
新しいスキルを身につけ、収入をアップさせたい、あるいはダウンさせたくない......。様々な理由で資格取得を目指すものの、仕事が忙しくて勉強する時間が取れない、という人も多いだろう。そこで、1000以上の資格を取得してきた鈴木秀明氏に、資格取得のための効率的な勉強法を聞いた。(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2024年2月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。
2025年1月現在、私が取得した資格の数は1000超にのぼります。年間およそ80個の資格試験を受けているので、今後も増え続けていくでしょう。ジャンルも、宅建や行政書士といった定番の資格から、国内各地の「ご当地検定」系、「美肌検定」「きのこ検定」などの趣味系のものまで多種多様です。
ここまで資格を取るようになったきっかけは、学生時代に所属していたサークルの広報誌でした。当時私は資格についてのコラムを担当することになったのですが、毎月体験レポートを書くうち、資格の取得そのものが楽しくなったのです。それから20余年経ち、もはやライフワークとなっています。
さて、読者の方々――ミドル世代のビジネスパーソンが資格取得を目指す動機は、おそらく副業等の可能性を広げるため、セカンドキャリアに備えるためなど、何らかの必要に駆られて、という方が多数派だと思います。
そうした方々からはよく、「キャリアアップにつながりやすい資格は何ですか?」という質問を受けます。しかしその答えは、「人それぞれで最適解は異なる」ということになります。
もちろん、最大公約数的な「手堅く使える資格」――簿記検定、ファイナンシャルプランナー、基本情報技術者といった、知名度が高く信用の源になりやすい資格は存在しますが、それより大事なのは、皆さん一人ひとりの「こうなりたい」は何か、ということです。
今後どのような人生を送りたいかを見極め、そこから逆算して「そのために何が必要?」「それにはどんな資格が有効?」と考えていくのがベターです。
しかし、そのあたりの明確なビジョンがまだないという方もいらっしゃるでしょう。そんなときのお勧めは、これまでのキャリアとは別ジャンルの資格にもあえて目を向けてみることです。
異なる世界の知識に触れると、視野が広がり、新しい発想が湧きます。「これまでの自分」を相対的に見つめ直すこともでき、「こうなりたい」が見えるきっかけを得られます。
ただし別分野といっても、今までのキャリアを全部リセットして別業界で華々しく転身、などといった一発逆転を狙うのはお勧めしません。あくまでこれまでの経験に立脚し、そこに新しい何かを「掛け合わせる」ことで自分ならではの独自の価値を確立するという意識を持ちましょう。
目指す資格が決まったあとのよくある悩みは、仕事と並行しながら勉強する時間がなかなか取れない、ということです。
この場面で意識すべきは、「先に」勉強時間を確保することです。例えば「21時から0時までは勉強にあてる」と先に決めるのです。そうすると、「20時には仕事を終わらせて帰らなくては」と、タイムリミットが決まります。結果、仕事の集中力が上がり、効率的に仕事を進める意識も芽生えます。
逆に「終業後の余った時間で勉強しよう」となんとなく考えているだけだと、結局思ったほど勉強時間が取れず勉強が全然進まない、ということになりがちなのです。
つまり、勉強時間を作りたいなら「勉強以外に使っている時間」に着目するのがコツ。とりわけ仕事の時間は、格好の狙い目です。
日々のタスクをあらためて見直し、より時短できそうなやり方はないか、優先度の低い作業に時間をかけすぎていないかを分析しましょう。
例えば、メールの返信はよく使う言い回しを定型文として登録しておけば一発変換で即時返信できますし、エクセル作業も、関数やVBAの活用・工夫によって大幅に時間を短縮できる可能性があります。
こうして仕事を効率化できたら、次は「スキマ時間」に着目しましょう。手の空いた時間ができたとき、すぐに勉強するクセをつけることが大事です。
スキマ時間とひとくちに言っても、時間の長短や「手・耳・体勢にどのくらい自由度がある状態か」など様々なタイプがあります。
それに合わせて「短時間用」「長時間用」「手は使えないが耳は空いているとき用」など複数パターンの勉強ツールを鞄に用意しておきましょう。短時間なら一問一答の問題集を読む、長時間ならテキストをしっかり読み込む、といったように決めておくと、より効率的なスキマ時間勉強ができます。
