー・フィット」を徹底している。本社の特別な研修を受けた人だけが「コア・バリュー面接官」になれるそうだ。
それも、たとえば日本法人で採用を行う場合でも、日本の面接官だけでなく、シンガポール法人の面接官やその他のオフィスの面接官も参加し、視点が偏らないように努めているという。191カ国で営業展開するグローバル企業らしい配慮だと感服させられた。
更新:11月22日 00:05