2015年08月31日 公開
2015年09月11日 更新
「くじ箱戦略」は、いたってシンプル。「当たりが出るまで、箱からくじを引き続ける」、これだけです。
お祭りに、1回100円で引けるくじ箱があったとします。あなたは100円を払って、くじを引きましたが、はずれでした。手持ちのお金はそれしかなかったので、もうくじを引くことはできません。
ところが、たまたま気前のよい親戚のおじさんが通りかかり、「当たりが出るまで引いていいよ」と言ってくれたとしましょう。あなたは10回、20回と、何度でもくじを引くことができます。そのくじがインチキではない限り、いつか必ず当たりを引くことができるわけです。
「そんなのずるい!」と思うかもしれませんね。でも、周囲から「運がよい」と思われている人は、これと同じことをやっているのです。
「くじが当たるまで引き続ける」――実はこの原則は「リアル・オプション」という経営理論にもとづいています。
ちゃんと理解しようとすると、なかなか難しいのでここでは詳細を割愛しますが、孫社長と私はこの理論についてしばらく研究していた時期があります。この理論の専門家である大学教授にレクチャーを受けに行ったこともありました。
おそらく孫社長は、それ以前から直感的に「くじ箱戦略」の原則に従って行動してきたのでしょう。そして理論的にも、「くじ箱戦略」は間違っていないことがわかった。それからは確信を持ってくじをどんどん引き続け、ソフトバンクを大企業へと成長させていったのです。
<当たりの確率を高めるための3つのポイント>
この「くじ箱戦略」には、ポイントが3つあります。
1 当たりが多そうなくじ箱を選ぶ
2 くじを引くコストを下げる
3 くじを引き続ける
孫社長が創業期のYahoo! を発掘できたのも、まさにこの三つのポイントを押さえたからです。
実は1990年代のソフトバンクは、アメリカで成功している企業や事業と組んで、ジョイントベンチャーを次々に作っていました。Yahoo! JAPANも、その一つです。
「アメリカで成功しているビジネスは、日本でも成功する確率が高い。つまり当たりが多そうなくじ箱だから、どんどん引いていこう」孫社長はそう考えたわけです。当時の孫社長は「条件に合う企業すべてとジョイントベンチャーを作れ!」と指示を出していたほどです。
ジョイントベンチャーという形を選んだのにも理由があります。それは「安く作れるから」。ジョイントベンチャーへの出資比率は交渉次第なので、2割や3割といった低い割合で済むこともあります。つまり、2番目のポイントである「くじを引くコストを下げる」もしっかり押さえたことになります。
それに、1回あたりのコストが下がれば、たとえ外れてもダメージは最小限で済みます。孫社長も大胆なように見えて、実は「失敗しても会社が潰れることはない」という範囲でしかチャレンジしません。
「勝率は7割でいい。あとの3割が失敗しても、すぐに撤退すれば問題ない」
これが孫社長のモットーです。だからこそ、3割は失敗しても大丈夫なように、1回あたりのくじのコストをできるだけ下げる努力を惜しまないのです。
ただし、いくら当たりの多い箱を選び、くじを引くコストを下げても、1回や2回引いただけで当たりが出るとは限りません。
最初の9回がはずれでも、10回目に当たりが出るかもしれない。だから、3番目のポイントである「くじを引き続ける」が大事なのです。
当然、孫社長もたくさんの外れを引いています。それでもしつこく、あきらめずにくじを引き続けました。
「もうこの辺でいいかな」などと妥協しなかったから、多くの大当たりを引くことができたのです。
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更新:11月22日 00:05