2015年08月03日 公開
2015年08月03日 更新
世界各国で起こっている人権侵害の実態を世に訴え、解決を図るNGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」。同団体の東京事務所を率いる土井香苗氏は日々、理不尽な人権侵害に苦しむ人々を救うための協力を社会に向けて呼びかけている。そこでしばしば突き当たるのが、聞き手の「無関心」という壁だ。それを乗り越えるために、どのように伝え方を工夫しているのか。お話をうかがった。
「人権という概念を耳にしたとき、多くの人は『自分には関係ない』と感じることでしょう。それは当然です。人権を侵害されるのは常に少数であり、大多数の人は当事者にならないからです。つまり人権とは、本質的に興味を持たれづらいテーマだと言えるでしょう。
資金面などでご協力いただいても、その人に実質的な見返りはありません。『それでも協力してほしい』と頼んで、どれだけ応じてもらえるか――これはいわば、究極のセールスと言えるかもしれません」
どのような商品を売る場合も、「相手にとっていかに役立つか」を伝えるのが営業トークの基本だ。その前提となる商品がない活動は、困難を極めるように思える。
「私たちが売っているのは『希望』です。良い世界を作ろう、苦しむ人を一人でも減らそう、と呼びかけているわけです。それを『悪いこと』だと考える人はいませんよね。そういう意味では、共感を得やすいテーマでもあるのです」
とはいえ「共感」から「協力」までの間には大きな隔たりがある。当事者ではない人々を、行動へと結びつけるには何が必要だろうか。
「まず、誰に対して呼びかけるかを考えます。政治家への提言か、有力者への出資依頼か、一般市民の方々への講演か。それぞれに、別々の『心動くポイント』があります。それを見極めることが、最短でメッセージを伝える鍵だと思います」
たとえば一般人を対象に語る際は、「感情に訴える」話し方をするという。
「たとえば、中国で公害問題を訴えるとしばしば逮捕されてしまうという問題があるのですが、その事実関係を淡々と話すだけでは『他人事』のままでしょう。そこで『わが身に起こったらどうする?』という視点を喚起します。『自宅の前の川に鉛や水銀が流れてきたら?』『その苦情を政府に訴えて、もし逮捕されてしまったら?』と。すると、事の理不尽さが鮮明に伝わります」
一方、同じ話題を政治家や経営者などに話す際は、まったく別のアプローチを行なう。
「この場合は『メリット』を強調します。中国の環境問題は日本にも飛び火し得ること、外交上重要な国に言論の自由が保たれていない状態は危険であることなどを指摘すると、問題解決の意義が明瞭になります。中国が、今よりも人権の保障された安全かつ健全な国になることは、ビジネス展開にも大いに有益である、とわかっていただけるでしょう」
更新:11月22日 00:05