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物価上昇はまだまだ続く...元モルガン銀行東京支店長「日銀が金利を上げられない本当の理由」

2026年01月05日 公開
2026年01月30日 更新

藤巻健史(元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)在日代表兼東京支店長,前参議院議員[2期])

日本のハイパーインフレや国力の低迷、日銀の過ちがもたらす危機について、長年警鐘を鳴らし続けてきた元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)東京支店長の藤巻健史氏。連載第2回前半の今回は、専門家ならではの実質金利の視点や、バブル期との比較から、現在にいたるまで続く物価高騰の理由を解説していただく。(取材・構成:坂田博史)
※本稿は、『THE21』2026年2月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の前編です

 

なぜ物価高騰が続くのか金利を上げられない日銀

近年、日本では物価の高騰が続いていますが、私はこうした物価上昇が、今後も長く続いていくのではないかと危惧しています。

物価高騰が続くと考える理由は2つあります。 その1つが「実質金利が極端に低い」ことです。 実質金利は、名目金利からインフレ率(物価上昇率)を差し引いて計算されます。現在の政策金利は0.5%、インフレ率が3%だと仮定すると、0.5‒3=‒2.5、実質金利はマイナス2.5%と非常に低い。私はこれほど低い実質金利をかつて見たことがありません。

実質金利を低く抑える政策がとられるのは大不況のときです。日本のインフレ率は、2022年4月以後、これまで3年以上、3%前後で推移してきました。物価が上昇しているときに、実質金利を低く抑える政策がとられることはありません。低金利政策は、景気が悪いときに、「物価を上げよう」「景気を良くしよう」ととられる政策なのです。

金融政策を司る日本銀行の最大の役割は、物価上昇、つまりインフレをコントロールすることです。かつての日銀は、物価が上昇しそうだと思ったら早め早めに予防的に政策金利を少しずつ上げ、金融引き締めに動きました。金利を上げることで、企業や個人が資金を借りにくくなり、経済活動が抑制されることが期待できるからです。

しかし、現在の日銀は理屈ばかりを言って、いつまで経っても金利を上げようとしません。その結果、マイナスの実質金利が続いており、この状況が続く限り、物価も上昇を続ける可能性が高くなります。

 

日銀は世界で断トツの「メタボで危険な中央銀行」⁉

ではなぜ、日銀は金利を上げないのでしょうか。私は、経済的理由というよりも、日銀の内部事情、日銀の財務の危険性に由来するのだろうと推察しています。上げないのではなく、上げられないのです。

日銀が現在、どれほど危機的状況に陥っているかについては前回詳しく述べましたので、ここでは触れませんが、世界で断トツのメタボで危険な中央銀行となっています。 ちなみに、アベノミクスのとき、「デフレからの脱却」が叫ばれ、インフレ政策がとられました。インフレになれば、景気が良くなると考えられたわけですが、実は逆で、景気が良くなるとインフレになるに過ぎません。

もし本当に、「インフレになれば景気が良くなる」のであれば、公共料金、水道や電気の料金を上げればいいだけです。そうすれば消費者物価指数が上がってインフレになります。 しかし、それで景気が良くなるかと言えば、逆に悪くなるのは火を見るよりも明らかでしょう。要するに、アベノミクスは原因と結果が逆だったために、景気を回復させることができなかったのです。

 

株や不動産が急騰「資産効果」もインフレ要因

日本の物価上昇が今後も継続していく可能性が高い2つめの理由が、「株や不動産など、資産価格が急騰している」ことです。

本来、資産価格は、消費者物価指数の計算に「含まれない」ため、その上昇が物価上昇の直接的な要因にはなることはありません(正確に言うと、消費者物価指数の計算に「持家の帰属家賃」は含みますが、これが物価に影響を与えることはほぼありません)。

ですが、資産価格の上昇が、「間接的」に物価上昇に大きな影響を与えることもあります。わかりやすいのが1985~90年のバブル経済のときです。 当時のインフレ率(消費者物価指数の前年に対する上昇率)は、85年約2.0%、86年約0.6%、87年0.1%、88年0.7%、89年2.3%、90年3.1%と今より低いものでした。

ではなぜ、インフレ率が低かったのに、バブルが膨らみ経済が狂乱したのか。その理由が「資産効果」です。 当時、株価も不動産価格も上昇の一途でしたので、株や不動産をもっている人たちは、その評価額を見て大金持ちになったつもりになりました。そして大金持ち気分で消費を増やす人たちが大勢いたのです。

例えば、「シーマ現象」という言葉がありました。日産自動車の最高級車シーマがバカ売れし、それがニュースになることで日産の株が買われ、株価が上昇。日産株をもっている人は資産が増えたので、大金持ち気分でお金を使いました。こうした循環が好景気を生み、狂乱経済へとつながっていきました。

ところで、先ほど述べたように、景気が良くなればインフレになるはずなのですが、バブル時にはインフレ率が低かった。なぜでしょうか。 答えは、為替にあります。85年に1ドル約239円だったのが、90年には1ドル約145円になりました。5年間で100円近くも円高が進んだのです。円高は大きなデフレ要因ですから、資産効果というインフレ要因を円高というデフレ要因が相殺して、消費者物価指数の上昇率、つまりインフレ率が低く抑えられたというわけです。

現在も、バブルのときほどではありませんが、株や不動産価格が高騰し、資産効果が生じて間接的に物価を押し上げている部分があることは間違いありません。 バブル時と大きく違うのは、円高ではなく円安が進んでいる点です。円高というデフレ要因がないため、資産効果というインフレ要因を相殺するものがない。ゆえに資産効果で今後も物価上昇が続いていくと考えられるわけです。

プロフィール

藤巻健史(ふじまき・たけし)

元米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)在日代表兼東京支店長,前参議院議員(2期)

1950年、東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。米国ケロッグスクールへ社費留学(MBA)、ロンドン支店等を経て米モルガン銀行に転職。在日代表兼東京支店長。その後、ジョージソロスのアドバイザー等を経て参議院議員2期。一橋大学経済学部で13年間、早稲田大学大学院で6年間非常勤講師。日本金融学会所属。

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