2016年08月13日 公開
理系マーケターとして築いてきた確率理論に基づいたマーケティング思考。森岡氏はそのノウハウを3冊の著作を通じてすべて開示している。『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』『確率思考の戦略論』である。
「実は1冊目はハリー・ポッターを成功させるためのマーケティング企画でした。この本を書いた2013年10月当時、ハリー・ポッターを翌年夏にオープンすることは決まっていましたが、USJは“地方の一遊園地”程度の認知度しかなかった。そこでまずはメディアの注目度を上げるために、USJがいかに成長企業であるかを暑苦しいほど語りました(笑)。ハリー・ポッターの宣伝もたっぷり入れて印象づけました。
しかし、本が売れなければ意味がありません。発売から1カ月以内にベストセラーに持っていくために、メディアや大型店舗が出しているビジネス書ランキングを統計的に分析して、いつ、どの店のサンプルが重視されているかを予測するモデルを作りました。それがほぼ当たり、ベストセラーを作ることに成功しました。
つまり、ハリー・ポッターを成功させるためにメディアの人たちの意識を変える、そのために本を書く、という順番で戦略を組み立てたわけです。他にもいろいろなイベントを仕込んで、オープン当日には30台以上のテレビカメラが並ぶというイメージどおりの展開になりました。
おかげさまで1冊目がその後も売れ、2冊目、3冊目を書く機会をいただきました。そこで2冊目は、個人も会社も成功するためのカギである“マーケティング思考”を初心者でもわかるように書き、3冊目は、私が導き出した、数学の法則を使って成功の確率を上げるノウハウを書きました。巻末には数式やその使い方も細かく書いてあります。ほんの少し難解かもしれませんが(笑)、これを読めば、なぜUSJは毎年集客が増えているのかがわかります」
森岡氏はマーケティングの考え方を人生そのものに応用し、うまく使ってほしいと話す。
「マーケターに限らず、ビジネスマンであれば誰にでも役立つものだし、もっと言えば時間の使い方や生き方を考える際にも使えます。恋愛に悩む若者なら消費者という言葉を彼や彼女に置き換えるだけで何をすべきかが明確になってくる。上司を味方につける術もわかります。そういう意味では、マーケターではない人にこそ知ってほしい考え方です」
開業から15周年を迎える今年、USJはどこへ向かおうとしているのか。
「昨年11月に経営権がゴールドマンサックスなどのファンドからコムキャストNBCユニバーサルへと移ったのに伴い、戦略の見直しを行なっています。まずは大阪での集中投資を基本に考えています。使える資金の額が大きく上がっているので、超大型アトラクション投資計画を作っているところです。関西域外から来場者を呼び込むためには、良いものを選んで投資すること。ハリー・ポッターに勝るとも劣らない大型投資をバンバン起こします」
その原点にあるのは“消費者視点”である。
「マーケターは消費者の代理人。どんなに成功を重ねても、消費者視点という原点は忘れてはいけない。マーケティングのリーダーシップがきちんと機能していれば、大きな投資にも回収のサイクルがうまく回り、会社はさらに成長するでしょう」
世界第4位の集客数を誇るテーマパークへと変貌を遂げたUSJだが、「テーマパークに現状維持はない。常にバーは上がっていきます」と森岡氏は言い切る。次はどんなミラクルを見せてくれるのだろうか。
《『THE21』8月号より》
《取材・構成:社納葉子 写真撮影:清水 茂》
更新:11月25日 00:05