2016年01月16日 公開
2023年01月23日 更新
最近の例として、タブレット端末が挙げられるという。若者向けの商品と思われがちだが、ジャパネットではなんと、購買者の6割以上が60代以上だったという。
「これは、私がシニアの立場からメッセージを発したからです。最近のタブレットは小さくて軽く、音声認識機能などもついており、非常に便利です。でもそこで『軽いでしょう、小さいでしょう、しかも音声認識までついているんですよ』といくら機能を伝えても、伝わりません。
シニアの方々というのは、定年退職までの40年間、一生懸命働いてきたわけです。そして、さあ、これからゆっくりしようと思ったら、何をやっていいかわからない。そういう人をよく見かけますよね。そこで私は、『せっかく時間ができたのだから、旅行に出かけましょう。その旅行にタブレットを持っていけば、いろいろなことが調べられ、旅行が10倍楽しくなりますよ』と、メッセージを発信した。すると、たくさんのシニアの方々に共感していただいたのです。
何をどう伝えるかは相手が男性か女性かによっても違いますし、お子さんなのか、社会人なのか、シニアなのかによっても違ってくる。やっぱりここも離見が大事なのです」
ただ、ターゲットを絞ってしまうと、その他の世代の人を切り捨てることにならないのだろうか。しかし高田氏はここも「離見」で解決できるという。
「ターゲットを絞ることは、それ以外の人を無視することではありません。たとえば先ほどのタブレットの紹介の際、私はいつも30代、40代の人に向けて、言葉を一つ添えるようにしています。『お父さん、お母さんと最近会ってますか? 遠くにいるご両親に一つ、プレゼントしませんか。ご両親の生活がきっと変わると思いますよ』と。
この年代の人は改めて親のことを考える機会が増えますよね。でも、最近なかなか会いに行けない。ならちょっと親父に買ってあげようかな。そんな人たちの気持ちを踏まえながら、伝えているのです。
このように考えれば、『離見』があれば、若者向けの商品をシニアに売ることも、シニア向けの商品を若者に売ることも、いくらでも可能です」
大前提として重要なのは、相手の立場で考えること。だが高田氏は「それだけでは伝わらない」とも言う。伝えるためのテクニックもまた、決して軽視してはならないと言う。
「先ほど、我見と離見の話をしましたが、実はもう一つの視点があります。それが、『離見の見』です。能を舞う際、観衆は『見所』という一種の観客席で見ています。自分は面を被っているから、そこの様子は見えません。でも、あたかも見所の観衆が自分を見ている様子を遠くから眺めているように、自分の姿を大局的に、俯瞰的に把握する。それが『離見の見』だというのです。
正確な解釈かどうかはわかりませんが、私はこれを、どう見せるか、どう伝えるか、というテクニックの重要性と捉えています。どのタイミングでどんな高さの、どのくらいの強弱の声を出すか、どのようなしぐさをするか。すべて、伝え方に大きく影響してきます。
アメリカのキング牧師は演説の名人と言われますが、彼も相当、伝え方を研究したのだろうと私は思っています。たとえば、"I have a dream. I have a dream." などと、同じ言葉を繰り返しますよね。これはまさに、伝え方のテクニック。技術なくして思いは伝わらないのです。
また、技術の一つとして、『間』があります。よく、立て板に水でスラスラと話すことが大事、などと言いますが、これではかえって伝わりません。むしろ、少し話したら、今度はパッと瞬間の間を作る。そして、次の言葉を発すると、より強く伝わります。間というのは、次の有を生み出す無。そもそも自分の言いたいことをひたすらしゃべり続けるのは『我見』にとらわれている証拠です」
更新:11月24日 00:05