2016年01月16日 公開
2023年01月23日 更新
こうした技術は数多くあり、非常に奥が深いと高田氏は言う。たとえば、話の論理構成を作る技術として、やはり世阿弥の言葉を引用して説明する。
「物事にはすべて『序破急』があります。起承転結と言い換えてもいいでしょう。起承転結の順番は、私はどうでもいいと思っています。承起転結でも、結が一番最初に来てもいい。ただ、伝えるためには必ず、こうした論理性が必要です。
たとえばウオーキングシューズを紹介するとしたら、まず『健康のために歩きませんか』という言葉から始める。そして、『今は、平均寿命は長いけど健康寿命が短いでしょう』『みなさん、健康寿命を平均寿命に近づけましょう』『そのためには歩くのが一番』『歩くためにはいい靴が必要ですよね』などと続ける。これがすべて序です。
そして破は、つまり展開です。『自分も歩いてますよ』とか、『このシューズにはこんな機能がありますよ』『歩くときに楽ですよ』……そうして、最後に値段を出すのです」
序破急、起承転結を重視して話を組み立てるというと、さぞや綿密に台本を書き、リハーサルをしているように思える。だが、意外なことに髙田氏は、あまり入念な準備をしないという。
「しないというか、私は準備が下手なんですよ。ただ、それでもなんとかなるのは、長年の経験があるから。だから若いMCには準備はすべきと言っていますし、まだ話し方に慣れていない人は、とくに入念に準備をすべきだと思います。
それがある程度身についたら、今度は『自己流』を出すことが求められます。私もベテランMCには、『自分の個性を作りなさい』と言っています。
ともあれ、私がいつまでも現場にいたら、技術スタッフがかわいそうですよ。リハーサルどおりに動かず、アドリブでとんでもないことをしますから。早く引退してあげないと(笑)」
伝えるというとどうしても、「言葉」の重要性ばかりが取り上げられがちだ。だが高田氏は、言葉だけではダメだと言う。
「『目は口ほどにモノを言う』という言葉もありますが、実際には目も、手も、指も、身体も、表情もしゃべります。そういう非言語の力を活用することが、伝える際には不可欠です。
アメリカの大統領の演説を見ていると、右を見て、左を見て、時に手を大きく広げながら、身体の向きをあちこち変えながら話をしている。これは会場にいる人すべてとその場を共有するためです。あるいはコンサートでは、歌手はステージの端から端まで走り回りますよね。これも身体全体を使って、観客全員を巻き込もうとしているわけです。いくら歌がうまくても、それだけでは観客すべてを巻き込むのは難しい。みんなステージ中を駆け回っていますよね。私がMCをやる際、身振り手振りを大きくしたり、時にはカメラマンに近寄っていったりというアドリブをするのも、そのためです。
また、表情ももちろん重要です。ただ最近、ITが発達してフェイストゥフェイスのコミュニケーションが減ったからか、表情に乏しい若者が増えている気がします。もっと直接の議論の場を設けたり、発言をするような教育が必要でしょうね。表情が変わらないとしたら、それは動物と一緒。人間はやっぱり喜怒哀楽があるからこそ人間なのです」
高田氏は番組の中で、最近話題になっていることを積極的に拾い上げる。これも、視聴者と同じ空気を共有するためだ。
「受け手と送り手がお茶の間でコミュニケーションを取っているような感覚です。先日も、ラグビーの五郎丸さんのあのポーズを番組の中で十回くらいしたら、さすがにやりすぎだと怒られましたよ。でも、それで皆さん笑ってくれたらいいじゃないですか。
逆に、世の中を騒がすような悲しい事件があれば、やはりそれについて言及することもあります。東日本大震災の際もそうでしたが、日本中が悲しい気持ちを共有している中で、自分たちだけそれを無視するわけにはいきません。自分の想いをストレートに伝えさせていただきます。
ただ、その思いがお客様に伝わるかは、自分の人間性そのものが問われると思います。そういう意味ではやはり、『伝える力』を伸ばすにはやはり、人間力を磨き続けなくてはならないのだと思います」
後編へ続く
https://shuchi.php.co.jp/the21/detail/2911
(写真撮影:江藤大作)
更新:11月24日 00:05