2015年12月04日 公開
2023年05月16日 更新
複雑な仕事でも、その本質を、フレームを使って「紙1枚」にまとめること。それがトヨタの強さの秘密である。それを進化させた手書きの技術は、誰もが今日から実践できる思考整理の「最終兵器」だ。トヨタ出身で、「紙1枚」メソッドの伝道者として活躍する浅田すぐる氏に、そのノウハウをうかがった。
もともと私は思考の整理が苦手でした。トヨタで新入社員だった頃は、上司に「この書類は何?」と説明を求められても即答できず、「ちょっと時間をいただけますか」と答えてしまうようなタイプだったのです。
ところが1年くらい経つと、いつの間にか、「この書類は何?」と聞かれたら「こういうことです。現状はこうで、今後の予定は……」とすぐに説明できるようになっていたことに気がつき、自分でも驚きました。
「この1年、自分は何をやってきたんだろう?」
そう考えて思い当たったのは、「考えたことを1枚の紙にまとめる」という動作を延々と繰り返してきたこと。業務で使う書類はすべてA3またはA4の紙1枚にまとめるというトヨタの企業文化が、私の思考整理能力を高めてくれていたのです。この経験をきっかけに、誰でも「紙1枚」で思考が整理できるようになる方法を研究し始めました。
そもそも、紙1枚にまとめるメリットは何かというと、次の3点が挙げられます。
(1)まとめる過程で自分の思考を整理できる。頭がごちゃごちゃのままコミュニケーションはできない。
(2)聞き手が理解しやすい。なんの資料もナシで、あるいは5枚も10枚もある資料を見せながら説明されると、「この人は何を言いたいのだろう?」と、聞き手は理解に苦労する。1枚にまとめた紙があれば、見た瞬間に大枠が理解できる。
(3)結果として、思考を紙1枚にまとめておけばコミュニケーションの時間が短縮できる。
では、すべての書類を紙1枚にまとめるためには、どうすればいいのか。
トヨタでは、たとえば会議の議事録であれば、1枚の紙の中に「目的」「現状」「課題」などの見出しをつけた空欄=フレームを作って、それを埋めていく、という方法をとっていました。それを各職場で真似していただいてもいいのですが、職場ごとに合わせてアレンジする必要があるでしょう。
そこで私は、「トヨタの1枚」を研究して、誰でもそのまま使えるように、その本質だけを抜き出した「エクセル1」というフォーマットを考案しました。
「エクセル1」を使うために必要なのは、紙1枚(通常はB5かA5のノート)とペン(緑、青、赤の3色)だけです。あとは、当然ながら、考えるテーマを用意してください。
手順は簡単です。
まずは、紙に緑のペンでフレームを作ります。紙を横にして、上下の真ん中、左右の真ん中に線を引き、さらに縦に2本の線を引けば、2×4で8個のフレームが完成。これが基本形です。左上のフレームに日付けとテーマを書き込みます。
次に、ペンを青に持ち替えて、残りのフレームに、テーマに関して思い浮かんだキーワードをどんどん書き込んでいきます。
すべての枠が埋まったら赤いペンを持ち、キーワードを見ながら考えをまとめていきます。と言っても、難しいことはしません。○や×をつける、矢印でつなぐといったやり方で、書き出された情報に対する思考を深めていくだけです。これは、普段、頭の中でもやっていることですが、それを紙の上でやることで、思考が拡散せず、集中できる。結果、自然と考えがまとまるわけです。
「エクセル1」を紹介すると、「同じことをパソコンでやってはいけませんか?」と質問されることがあります。いけないということはありませんが、お勧めはしません。手書きでやるのにはちゃんと意味があります。
画面上でチェックしているときは気づかなかったのに、プリントアウトして見直したら文章に間違いがあった、という経験は誰にでもあるはず。同じ情報に接するときでも、パソコンなどの画面より、紙で見たときのほうが、前頭前皮質が活性化するという研究結果があります。とすると、パソコンの画面を見ながら考えるのは、わざわざハンディを背負うようなものです。
「毎回、フレームを描くのなら、コピーすればいいのでは?」という方もいます。線を引くのが面倒でやらなくなるくらいなら、そうしてください。ただ、線を引く動作がスポーツでいうウォーミングアップになり、「よし、思考を整理するぞ」という脳のチューニング効果を持っていることは確かです。また、テーマや状況によってフレームの大きさを変えられるということからも、手書きがお勧めです。
更新:11月25日 00:05