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盗られる前に盗れ!恐るべきメキシコ!(メキシコ)

2015年10月06日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(1)石澤義裕(デザイナー)

その働き方で本当にいいのか!?

基本的に「頑張っているビジネスマン」にスポットを当てている『THE21』だが、視線を広く世界に向けてみると、「え、その働き方でホントにいいの!?」と思わずツッコミたくなる人々も数多くいる。
日々の仕事の悩みが馬鹿らしくなるような「脱力系」ビジネスマンの仕事ぶりを、世界中を旅しながら働くデザイナーの石澤氏がお送りする。
第1回は太陽の国メキシコ!

 

メキシコの経営術「盗られる前に取れ!」

妻と世界一周に出かけたら、いつの間にか10年も経ってしまった某デザイナーです。インターネットにさえ繋がれば、世界中どこにいても仕事を受けられるノマドワーカーとして、死なない程度に稼ぎながら海外を放浪しています。訪問国は未だ100カ国に届かない超スローペースですが、世界全国津々浦々の町角で見た、「働く人々」をレポートします。

シロクマの看板が立つ世界最北端のキャンプ場から、うら寂しい南の果てのキャンプ場まで。どこへ行ってもナニを見ても、日本人の勤勉さと生真面目さ、徹底したサービスぶりに敵うものはないと気付かされますが、海外における非常に残念な仕事の現場も、何かしら腹の足しになることでしょう。

第一弾は、10年間に4回も年越しをしたメキシコからお送りします。

首都メキシコシティの中央広場ソカロから、地下鉄で数駅離れた一角に小さな屋台通りがあります。深夜に近所を歩いていたら、パトカーに

「危ないから、車に乗れ!」

と命令される程度の安全地帯です。

そこでアミーゴが、タコスの屋台を経営しています。

フェルナンデス氏、30代後半の独身。背はさほど高くないものの、広く逞しい肩をしたラティーノです。彼は3カ所の屋台を、母親と弟の三人でシフトを組み、切り盛りしています。

それぞれの屋台はふたりいれば間に合うのですが、本店は早朝から深夜まで20時間も営業しているので、アルバイトを数名雇っても人手が足りません。慢性的人手不足状態が続き、フェルナンデスはいつも寝不足です。

「新しくメキシコ人のスタッフを雇えば」と提案しても、「雇っても、どうせすぐに辞めてしまうから」と消極的です。

そうなんです、メキシコ人は実に鮮やかに辞めるのです。

宿では、クリスマス休暇に出たお手伝いさんが、何の連絡もなく二度と戻って来ませんでした。その次のお手伝いさんも霧のように消えました。

 

ある日、フェルナンデスの母親が暴走しました。

彼女は誰にも相談せず、独断でバッタ屋からヘアードライヤーを数百台も仕入れたのです。よく金額を覚えていませんが、仕入れ価格はたしか屋台の1カ月分の売り上げに近かったと思います。

フェルナンデスが激怒するかと思いきや、微塵も怒りません。さすが生粋のラティーノ、超マザコンなのです。

翌日からヘアードライヤーの営業マンになった彼は、お店番と連日の出張販売で疲れ果て、とうとう若い日本人を雇いました。日本人なのでメキシコ人より遥かに高い給料を払わなければなりませんが、それでも任せるに足る仕事があるのです。

それは、売上げ金の回収です。

2、3時間おきに屋台をまわって売り上げ金を回収しないと、遠慮会釈なく従業員のポケットに入ってしまうのです。

仕入れたトルティーヤ(パンのようなもの)と売れ残ったトルティーヤを計算すると、横領金額は瞬速で判明します。あまりにもバレバレの犯行なので普通の感覚では横領できないはずなんですが、メキシコ人のメンタルティたるや、そんなヤワなものじゃないのです。

金額が合わないと指摘しても、「知るか!」と一笑されるだけです。

そんな国民性ですから、メキシコではお店を開くときに、店員にお釣りを預けません。そのまま逃げちゃいますから。

盗られる前に取れ!

恐るべしメキシコ!

 

ちなみに売れ残ったタコスの肉は、ボロ布を巻いて屋台の下に置くだけです。引き出しも戸もありません。もちろん冷蔵庫なんて気の利いたものはありません、盗まれますから。

犬とか猫とか鼠とかいろいろいまして、衛生的に問題があるとかないとか以前の状態です。

恐るべしメキシコ!

(冒頭の写真:土曜日の青空市に出るタコスの屋台。ここのタコスは肉が大きいのがウリ!
タマネギやトマト、コリヤンダーを刻んだサルサは無料)

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著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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