2017年05月29日 公開
2023年01月25日 更新
いかに企業文化を重視している会社でも、コア・バリューの定義から数年が経つと「中だるみ」が生じてくるものだ。企業文化の「創成期」に直接関わった人たちに対して、「お膳立てされた」文化の中に入ってきた人たちの数が増え、社内に温度差が生じてくる。企業文化の危機だ。
熱狂的なファンを持つことで知られる米ザッポスのような、優れた企業文化で知られる会社でも、そのような危機を経てきた。ましてや、エアビーアンドビーのように短期間で急速な成長を遂げてきた会社は、どのような困難に直面してきたのだろうか。企業文化を「新鮮に」保つためにいったいどのような工夫がされているのだろう。
「企業文化に対する私たちのアプローチは『社員一人ひとりが率先する』ことです」
社員一人ひとりのコミットメント・レベルを、「自分こそがエアビーアンドビーの企業文化の発信者だ」と考えるまでに育むこと、これがエアビーアンドビーが目指しているところなのだという。
会社の日々の生活に「企業文化やコア・バリューが息づく」ようにする、そんな環境をつくる仕事を任せられた「グラウンド・コントロール」と呼ばれる人たちがいる。
エアビーアンドビーの社内の「用語」の多くは航空用語を借りたものになっているが、「グラウンド・コントロール」は管制塔。レヴィ氏が率いる従業員エクスペリエンス担当部門に所属し、職場環境や社内コミュニケーション、報奨、誕生日や入社記念日などのお祝いごとを取り仕切る。サンフランシスコの本社には10人程度の「グラウンド・コントロール」チームが、そして、世界19カ所にある各オフィスにも、少なくとも一人は「グラウンド・コントロール」担当者がいるそうだ。
また、新しいオフィスをオープンする際には、必ず「ランディング・チーム(着陸チーム)」と呼ばれる立ち上げチームが結成される。このチームの使命は新たなオフィスにエアビーアンドビーの企業文化を移植することだ。
チーム・メンバーは異なる機能分野から抜擢され、それぞれ異なる職を持っているが、立ち上げ期間には新しいオフィスに配属され、オフィス内の物理的な環境を整えたり、地元チームの採用面接を行なったりする。一定の期間が終わり、新規オフィスの状況が落ち着いたら、ランディング・チームはそのオフィスの日々の運営を担うリーダーシップ・チームに引き継ぎをし、元の部署・ロケーションに戻る。
新規オフィスが存在する国や市場の文化や慣習に敏感でありながら、エアビーアンドビーの企業文化を熟知した人が抜擢され、「ランディング・チーム」として活躍するそうだ。たとえば、中国にオフィスをオープンするのであれば、アメリカの大学を卒業し、アメリカ国内のエアビーアンドビーで働いたことのある中国人社員が抜擢されて「ランディング・チーム」として送り込まれるといったようにだ。
社員が率先して企業文化/コア・バリューを守り立てていくという姿勢は、社内イントラネットの活用によるところも大きいようだ。
社員数が多くなり、社内の全員がお互いを「知る」ことが難しくなってきたり、また、地域的に分散されていて社員間の「触れ合い」が難しくなってきた時に、企業文化育成/維持の道具として社内イントラネットが導入されることがよくある。
エアビーアンドビーでは、イントラネットで社員の誕生日や入社記念日などの「お知らせ」をしたり、また、各社員の「プロフィール・ページ」を設けて、世界中の社員が地域の障壁を超えて、所属部門・部署や職種にかかわらず交流できるようにしている。イントラネット上の掲示板は、社員同士が情報交換をしたり、イベント告知をしたりなどといったことにも使われるが、会社の中の振る舞いについて注意を促したりするのにも使われている。
使い終わった食器が公共のスペースに放置されている写真と共に「自分の後始末は自分でしましょう!」などと呼びかける掲示があるそうだ。これは別に社内に風紀委員がいるのではなく、一般社員が気づいて自発的に呼びかけているのだ。コア・バリューの「ホストであれ」――触れ合う人を皆「ゲスト」と捉えて、「みんなの居場所」をつくるように振舞おう――ということを実践しているということだ。
(5月30日公開予定の下に続く)
更新:11月22日 00:05