2017年06月28日 公開
2017年06月28日 更新
人の命を預かる職業である医師。中でも、ちょっとした判断ミスや手元の狂いが患者の命にかかわる外科医は、ミスが許されない立場だが、急患などにも対応する多忙な立場だ。ミスを防ぐために何を心がけているのか、脳神経外科医で、国立病院等の勤務経験も持つ菅原道仁氏にお話をうかがった。《取材・構成=杉山直隆、写真撮影=長谷川博一》
脳疾患の専門医である菅原道仁氏。国立国際医療センターや北原国際病院で、18年間にわたりくも膜下出血や脳梗塞など緊急を要する手術を多数手がけてきた。
「朝も晩もなく、救急車で運び込まれてくる患者さんを、1~2時間後に手術する日々を送ってきました。脳外科の手術は助手や看護師など5人チームで行なうのですが、執刀するのは医師一人です。4~5時間、顕微鏡を覗き込みながら、数ミリレベルの作業をし続けます」
まさに命を預かる仕事。菅原氏は、手術に対してはとことんネガティブに考えるという。
「いつも『次は失敗するかもしれない』という意識を持って準備をし、手術に臨んできました。さらに、手術前には心配な要素を挙げられるだけ挙げておきます。
もちろん、普段から学術書で学んだり、手を緻密に動かすトレーニングをしたりと、実力を高める努力をすることも大切。『少しくらいミスしても大丈夫でしょ』と楽観的に考えていると、こうした準備や努力を怠ってしまい、取り返しのつかないミスを犯すことになるからです」
ただ、いざ手術に臨む際は、意識をパッと切り替える。
「完璧主義に陥らず、小さなミスをしても引きずらないこと。手術中はそのような意識を持つようにしていました」
無事に成功した手術でも、プロから見ると、手術結果にかかわらない小さなミスをしていることが少なくないという。
「脳外科手術でいえば、『脳動脈瘤につけるクリップを一つ余分につけた』とか、『三つ選択肢があった中で、時間がかかるほうを選んだ』といったことですね。
もちろん、こうしたミスもないほうがよいのですが、これを気にして引きずったりすると、次の工程に対する意識がおろそかになり、致命的な医療ミスの引き金になります。
重要なのは、『患者さんを治す』という目的を達成すること。それができれば、100%綺麗で完璧な手術でなくてもかまわない、というわけです。
あまりに自分にプレッシャーをかけると、緊張して、手が動かなくなりますからね。手術で大切なのは、心に余裕を持つこと。そのためには、ネガティブシンキングとポジティブシンキング、両方のバランスをとることが重要だと思います」
更新:11月22日 00:05