2015年04月09日 公開
2022年12月19日 更新
アサヒビールやアサヒ飲料をはじめ、数多くのグループ会社を束ねるアサヒグループホールディングスは、2014年12月期の連結決算で売上高、経常利益とも過去最高を更新。
純利益は14期連続で過去最高となった。
M&Aによる事業の多角化やグローバル展開の強化も進めている。
同社を率いる泉谷直木氏に、これから求める人材像と評価基準について、お話をうかがった。
<取材・構成:笠原崇寛/写真撮影:まるやゆういち>
日本企業が置かれているビジネス環境の変化で、最も大きいものの一つがグローバル化だ。アサヒの成長要因の1つも、積極的なアジア・オセアニアや欧米での事業展開である。目まぐるしくビジネス環境が変わり、国境をまたいだ競争が激化する中、勝ち残っていくためにはどんな人材が必要なのだろうか?
「ますますグローバル化が進む時代に、日本人が世界で通用する人材となるためには、2つの力が必要です。
1つは、語学力や経営の知識など、グローバルでビジネスを行なっていくうえで必要な基礎的な力。これについては、さまざまな人たちが指摘しているでしょう。でも、これだけでは足りません。
もう1つ、欠かすことができないのが、日本や世界の歴史や文化を語れることです。リベラルアーツ(教養)と言ってもいいかもしれません。幅広い知識と教養がないと、海外での交渉はうまくいかないと痛感しています。
外国人と交渉をする際、ミーティングでは合理的、論理的な視点でビジネスの話を徹底的に議論します。しかし、その間に入る休憩や、食事をともにするときになると、ビジネスの話よりも広く一般的な話をすることが多い。こうしたブレイクタイムこそ、人間関係を築く重要な場面。そこでは、仕事以外の知識や教養をどれだけ身につけているかが問われます。とくに私たちの母国である日本について話すことが期待されますし、相手国の歴史や文化についての理解があることや趣味の話ができることも大切です。
最終的に取引が成立するかどうかは、人間関係が築けるかどうかによるところが大きい。ビジネスの能力だけでなく、教養を身につけ、人間としての魅力も兼ね備えることが、これから必要とされる人材の条件でしょう」
同社はグローバルに活躍できる人材を育成するための「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム(GCP)」というプログラムを実施している。まだ入社二〜三年目の若手社員を中心に、海外に派遣しているのだ。意欲があれば、経験や実績が少なくても問題ないという。
「ビジネスの現場で活躍するグローバル人材になるには、机上で勉強するだけではなく、実際の現場で経験を積むことが何よりも重要です。
GCP立ち上げ当初は、それまで当社が進出していなかった国に半年から一年間派遣し、そこで生活をしながら、『どうやったらその国に進出できるのか?』についてのレポートを作成して報告してもらっていました。これをきっかけに進出することができた国もあります。
最近では進出している国が増えてきたので、M&Aをした現地企業に1年間出向してもらい、肌で現場を体験してもらっています。
出向先ではお客さん扱いをされて、仕事を与えてもらえないことがよくあります。そこで、『自分はこういうことができます!』とアピールし、自分で仕事を生み出していかなくてはなりません。こうした厳しい環境に身を置くことで、変化の激しい時代に国際的に通用する人材を育成できると考えています。
GCPは公募ですので、社員なら誰でも応募することができます。機会は平等に与えます。そこで自ら手を挙げる、意欲のある社員をどんどん伸ばす。チャンスをつかめるかどうかは社員自身の意志と力量次第です。会社に頼るのではなく、自らチャンスをつかんでキャリアを切り拓く力を求めています」
自らの意志でキャリアを切り拓いていく意欲は、グローバル人材になるためだけに必要なものではない。同社では、新規事業など、国内の異動でも社内公募を行なうことがよくあるそうだ。社員の自発性や積極性を重要視していることがよくわかる。
泉谷氏は、キャリアを切り拓くために身につけるべき能力を、「ジュニア」「ミドル」「シニア」の3段階に分けて解説してくれた。
「海外であろうと、国内であろうと、『自分はどんな仕事をしたいのか』『どんなキャリアを積んでいきたいのか』『何を実現したいのか』というキャリアビジョンを持っていなければ、評価されるような良い仕事はできません。そのキャリアビジョンを実現していくために必要な能力を、どう身につけるか?