言うまでもなく、勉強そのものの効率性も重要です。最速・最短で合格に至る勉強法のテクニックは無数にありますが、どのような試験にも共通する最重要ポイントは、「過去問が第一」ということです。
過去問を見ずして試験勉強を始めるのは、野球の試合を見たことがないのに素振りの練習を始めようとするようなもの。まずは「攻略すべき対象」を知るために過去問題集を入手しましょう。
「知識ゼロの状態で、本番の問題に当たるなんて」と、不安に思う必要はありません。この段階での過去問は「解く」ものではなく、「読む」もの。わからなくてもまったく問題ありません。
過去問を「読む」と、何が出題されるのか、どんな形で問われるのか、自分がすでに知っている内容はどのくらいあるか、などがある程度見えてきます。そこから、勉強すべきことは何か、重点を置くポイントはどこか、という指針を得られます。
逆に言うと、そこを把握せずに試験範囲を片っ端からすべてやろうとするのは非効率。その最たるものが、最初に公式テキストを買って1ページ目から熟読するというやり方です。
非効率なだけでなく、モチベーションを阻害する危険もあります。公式テキストは、資格によっては何百ページにもわたります。「こんなにたくさんの知識をインプットしなくてはならないのか」と恐れをなして挫折するのは、よくある失敗パターンです。
テキストを読んで「わかったつもり」になりがちなのもデメリット。読んだあとに過去問を解くと、テキストを1周した程度では解けない問題も多々あるはず。その結果、「頑張ったのに全然頭に入っていない!」とショックを受けて、これまた挫折のモトになります。
ですからあくまで「過去問が先、テキストが後」。難易度の低い資格なら、過去問の勉強だけでも十分合格点がとれるものもあります。
最も対策しやすい資格試験は「同じような設問が毎回繰り返し出題される」タイプ。過去5~10回分の過去問を見ると出題の傾向がわかるので、前述の「同じ問題が繰り返し出る」タイプだなとわかったら、対策としては過去問を完璧に解けるようにしておくだけで十分でしょう。テキストなど他の教材に手を出しても逆に非効率になるだけの可能性が高いです。
併せて、目指している試験の「合格ライン」もチェックしましょう。6割正答できれば受かる試験と、8割以上取れないといけない試験とでは対策の仕方が大きく変わってきますし、科目ごとに足切り点が設定されている場合はそれも見据えて勉強戦略を立てる必要が出てきます。そういった点もふまえて過去問分析を行ないます。
逆に、過去問と同じような問題があまり出ないタイプの試験だったり、そもそも基本的な知識が圧倒的に足りないと思われるような場合は、公式テキストなど他の教材も活用していきましょう。その場合も、特に知識が足りないと思われる科目・分野を重点的に対策するなど、メリハリをつけた勉強をすることが大切です。
前述の「スキマ時間のタイプ」の話にも通じますが、どのタイミングでどんな勉強をするかを最適化することも、効率性を上げるために欠かせない視点です。
暗記する・問題を解く・テキストを読む、といった各作業に適したタイミングや環境はどのようなものか、知っておきましょう。
例えば暗記は、夜に行なうのが最も効果的と言われています。脳は睡眠中に記憶の整理を行なうので、直前に覚えた情報ほど記憶が定着しやすいのです。翌朝もう一度その内容を復習するとさらに良い、とも言われています。
テキストを熟読して理解を深めるなど、思考力を必要とする勉強は、環境に気を配りましょう。カフェや電車内といった音のある空間より、図書館などの無音空間が望ましいと言えます。
逆に、軽めの一問一答をどんどん解いていく、といった勉強ならば、あえて自分の好きな曲を聞きながらテンションを上げて取り組むほうがリズミカルに進むかもしれません。
ただ、人によっては「朝型だから朝に暗記をしたい」などのケースもあるでしょう。ですから一般論にとらわれ過ぎず、自分自身の体質や性格、生活リズムに合わせて「自分にとっての最適なやり方」を模索していくことも大切です。
最も好みの分かれるところと言えば、教材にデジタルツールを使うか紙を使うかでしょう。ちなみに私は断然「紙派」。バッグには常時、近日受験予定の各種試験のテキスト数冊や、過去問PDFをプリントアウトした紙などが入っています。
紙のメリットは、書き込みの自由度が高いこと。デジタル教材でもアンダーラインやふせんをつける的な機能はありますが、紙のほうが断然柔軟に書き込みができるといえるでしょう。
ページ移動が瞬時にできるのも利点です。本の内容をざっくりつかむために速読的な読み方をしたり、あちこちのページを行ったりきたりする読み方をする場合は紙のほうがやりやすいでしょう。
