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非正統派マーケターが導き出したUSJ成功への道

2016年08月13日 公開

森岡 毅(ユー・エス・ジェイCMO)

 

センスに自信がないから「数字」に頼った

 森岡氏は「理系の人」である。小学生の頃から筋金入りの数学好きで、入試科目が数学だった神戸大学経営学部に進んだ。いつしか思考そのものも数学的になったと話す。

「世の中のすべての現象は数値に置き換えて計算できるんです。たとえば、人間はみんなサイコロを持っていて、毎日事あるごとに振っているわけです。その中に『テーマパークに行く』というサイコロがある。それを1年間に何人が振るか、1人当たり平均何回振るか、そのときに出る目がどのテーマパークなのかという確率のオッズがすべてわかっていたら、いつ、どこに何人来るかがだいたいわかります。確率論なんです。  

 ところがマーケターになる人って、みんな文系なんですよ。一応、小中学校で算数、数学をやりますが、私立大学の商学部や経営学部って文系ですよね。なので大学受験レベルの数学すら勉強せずに入学する。実際、僕の周囲には早稲田や慶應をはじめとする私大出身のマーケターが多い。優秀ですが数学が得意とは言えません」  

 とはいえ、「マーケターに数学は必ずしも必要ない」とも言う。

「僕はもともと数学しかできなかったから(笑)。文系のマーケターたちは学生時代、おしゃれな服を着て、おしゃれなクルマに乗って、おしゃれに合コンして楽しんでいた。マーケターになっても、彼らはセンスや感覚でトレンドを読むというファジーな世界で仕事をしています。理系少年だった僕にはそういう強みがまったくないので、逆に世の中のすべての現象を数値に置き換えて計算するという、いわば自分の土俵でマーケティングをやるノウハウをずっと研究してきたわけです」

 P&Gでのマーケター新人時代にはセンスのなさに苦労したと笑う。

「かわいいパッケージを作れと言われても、何がかわいいのかがわからない(笑)。3つある候補のうち、僕が一番いいと思ったものが一番ウケないなんてことはザラでした。通常、センスに優れた人がマーケターになるんですが、僕はセンスがポンコツだから数学に頼っているんです。マーケターの中ではマイナーです」

 

「どう闘うか」より「どこで闘うか」を考える

 そう語る森岡氏だが、直感やひらめきは重視する。

「最初のひらめきは、得てして数学とは関係のないところですね。たとえば、ユニバーサル・オーランド・リゾートでハリー・ポッターのアトラクションを実際に見たとき、これならいけるんじゃないかという仮説が頭の中でピン! と響きました。そこから僕が他のマーケターと違うのは、直感でひらめいたものをできるだけ客観の世界に変換し、いろいろ計算してみるところです。

 なぜ直感やひらめきを大事にするかといえば、人間の意思決定は非常に感情的なものだからです。多くの人は、物事を情緒的に捉えて感情的に反応します。人間を相手にする集客ビジネスには、ひらめきや直感があるほど有利になります。しかし、直感に頼りすぎると人間は大きな失敗を犯します。そこで直感やひらめきでなんとなく見えてきた“行きたい場所”に対して、そこへたどり着くためのストーリーを考えます。これを戦略と言います」

 ゴールにたどり着くために、森岡氏はまず意識をゴールに“飛ばす”。

「富士山に登ろうと思ったとき、青木ヶ原の樹海から富士山を見上げても道筋は見えないけれど、富士山の上から見下ろせば『あそこから登れる』『こっちは崖が崩れそうだ』とよく見えます。同時にゴール地点で見るべきポイントもわかる。戦略を立てる際には、何をゴールとするかを認識しておくことが大事です。

 たとえば僕がUSJに来てまず考えたのは、当時700万人台だった集客を3年以内に1,000万人にするにはどうすればいいのかということでした。そのとき、1,000万人を達成している状態を頭の中で想像しているんです。関西から何人、関西以外から何人来ているか。独身女性やファミリーの割合はそれぞれどれくらいか。年間パスの割合や認知率、そのときのUSJのコアなイメージは? さらにそれを実現するためのアトラクションはなんだろう、といった具合にゴール地点から今度は具体的に落とし込んでいく。

 僕の場合は頭の中で数式の空欄を埋めているわけです。xやy、zという変数のバランスを変えては計算し、最高のバランスを導き出す。同時に1つひとつの変数を埋めていくため、テレビコマーシャルやウェブPRなどのマーケティング戦術を作っていきます。そうやって当てはめていけば、自ずと何をすべきかが見えてきます。

 数学は嘘をつきません。嘘をつくのは数字を解釈する自分の脳です。想定を間違えたり、想定しきれなかったり。けれど数学自体は決して嘘をつかない。

 よく、どうしてやることなすこと全部当たるんですか? と言われますが、負けそうな戦は避けて、勝てる戦だけを見つけているからです。『どう闘うか』より『どこで闘うか』です。勝ち進むための場やルートを、数学から導き出される確率思考が教えてくれる。数学を知っていると、勝つための法則を見つけられるのです」

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著者紹介

森岡 毅(もりおか・つよし)

[株]ユー・エス・ジェイ CMO 執行役員 マーケティング本部長

1972年、兵庫県生まれ。96年、神戸大学経営学部卒業後、P&G入社。日本ヴィダルサスーンのブランドマネージャーや北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを歴任。2010年に㈱ユー・エス・ジェイに入社し、革新的なアイデアで業績をV字回復させる。12年より現職。著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川書店)など。

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