THE21 » カルチャー&トレンド » T部長・土屋敏男が「もうやめたい」と思った瞬間 蒲郡の地域ドキュメンタリーに懸けたもの
2026年10月08日 公開

写真:イッツコムのマスコットキャラクター"コムゾー"と土屋敏男さん
衰退した地方の街に、映画は何を起こせるのか。「電波少年」シリーズを手がけた土屋敏男さんが企画・プロデュースしたドキュメンタリー映画『わたのまち、応答セヨ』が、10月に全国112社のケーブルテレビ局で一斉放送、うち97社で10月12日(月・祝)に同時放送される。愛知県蒲郡市の繊維産業を追った本作の制作過程について、イッツコム主催の取材会で土屋さんに話を聞いた。
――土屋さんが『わたのまち、応答セヨ』という、どちらかというと硬めな印象のドキュメンタリーの企画に関わられたのは意外かもしれません。「蒲郡市の繊維産業に光を当てる映画を作ってほしい」と聞いた時は、どう思われたんですか。
【土屋】僕は頼まれると、あんまり嫌とは言わないんです。そこには何かあるんだろうなと思うから、「やります」って。それで岩間玄という監督がいて、日本テレビ時代は一緒に仕事をしたことはないけど、なんとなく馬が合うというか。その時期、彼ももう日本テレビを辞めていてドキュメンタリーを撮っていたので、彼に声をかけて蒲郡に一緒に行きましょう、と。
制作にあたって、市には条件を一つだけ出しました。"一切口出しをしない"こと。彼らは基本的に市民全体のバランスを考えるじゃないですか。すると「ここを取り上げるならここもやってくれ」とか、「ここが気になるから切ってくれ」とか、際限ないですよね。それはもう作品にならないな、と。
これは電波少年をやってる頃から僕のスタイルで。一切報告しない、連絡しない、相談しない、いわゆる報連相をしない形でやっていたんです。もし会社に「誰も知らない若手芸人(猿岩石/有吉弘行・森脇和成)に香港からロンドンまでヒッチハイクでいかせますけど、どうですかね」と相談してたら「なんじゃそりゃ? 危ないだろうからやめとけ」となりますよね。今回は特に相手が行政だからこそ、それを条件にしました。ケーブルテレビ局(三河湾ネットワーク株式会社)が間に入ってくれたのも良かったと思います。
――最初は東京ガールズコレクションの若者たちを追うようなシナリオがありましたが、途中から地元で三河木綿を織る職人・鈴木さんに焦点を当て、その後、繊維業者の石川さんへと視点を変えていきましたよね。
【土屋】当初、東京ガールズコレクションを軸にと思っていたんですけど、これだけじゃ映画にならないなと思ったんです。それで岩間監督が走り回って鈴木さんに出会い、そのことで蒲郡の繊維産業の人たちがざわざわし始めた。
石川さんが「三河木綿って何?」と気になって、自分で資料を見つけて、「これか、自分たちが何百年も前にこんなものを作っていたんだ」ということに行き着く。それを現代に復刻して世界に持っていこうという話が、偶然いろんなところでバラバラに起きていったんです。
ロンドン・デザインウィークに三河木綿復刻プロジェクトとしてギャラリーを借りて出したことも、蒲郡市には伝えなかった。たぶん僕のインスタか何かを見て、どうもロンドンに行ってるらしいと知った、くらいの感じです。
――制作の中でへこんだ瞬間もあったそうですね。それを乗り越えようと思えたきっかけはあったのでしょうか。
【土屋】現在、繊維産業に携わっている会社は、最盛期に約1000あったのが今は10社ほどになっちゃっているんですよね。その10社の人たちは、今でも繊維産業に関わっているある種のサバイバーで、皆さんすごく戦っているんですよ。ガーゼを使って工夫してみたり、いろんなことをやっている。それはそれで面白いんですけど、バラバラなんです。
だから、皆さんが作っているのは間違いなく良いものだから世界に出ていきましょうよ、という話をしたら、「そんなことは考えない、自分たちはこれが精一杯だから、そんなお金もないし」という反応で。「俺たちはそんな風に考えてない、余計なことするな」と言われてしまったんです。
こちらとしては、なんとかいいものを作りたいし、蒲郡に未来があることを地域の子どもたちに見せたいと思っていたので、「余計なことをするな」と言われた瞬間は結構こたえました。
監督と二人でそれを食らって、本当に黙って帰ってきて、LINEのやりとりを朝までしました。その中で僕は「もうやめよう、あんなこと言われてまでやることはない、今まで使った金は返す」と言ったんです。
そしたら監督は「もう一回考えさせてください」と言って。彼がもう一度考えたとき、鈴木さんという人物にかけることにしたそうなんです。「この人をさらに追って、種から三河木綿を作る人を撮ってみよう」となったんです。
――鈴木さんの人柄としてにこやかながらも、芯がある部分を感じました。
【土屋】そうなんですよ。やっぱり町の変わり者なんです、良い意味で。繊維産業のサバイバーの方たちは、あくまでも自分たちが生き残るため、商売のために戦っている。鈴木さんは、ここに綿が伝来した、その綿にこだわることが自分たちの根っこなんだという、ある種のフィロソフィーを持っている人なんです。
