2015年09月14日 公開
2022年11月02日 更新
――このように、未来を「推」と「論」で予測していく澤上氏。今後、とくに伸びると考えられる業界はあるのだろうか。
澤上 そもそも、「この業界が伸びる、この業界が衰退する」という発想自体が、前時代的な考え方でしょうね。一つの業界がいっせいに伸びるというのは、高度成長期のこと。とくに耐久消費財の分野では、みんながいっせいに自動車や家電などを買い求めたので、ある業界が飛躍的に伸びるということがあり得ました。
しかし、日本経済はすでに成熟段階に入っており、必要なものは人々の間に行き渡っています。こうなると、成長できるのはイマジネーションとロジックで将来の消費動向を読み、需要を掘り起こした企業だけ。この業界だから安泰、この業界だからダメ、ということは、もはやあり得ないのです。
数年前までは、駅前には必ずサウナが何軒もありましたが、今ではあまり見かけないと思いませんか。代わって増えているのが手もみマッサージの店。でも、これだって何年か先には別の施設やサービスになっているかもしれません。また、これからは今までの業種や業界に収まらない産業が、続々と誕生してくると考えられます。
大事なのは、現在の状態を基準に考えないで、「10年後、20年後はこんな世の中になっているのではないか」という想像力を働かせることなのです。
――それは裏を返すと、現在、好業績を上げている企業でも、それがずっと続くとは限らない、ということだ。
澤上 現在の業績はあくまで過去の投資の結果。未来は別物だと考えたほうがいいでしょう。企業の発表する決算書だけを見て判断するアナリストもいますが、それは御用聞きと同じですよ。
ある企業の将来を予測するには、決算書よりもずっと「肌感覚」のほうが重要だと思います。つまり、その企業の製品やサービスを享受する消費者としての実感です。「あれ、いつも使っているこの商品、最近ちょっと質が落ちたな」「最近出た他社の商品のほうが使いやすいぞ」──普段、商品を使っていると、そんなことに気づくことがありますよね。こういう感覚は必ず企業の業績に反映します。それは当たり前のことで、生活者の消費こそが、経済を作っているわけですから。
私自身も企業をリサーチする際には、この消費者感覚というものを最も重視し、時に家電量販店に行ってみたりと、定期的に定点観測を行なっています。
――「数字ではなく、企業を見る」「現在よりも未来の社会をイメージする」「生活実感を重視する」──それらに加えて重視しているのは、「生活者として応援したい企業」だという。
草刈 誰もが、「将来こんな社会に住みたい」「子供たちにこういう未来を残したい」という希望を持っているはず。投資というのはそれを実現するために行なうのであって、なんでもかんでも儲かればいいというものではないのです。「理想の未来を築くのに、なくてはならない会社であるかどうか」──これこそが、投資するかどうかの一番重要な条件と言えます。
澤上 そして、応援すると決めたら、何があっても応援し続ける。相場が暴落して株が二束三文で売られようが、動揺することはありません。むしろ、そういうときこそ真打ち応援団の出番との心意気で、積極的に買いを入れます。
逆に、人気が高まって株価が上がっているときは、他にも応援者がたくさんいるということ。そんなときには応援を彼らに任せて、これまでの投資収益を確保し、次の暴落相場に備える。これが最初に申し上げた、安く買って高く売るということです。
――しかし、さわかみファンドがそれで好成績を上げているというのに、右にならえという運用会社が少ないのはなぜだろうか。
澤上 お客さんがそれを許してくれないからです。多くの機関投資家は2~3年で利益を出すことを迫られており、長期投資なんてしたくてもできません。そもそも、株式投資を短期間で儲ける手段だと思い込んでいる人が世の中には多すぎるのです。
私は投資の究極の目的とは、「今よりもいい世の中を作る」ことだと信じています。そんな理想をともにする企業に投資し、お金だけではなく、より暮らしやすい世の中も手に入れる。このほうがよほど多くの利益を得られるじゃありませんか。
――さわかみファンドの投資対象は日本株が中心。ただ、少子高齢化が進む日本経済では、どうあがいても明るい未来は期待できないという声もある。
草刈 とんでもない、日本の未来は大いに明るいですよ。確かに1億2000万人の人口が、これから毎年0.4%ずつ減っていきます。それでもまだ1億人もの大市場が残ります。これは他の国と比較してもかなり大きな市場です。
しかも、その一億人が将来貧しくなって、エアコンもシャワーもない暮らしをするようになるかといったら、これも考えられません。なぜなら人間というのは一度快適な生活を体験してしまったら、そう簡単に生活のレベルを下げられないからです。つまり、一人当たりの経済規模は増えることはあっても、決して小さくなることはない。未来が暗いなどという根拠はどこにもありません。
更新:11月25日 00:05