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「5割が管理職になれない時代」の出世術

2015年08月07日 公開
2023年05月16日 更新

海老原嗣生(雇用ジャーナリスト)

会社・職種のタイプごとに異なる「努力ポイント」

具体的な人事評価の基準は、会社や職種によって大きく違います。それによって、評価につながる仕事の仕方も違ってきます。ただ、どんな会社や職種でも、成果を上げるために必要な職業能力は「OS」と「アプリケーション」に分けることができます。

OSとは、リーダーシップや決断力、論理性、ストレス耐性、手順化できることなどの人間力。どの業界においても役立てることができるものです。

一方、アプリケーションとは、技能、業界の知識、人脈などの専門スキル。これは、レベルが上がれば上がるほど汎用性が低くなるのが特徴です。別業界や別職種に移れば、アプリケーションは使えなくなってしまうのです。

仕事には「OS重視」「アプリケーション重視」「どちらもそこそこ」の3種類があります。自分の会社や職種がどれに当てはまるのか? 自分にはどれが合っているのか? そうしたことを意識することで、自分の能力を活かす方法が見えてくるでしょう。そして、自分の能力の活かし方がわかれば、努力次第で、成果を上げられるはずです。

以下、それぞれのタイプごとに、努力すべきポイントを紹介していきたいと思います。自分の会社や職種はどれに当てはまるのか、チェックしてみてください。

 

タイプごとの努力すべきポイント

1 OS重視型――厳しい戦いに勝ち抜くには「人間力」が重要

例:不動産営業、外資保険、百貨店の外商、人材系ビジネスなど

実力のある人は入社後2〜3年で頭角を現わし、社長賞を獲ったり、高い給与を得たりする。若手が活き活きと活躍する姿が注目されるので華やかなイメージがあり、求職者にも人気がある。年次の高い者が「彼は若いのにすごい」と感嘆する、という場面がよく見られる。そんな企業・職種は「OS重視型」に分類されます。

求められるアプリケーションは比較的短期間で習得できます。その代わり、積極性や貪欲さ、論理性、提案力、コミュニケーション力、タフネスなど「人間力」が優れていることが求められるため、それをいかに磨くかを考えることが重要となるでしょう。

人間力を備えていれば、若い頃から力を発揮し、高い成果を上げることが可能。会社側も実力主義で評価を行なうため、年次が浅くても役職に就くことができ、高い報酬を得ることができるはずです。

逆に、評価されない人は、いくら経験を積んでも芽が出る可能性が低い。別業界や別業種に移って再チャレンジすることも視野に入れたほうがいいでしょう。

OSはアプリケーションと違い、どんな仕事に就いても役立ちます。このタイプの会社・職種でうまくいく人は、アプリケーションを載せ替えて、より有利な職務に横移動ができるでしょう。

 

2 ​アプリケーション重視型――目が出なくても「コツコツ」努力する

例:エンジニア、大手都銀、大手メーカー、大手商社、研究職、大手の士業など

「アプリケーション重視型」の会社・職種では、小さな仕事から経験を積み重ねて専門性を高め、徐々に大きな仕事ができるようになる、というキャリアをたどります。給与も、年次に比例して上がっていきます。大企業が多く、人気が高いのも特徴。10年選手は入社したてよりも1桁大きな仕事をしているため、若い社員が「先輩はすごいなあ」と感嘆することが多いでしょう。

若い頃は給与もさほど高くなく、任せられる仕事も小規模ですが、ここでモチベーションを落としてはいけません。先輩や上司を見ながら、10年後にはすごい仕事ができることを認識し、まずは与えられた仕事をしっかりこなすこと。

求められるスキルのレベルが高いため、知識や技術のインプットは持続的かつ精力的に行なっていきます。それを活かして成果を上げれば、ゆくゆく高い評価につながるはず。その結果、仕事の難易度、役職、給与が上がり、社会的なポジションや経済力だけでなく、「専門知識を活かして大きな仕事をしている」という充実感も得られるでしょう。

もちろん、業界や職種を変えれば、せっかく積み上げたアプリケーションの価値がなくなってしまいます。それも、レベルが高いほど、他業界や他職種では役に立ちません。なかなか芽が出なくても、頑張り続けるほうが得策でしょう。

 

3​ どちらもそこそこ型――不満なら転職も視野に

例:一般事務、販売職、ルートセールス、比較的規模の小さい会社など

「OS重視型」のように、できる人はものすごく成果を上げられるということもなく、誰でもそこそこ数字を残せる。「アプリケーション重視型」ほど高い専門性を要求されるわけではないため、経験を重ねても業績は伸びない。華やかさもなく、成長も大きくないので、求職者の人気は高くはない。そんな会社・職種は「どちらもそこそこ型」に分類されます。

アプリケーションは短期で習得できるものが多く、OSも、社会人としての常識的な行動ができればよしとされます。したがって、与えられた仕事を着々とこなし続けていれば、「ある程度」の評価は得られるでしょう。仕事のレベルや規模も「ある程度」上がりますが、その勾配はゆるやか。待遇面でも、さほどの変化は見られません。がむしゃらに上を目指そうとしない「ゆるキャリ」志向の人に向いていると言えます。

一方で、これではモチベーションが維持できないという人もいるでしょう。仕事自体にやりがいを見出せず、待遇にも不満がある、ということになれば、仕事を続けることが難しくなります。

こうなったときは、転職を考えるのも一つの方法。せっかく積み上げた専門性を失うということもないので、比較的身軽に動くことができます。生活レベルを上げさえしなければ、仕事には困らないという良さもあります。

(取材・構成:林 加愛 写真撮影:稲垣純也)

(『THE21』2015年4月号より)

著者紹介

海老原嗣生(えびはら・つぐお)

雇用ジャーナリスト

雇用ジャーナリスト、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。

1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて人材マネジメント雑誌『Works』編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』の主人公、海老沢康生のモデル。
著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)、『経済ってこうなってるんだ教室』(プレジデント社)などがある。

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