まず、『ジュニア』というのは、入社1〜3年目くらいのことです。この段階で、決められたことを決められたとおりにするルーティンワークができるようになること。これは仕事の基礎力と言えます。
それだけでなく、チームワークを良くするために協力できるようにならなければなりません。自分1人で仕事ができるだけでなく、他の社員やさまざまなスタッフとチームを組んで仕事をする力です。どんなに優れた能力があっても、一匹狼で、他の人と協力して仕事ができないと、仕事の幅が広がりません。
次の『ミドル』は入社15年目くらいまで。この段階では、ヘッドワーク、フットワーク、ネットワークの3つを、ハードワークでしなければなりません。
ヘッドワークとは、頭を使うことです。どんな仕事でも諦めず、成功するにはどうしたらいいのかを徹底的に、さまざまな切り口から考え続けるのです。そのうえで、自ら現場に足を運び、現場で何が起きているのかを徹底的に調査するフットワークによって、課題を解決します。課題解決や、新たなビジネスの種を見つけて成長させていくためには、社内外のネットワークを作ることも不可欠です。
入社15年目を過ぎて『シニア』になったら、ライフワークとシャドーワークにも力を入れてください。
ライフワークとは、家族との過ごし方や趣味、あるいは地域や社会での活動のことです。ライフワークでもそれぞれの現場に足を運ぶことで、仕事だけでは発見できなかった気づきを得られます。
もう1つのシャドーワークとは、今、自分が与えられている仕事とは別の知識を学ぶこと。たとえば、生産部門にいるなら財務の勉強をするとか、営業部門なら人事の勉強をするといったことです。
これらによって、それまでにしたことのない仕事でもできるようになります。それが、本物の『プロフェッショナル』というものでしょう。今は、今日ある仕事が明日もあるとは限らない時代です。1つの仕事を長年しているだけの『ベテラン』では通用しません。
自分のキャリアビジョンを持ち、経験を積んでも常に新しい知識を吸収することを怠らない。どんなに役職が上がっても、机上で考えるのではなく、現場や街に出て、肌で感じたことを大切にする。そうした人が成長を続けられる人です。そして、会社を成長させる原動力になるのです」
《『THE21』2015年4月号より》
泉谷直木
(いずみや・なおき)
アサヒグループホールディングス〔株〕代表取締役社長兼CEO
1948年、京都府生まれ。72年、京都産業大学法学部卒業後、朝日麦酒〔株〕(1989年にアサヒビール〔株〕に社名変更、2011年に純粋持株会社アサヒグループホールディングス〔株〕に移行)入社。1986年、広報企画課長。1995年、広報部長。1998年、経営戦略部長。2003年、取締役。2006年、常務兼酒類本部長。2009年、専務。2010年、アサヒビール〔株〕社長。2011年、持株会社制への移行によりアサヒグループホールディングス〔株〕社長に就任。
<掲載誌紹介>
2015年4月号(いつも評価が高い人VS.なぜか評価が低い人)
<読みどころ>
組織に属する以上、誰もが気になるのが「評価」。
人間が人間を評価する以上、そこには必ず「歪み」が生まれます。
ただ、それを放置することで、社員がモチベーションを下げてしまったり、間違った努力を繰り返してしまっては、会社・社員ともに不幸になります。
そこで今回、多くの識者への取材を通じ、「会社が評価する人」の条件を探り出してみました。
評価する側200人、評価される側200人への緊急アンケートを始め、一部上場著名企業から現役人事マン、コンサルタントなど様々な方から「今、評価される人材の条件」を徹底的に聞き出しています。
皆さんの「正しい努力」につながれば幸いです。
更新:11月22日 00:05