商売になるのかという話もあるし、毛足も短くてゴワゴワするような風合いで、今は柔らかいものが求められている中で、「それは商売にならない、やったってしょうがない」と言う人たちとの戦いがありました。
――土屋さんがものを作る際に大切にしている「本気」というのが、鈴木さんにはあった。
【土屋】もちろん鈴木さんにもあったし、さっきのサバイバーの方たちにもあったんですよ。ただ、それは目先の自分たちの生活のためのものでもあって、それは決して悪いことじゃない。テレビだって視聴率を取らないと続かないですよね。見てもらって、買ってもらってなんぼの商売ですから。
でももう一つ、フィロソフィーとか哲学が必要ですよね。テレビって何だ、今やっているテレビだけがテレビでいいのか、と。僕が電波少年でやろうとしたのは、見たことのないテレビを作りたいということで、アポなしにしてもヒッチハイクにしても懸賞生活にしても、それまでの常識を破ろうとしていた。それが大事だと思うんです。
今まで見たことのないものや未来を作るということは、自分たちのビジネスを優先することとは違って、自分たちがこだわるものやルーツみたいなものだと思うんです。その強さが鈴木さんの中にあったし、そこをとらえて一緒に世界に出てみようと。それに石川さんが呼応してくれた、というかたちですね。
――長年守られてきた地綿へのこだわりは、まさに目先の利益ではなく哲学ですよね。
【土屋】自分たちのルーツで、それが世界中どこにもないリソース、根っこなんだ、という考え方ですよね。
――そういう意味では、まさに土屋さんと通じる部分があったんですね。
【土屋】共通している部分はすごくありました。僕の場合は、いかに猿岩石を本気にさせるか、なすびを本気にさせるか。死にたくないから必死に生きる姿を番組にするわけですけど、その必死さですよね。鈴木さんの中にもそれがあった。
鈴木さんも一人でやってきた、奥さんと二人である種の孤立無援の中でやってきた。「これで一生終わるのかな」と思ったところに、よそ者が来て、最初は「こいつらが何ができるんだ」と思ったけれど、「どうもこいつらも本気だぞ」と。「よし、じゃあその本気の奴に俺の本気を見せてやる」となったんですよね。
岩間監督が本気で毎週蒲郡に通って、自転車で走り回って話を聞いている。「あ、こいつ本気だな」と思ってもらえた。それこそ地場産業を持っている日本中の地方の町に見ていただいて、自分たちの本気を思い出してほしいですね。

(c)Gontents
――鈴木さんのその本気な部分に感化され、石川さんもこの三河木綿復刻プロジェクトに携わってロンドンに向かうことになったんですね。その辺りは制作の中でどう感じていましたか。
【土屋】本気でやっていたら、そんな奇跡が起きるんだなという感じですね。ロンドンの生地屋さんに復刻した木綿生地を持っていった時の感触がまるで違うわけです。「これすごいね」って言われて。イギリスにも歴史があるから、こちらにも歴史が裏付けとしてあると、ものすごく心を打たれるわけです。1000年以上の歴史の中でこれを復刻したところに、イギリス人は感激してくれたんですよね。
それが入り口になって、値段の付き方も変わっていって。まさに僕らも奇跡に遭遇しているように見ていました。そしてあのラストシーンですよね。最後にそれはもう、ぞわっとする感じでした。
――試行錯誤の末に、自分たちの根っこにあるものへ立ち返った。それを新たな舞台に持っていったところ、実はそれこそが求められていたわけですよね。本当に奇跡だと思います。
【土屋】恐ろしいですよ、本当に。この円環が本当にぴたっと合う感じというか。綿の神様と映画の神様がいるんだ、と思いました。ドキュメンタリーの醍醐味というのは、もちろん撮りたいと思って監督が撮っていくんだけど、撮らせてくれるというのもあるんですよね。何に出会えるかということじゃないですか。こっちを進んでいったら、あれに出会ったところで、「お前らが頑張ったからここで待ってたぜ」みたいな。
――改めて、見どころを伺ってもよろしいでしょうか。ぜひここに注目してほしい、というところを教えてください。
【土屋】最後にとんでもない奇跡が起きます。なんとなく地方都市の、それも渋めな作品かと思うかもしれないですけど、それをずっと見続けて追っかけてきたら、最後にとんでもない奇跡が起きます。それをぜひ観てほしいですね。それを見せてくれたのは、そこに集まってきた人たちの本気が連なった時に現れたものだから。
最後のシーンで映画館でも涙してくれる人が結構いたんですよ。
【放送概要】
番組名:映画『わたのまち、応答セヨ』
放送日時:2026 年 10 月 12 日(月・祝)20:00~ ※伊豆急ケーブルネットワークは 21:00~
放送チャンネル:
[イッツコム] イッツコムチャンネル 10(地デジ 10ch)
[ケーブルテレビ品川] シナガワン TV10 チャンネル 10 しながわ(地デジ 10ch)
[伊豆急ケーブルネットワーク] いるかチャンネル(地デジ 12ch)
ほか上記3社含む全国のケーブルテレビ局97社で10月12日(月・祝)に同時放送。また、全国112社で10月に一斉放送。
更新:10月08日 00:05