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手術でミスをしないために「集中力」は不要!

2017年06月28日 公開
2017年06月28日 更新

菅原道仁(脳神経外科医)

「集中しよう」とすると逆に失敗する

繊細な手術を長時間続けるには、極めて高いレベルの集中力が必要ではないか、と普通は考えるだろう。ところが、菅原氏は、「過度な集中力は不要。それどころか、ミスの原因に成りえる」という。一体どういうことだろうか。

「集中力とは『一つのことに没頭する力』のことだと思いますが、手術中は目の前の作業に没頭してはいけません。血圧などの数値や患部以外の場所の変化など、さまざまなことに気を配らなければならないからです。
何かにたとえると、手術は、クルマの運転のようなもの。まっすぐに走ることに気を取られていると、周囲の車や歩行者の状況、信号などが目に入らなくなります。これは、すごく危険なことですよね。
また『集中しよう』と考えると、身体がこわばって、手がスムーズに動かなくなる。ミスを防ぐという観点から言えば、百害あって一利なしです」

手術でミスを防ぐためには、集中力よりも「注意力」が重要だと、菅原氏は言う。

「もっといえば、『注意を散漫にすること』が大切。そうすると、さまざまな変化が飛び込んできて、臨機応変に対応できます。注意を散漫にするためにも、手術中は、心の余裕が必要です」

 

患者にもVTRを共有し緊張感を保つ

「小さなミスはOK」とはいっても、ミスはできるだけ減らすに越したことはない。そのために菅原氏が意識して行なっていたのは、「フィードバック」を受けることだ。

「ミスの中には、自分では気づかないものもあります。それに気づくためには、第三者に客観的に見てもらうことが欠かせません。
私が勤務していた病院では、手術の様子を撮ったビデオを医師が短く編集し、週1回のカンファレンスの時に、他の医師に見てもらっていました。自分のミスを指摘されるのは、うれしいものではありませんが、『改善点』ととらえ、真摯に受け止めていました」

さらに、手術のビデオに関しては、手術を受けた患者本人や家族にも見せていたという。

「患者さんたちに安心感を持ってもらうだけでなく、自分が良い緊張感を保つためでもあります。
最もミスが起きやすいのは、『慣れてきた頃』。若手を見ても、新人医師よりも少し慣れてきたぐらいの入局2~3年目の医師のほうが、考えられないような初歩的なミスをしていることがありました。慣れが油断を生むのは、ベテラン医師も同じ。患者さんに術後のビデオを見せることで、その油断を消し去っていたわけです」

一方、他の医師のカンファレンスを見ることも重要だが、その際に注目するのも「ミス」だという。

「成功した手術よりも、患者さんの病状が重く、救えなかった手術を、とくに注意深く見ていました。うまくいかなかったことのほうが、たくさんのことを学べるものです」

 

体調を整えるには「パッシブレスト」を!

4~5時間に及ぶ手術を行なうには、体調を万全に整えておくことも重要だ。急患に対応することも多く不規則な中でも、「休める時はしっかり休む」ことを心がけていたという。

「休息には、身体を静かに休めるパッシブレストと、身体を動かすことで心身を健康にするアクティブレストがあります。個人的には疲れていたとしても、アクティブレストをするようにしていました。外に出て外食やスポーツを楽しむと、リフレッシュでき、仕事にもプラスに働いていました」

休日にアクティブな行動をする効能はもう一つある。それは、仕事のヒントが得られることだ。

「実は『小さなミスがあっても、目的を達成できればいい』という考えに至ったのは、ゴルフをしているときでした。少ない打数でカップに入れることができれば、ボールをバンカーに入れようが、ラフに入れようが、関係ない。そう考えると、バンカーに入れてしまったとしても、イライラしないで次のプレーに集中できます。仕事のことをすっかり忘れているときほど、意外な発見が得られるものです」

 

《『THE21』2017年6月号より》

著者紹介

菅原道仁(すがわら・みちひと)

脳神経外科医/菅原脳神経外科クリニック院長

1970年生まれ。杏林大学医学部卒業。クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門とし、国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。2015年、東京都八王子市に菅原脳神経外科クリニックを開院。脳の病気の予防の診療を中心に医療を行なう。体育協会公認スポーツドクター。抗加齢医学専門医。

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