2015年09月14日 公開
2022年11月02日 更新
多くの人が「未来が読めない」と嘆く昨今。現在の株高に関しても、果たして将来はどうなるのか、不安が隠せない人も多いだろう。
1999年8月の設立以来、年率複利で5.4%(6月末現在)という驚異的な成績を上げているさわかみファンド。その間、日本経済はデフレで苦しみ続け、株式市場は2003年4月と2009年3月の二度も大暴落に見舞われている。にもかかわらず、安定的に運用成績を上げ続けている秘訣は何か。いったい、どのような視点で企業を見ているのか。その「未来を読み込む視点」について、澤上篤人会長および、最高投資責任者(CIO)である草刈貴弘ファンドマネージャーにうかがった。
――さわかみファンドの特徴は「長期投資」。つまり、長期にわたって成長し続ける企業を見出し、そこへ投資をする。企業の未来が読みにくい現代。高い成果を上げ続ける秘訣は、どこにあるのだろうか。
澤上 秘訣というほどのことはありません。安いときに買っておいて、高くなったら売る。投資の基本を忠実に実践しているだけのことです。
ところが、多くの投資家はそれができない。なぜかというと、当社のように10年、20年単位のゆったりとした長期投資をしようとせず、1年はおろかごく短期間で結果を出そうとするからです。それは投資ではなく、相場の上げ下げを追いかけるトレーディングにすぎません。こんなギャンブルみたいなことをやっていれば、損をするのも当たり前です。
――安く買って高く売るというと、その企業の資産価値に比べ価格が安い株を探して購入するという「バリュー株投資」がある。
草刈 確かに、この先成長が期待できそうな銘柄を調査発掘して買うのですから、バリュー株投資だと言ってもいいでしょう。ただし、一般的に言われているバリュー株投資と、当社の投資の仕方は少し違います。
通常、バリュー投資家が株価の割高、割安を評価するのに用いるのは、財務諸表と、そこから導き出されるPBRやPERなどの数字です。もちろん私たちも数字はチェックしますが)、それだけで割高や割安を判断することはありません。さわかみファンドが見るのは、数字ではなく、あくまで企業なのです。
――「企業を見る」とは、具体的にどういうことだろうか。
草刈 その企業が将来何をやろうとしていて、そのためにどんな投資をしているかを、実際に経営者に話を聞いたり、企業を訪問して工場やオフィスを視察したりして見極めるということです。その結果、現在は利益が出ておらず、株式市場の評価が低い企業であっても、経営者に将来絶対に世界を変えてやるという気概が感じられ、なおかつそれを実現できるだけの技術力が社内にあるとわかれば、十分に投資対象になり得ます。
――その際、「その企業の5年後、10年後の予想財務諸表」を作るという。
澤上 それを現在の株価と照らし合わせて、明らかに割安なら、市場の人気が高まる前に買っておこう、となるわけです。今の数字よりもこの数字のほうがずっと大事です。
逆に、直近の数字が抜群に良くて、マスコミに注目されている企業であっても、経営者がどうやって儲けるかしか頭になく、目先の利益ばかり追いかけているようなら、投資は見送ります。また、経営者のビジョンに共感できなかったり、社員のモチベーションが低く社長の意欲だけが空回りしているような企業も対象外です。
――将来、どんな会社が伸びるか、どのような技術の価値が高まるかを予想するのは、我々一般人にもできるのだろうか。
草刈 難しく考えることはありません。必要なのはロジックとイマジネーションです。たとえば、通信機器の主流が携帯電話からスマートフォンに移りつつありますよね。では、それにより何が変わるのか。まず、二つ折りでなくなったのが一番大きな違いです。すると、間をつなぐヒンジが不要になるので、ヒンジメーカーは大口の供給先を失うことになる。一方、スマホは携帯電話よりも多くのセラミックコンデンサを必要とするので、セラコンメーカーは需要が増えたはずです。このくらいなら、専門知識がなくてもわかりますよね。
あるいは自動車。ガソリン車からハイブリッド車や電気自動車に変化しつつあります。では、ハイブリッド車や電気自動車にはどんな部品が使われているかを考える。すぐに頭に浮かぶのは、大容量のバッテリーや回生ブレーキで充電できるモーター。ゆえにこれらを開発している企業の未来は明るいと言えます。
ただ、ここまではあくまでロジックの話。次に、イマジネーションを発揮してみます。ハイブリッド車や電気自動車の価格は、新興国の人にとってはかなり高価です。ましてや普及に必要なだけの充電施設を設置するとなると、莫大な投資が必要。となると、新興国ではこの先もガソリン車が売れるはず。ガソリン車もまだしばらくはニーズがあるのではないか、と予想できますよね。
澤上 あるいは、スマホの10年後をイメージしてみてください。現在は、多くの人がスマホの画面をのぞきこんで、SNSなどを介して人とやりとりをしていますよね。でも、十年後も同じでしょうか。私は、人間は感情の生き物なので、今のような温度が感じられない無機質なつながりだけだと、そのうち満足できなくなるような気がします。そこで10年後には、温もりを伝えるような機能がスマホに付加されるかもしれない。
ただ、デジタルがこうしたアナログの機能を担うようになればなるほど、メモリの容量を増やさなければならなくなります。そう考えると、そのカギを握る半導体メーカーはまだまだ伸びるのではないか。そんな予測も成り立ちます。
もちろん、これらすべてが当たるとは限りません。ただ、変化を予測する力をつけるには、イマジネーションとロジック、つまり「推」と「論」を働かせ、いくつも仮説を立て続けることが重要なのです。
――「2020年に東京オリンピックが開催されるから、オリンピック関連銘柄の株価が上がる」ということも、未来予測と言えるのだろうか。
草刈 それは単なる「相場」であり、決して長続きしません。いい例が、1999年夏から2000年春にかけてのIT関連バブル相場。情報通信革命の到来と騒がれてIT関連企業の株価が高騰しましたが、1年も経たないうちに火が消えてしまいました。
今話題になっている東京オリンピック関連銘柄も結局は同じこと、潤うのは一瞬です。それに、その効果は2000億円程度ですから、恩恵を受けるといってもたかが知れています。だから我々は、そういう「〇〇関連銘柄」というテーマで将来性を予測し、投資をするようなことはしません。
ただ、より深く見ていくと、本当のニーズが見えてくることもあります。たとえば東日本大震災の復興関連銘柄として、建設関連の株価が高騰しました。これは確かに「相場」ではあるのですが、被災地に限らず、日本全国で道路、橋、トンネルなどの補修や補強が急務となるのは紛れもない事実です。また、近い将来起こると予想される地震に備え、建物の耐震強度を高めたり、地盤を強化したりする必要性も、間違いなく高まります。このように、国民の安心、安全のためのインフラ整備という観点に立てば、そこには一過性ではない確固たるニーズがあると言えそうです。
更新:11月22日 00:05