2015年01月09日 公開
2023年01月30日 更新
《『THE21』2015年1月号より》
こと「スピード」という意味でまず思い浮かぶのはやはり、ソフトバンク社長・孫正義氏であろう。そのスピード感はどこから生まれるのか。秘書として最も間近で孫氏の仕事を見てきた三木雄信氏に、その桁外れのスピード感の秘密をうかがった。
<取材構成:川端隆人/写真撮影:まるやゆういち/孫氏写真撮影:鶴田孝介>
現代の日本の経営者の中で、最もスピード感があるのが孫正義・ソフトバンク社長であることは、多くの人が同意するところでしょう。私が秘書として間近で見た例としては、1996年4月にサービスを開始した国内初のポータルサイト「Yahoo!JAPAN」があります。前年の11月に米Yahoo!への出資を決めてわずか5ヵ月で日本展開という驚異的な速さで、そのスピード感があったからこそ、「Yahoo!JAPAN」は今でも日本で圧倒的な成功を収め続けています。その後もブロードバンドや携帯電話事業への参入、iPhoneの独占発売など、普通の会社なら何年もかかるような大きな意思決定を次々に成し遂げてきています。
ただ、孫社長の「すぐやる」力というのは、単なる「素早さ」のことではありません。たとえば、事業を始める、投資をするといったハイレベルな意思決定の場面で言えば、孫社長の基本的な考え方は、「7割の成功率が予見できれば事業はやるべき。5割では低すぎ、9割では高すぎる」というものです。
いくら先見の明かあっても、世の中の3歩先を行ってしまうと事業は成り立たない。でも、みんながやろうとしていることでは遅すぎる。ちょうど世の中の1歩先くらいのタイミングが、「7割」の成功率が予見できるときです。むやみに早ければいいと考えているわけではありません。
ただ、この成功率の予見は結局のところ主観です。その成功率をいかに見極めて、決断するか。そこに孫社長のスピードの秘密があるのです。
孫社長の口癖の1つに「今すぐヒトデにつなげ」というものがあります。ヒトデというのはポリコム社製のスピーカーフォンの通称で、複数の人と会話ができます。会議中に疑問点や確認点が出てくれば、すぐに「ヒトデ」で部下を呼び出します。相手が会議中だろうが、海外出張中だろうがお構いなしです。
その理由は、孫社長は何かを決める際に「権限と情報量」を最も大事にしているから。実際、営業の目標数値を決めようというときに、権限を持つ営業部門の責任者がいなくてはどうにもなりません。また、何か情報を得たいなら、それについて最も詳しい人に聞くのが一番早い。この「権限と情報量」をいかに素早く揃えられるかが、質の高い意思決定をスピーディにこなすコツなのです。
そんなとき、多くの企業では、「今日は○○さんがいないから、ペンディングで」と決定を先送りしてしまいます。だったら、無理にでも権限と情報を持っている人をその場に集めて決めてしまう。それがソフトバンク流なのです。
もちろん、部下は大変です。海外にいても時差なんてお構いなしですから(笑)。しかも、もしその人が呼び出しに応じなければ、「かわりにその件に詳しい部下を呼べ」ということになり、それで用が足りれば「お前はもういらない」となりかねません。ですからソフトバンクの管理職は常に、自分の担当分野について最新の情報を持ち、いつでも答えられるようにしておかねばならないのです。
加えて、ソフトバンクでは毎日どころか、毎分・毎秒単位で売上げの数字が誰でも見られるようになっています。これもまた、常に最新の情報を得るべきだという発想からです。
このエピソードに表われているように、孫社長は意思決定の「前提を揃える」ことを急ぐのです。権限と情報量が足りないところで無理矢理エイヤと決断することはない。だからこそ、浮き沈みの激しいベンチャーの世界でずっと生き残ってこられたのです。
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更新:10月14日 00:05