2016年06月01日 公開
2021年08月23日 更新
ノアの箱船が流れ着いた聖地アルメニアですが、地下資源に恵まれません。猿でも儲けられる天然資源がないため、独裁者が育たぬ風土です。
目下の悩みは、やはりエネルギー。石油と天然ガスをアゼルバイジャンから輸入している身分なのに、飛び地をめぐって戦争してしまう無鉄砲。長らく兵糧攻めを喰らっています。3カ月間も小・中・高校を休校したほど、電力不足に陥りました。
やむなく、停止していた原子力発電所を再稼動。
実はこの再稼動、対岸の隣町の火事くらいに問題があります。
EUが金を払うから閉鎖してくれと懇願する、世界一危険な原子力発電所なのです。
地殻が不安定で地震が多いにもかかわらず、お寒い耐震設計。格納容器なし、緊急炉心冷却設備なしというトリプルピンチ。
しかも首都エレバンからたった18kmという、無駄に交通至便な原子力発電所。
有事の際には首都が壊滅しかねないのに、電力の40%以上もまかなっている大黒柱。勢い余って、隣国に電気を輸出し始めたので、止めたくても止めらないし、止めたくないのです。
イランとの国境にほど近い町、ゴリス。
尖った奇岩がニョキニョキと生え、そこかしこに洞窟住居の穴が覗く奇景です。
洞窟住居と近代建築のコラボレーション。文字通り、自然との一体。
どこに世界一の商魂を隠してしまったのか、まったく商売っ気のない人たちが住みます。
呼び込みすらしない、化石のように固まったタクシードライバー。
買い物をしても、
「日本から、よお来なさった。お金はいいから持ってけ」
お代を受け取りません。
パン屋にいたっては、看板すら掛けず、倉庫にしか見えない店構え。
店の真ん中に、半身が床に埋まった土釜。
熟女と呼ぶには艶気のないお母さんが、釜で炭を焼きます。
炭火が釜を熱したころ、先ほどのお母さんが丸まったパン生地をコネます。還暦前後のおばあちゃんがそれをウス~く伸ばし、釜の内側にピタっと貼り付け。若妻風のお姉さんが、焼けたパンを鉄の棒でクイっと取り出す手順です。
“コネッ、ウスッ、ピタッ、クイ”の無言の呼吸。パントマイムの三連奏というのか、舞踏のような艶やかさ。
拍手もののパフォーマンスだというに、焼き上がった巨大なパンは、たったの10円。美味過ぎるのに、安過ぎます。
後日知ったのですが、ボクらが見たパンは、“ラバシュ”と呼ばれるユネスコの無形文化遺産でした。
ここでひと言、店主に申し上げたい。
せっかくの文化遺産なのだから、もう少しドラマチックに演出してくれませんかね。
歌えとは言いませんから、せめて窓ガラスくらい磨いてほしかったし、ほらを吹いてもいいから宣伝してほしいのです。
笑顔のひとつもあれば、こちらもチップを弾みますし。
少しは商売上手の片鱗をみせてくれないと、ユダヤ人も浮かばれません。
洞窟住居の中。右側手前は、ドラム式洗濯機。
更新:11月23日 00:05