一方、デジタルの良さは、スマホやタブレットに教材を一元化できるので、重い荷物を持ち運ばなくてよいことです。また、練習問題を自動的に採点してくれたりと、便利な機能を持つものがあるのも利点です。
デメリットは、集中力が妨げられやすいこと。勉強中にメールが来たり、アプリの通知が入ったりして思考が途切れることはままあります。何より、勉強用のツールが娯楽にも使えてしまうのが最大の難点。
特に、スマホは誘惑のモトと一緒に勉強するようなものです。「プライベート用のスマホと勉強用のデジタル端末はきっちり分けて別のものを使う」などの工夫が必要でしょう。
私は年間を通して毎週ペースで資格試験を受けていて、常にいろんな試験の勉強を並行して行なっているのですが、「仕事に加えて、複数の資格を同時並行で勉強するなんてすごい」と言われることがあります。しかし私は別にすごいことをしているとは思っていません。
皆さんも学生時代、国語・算数・理科・社会と、並行して別種の勉強をしていたはず。いろんなことをいくつも並行して勉強することが難しいと感じるのは、実は思い込みなのです。
ここは「気分転換」と捉えるのが吉。私も、資格Aの勉強で疲れたら資格Bの勉強に切り替える、というふうに勉強の対象を変えることが、良い息抜きになっているのを感じます。「頭の中がゴチャゴチャになりませんか?」と聞かれることもありますが、そんなことはないですしむしろ良いリフレッシュになります。
さらにいえば、仕事と勉強、あるいは複数の勉強の同時並行は、別種の情報をインプットしているようで、その実、思わぬところで互いにシナジー効果があったりもします。例えば、ファッション系の検定の勉強で店内ディスプレイの方法を学ぶと、仕事のプレゼン資料の見せ方のヒントを得られる、など。
仕事での経験が勉強に役立つことも大いにあります。「この理論を、自分が経験したあの場面に当てはめると......」と具体的なシーンに結びつけて考えると、理解が深くなります。
つまるところ、「勉強=苦行」という先入観はぜひ取り払ってほしいのです。悲壮な気持ちで臨むのではなく、気分転換や相乗効果といったプラス面に目を向けましょう。
こう言うと、「鈴木さんはもともと優秀だからそんなことが言えるんだ」「自分には無理だ」と言われがちなのですが、ここにも誤解があります。
資格試験で結果を出せるかどうかは「頭が良いか悪いか」ではなく、「勉強するか、しないか」の問題です。「自分には無理」とおっしゃる方のほとんどは、実際にその試験の勉強をしてみた経験があるわけでもないのに、なぜか最初から「特別な人にしかできないことだ」と決めつけてしまっているのです(笑)。
私が1000個の資格を取れたのは、優秀だからではなく、勉強をしたからです。特段、優れた記憶力を持っているわけでもありません。「一度覚えたこともそのままではいつか忘れる」前提で、繰り返し頭に叩き込む、という行為を愚直に繰り返しただけです。
つまり、続けられるかどうかが決め手。地頭の良し悪しではなく、「メンタル」が最重要なのです。「覚えられなくて嫌になる」ではなく、「忘れて当たり前」というマインドセットが不可欠。そうすればいちいち落ち込まず、何度も覚え直すことを淡々と続けられます。
実はこの点が、ミドル世代にとっての一番の関門かもしれません。日本人は勤勉というイメージがありますが、OECDの調査によると、大人になってからの学びについていえば全然勉強していません。
それは、この世代が「大人になってからの失敗」を恐れているからかもしれません。一定の地位を築けた今、「新しいことに挑戦して失敗してしまうかもしれないのは恥ずかしい」という心理が働いているのではないでしょうか。
そんなときこそ「初めて挑戦することは最初からうまくできなくて当たり前」という精神を持ちましょう。極端な話、試験も一度や二度落ちたっていいのです。試験に落ちることは決して「カッコ悪い」ことではないと私は考えます。挑戦する姿勢こそ、最もカッコいいのです。守りに入らず、自身の可能性を拓く一歩を、ぜひ踏み出してください。
【鈴木秀明(すずき・ひであき)】
1981年、富山県生まれ。東京大学理学部卒。東京大学公共政策大学院修了。All About「資格」ガイド。年間80個ペースで資格試験に挑戦し続けており、米国公認会計士ほか1000個超の資格を取得。資格の専門家としてメディア出演実績500件超。『効率よく短期集中で覚えられる 7日間勉強法』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。
更新:01月31日 00:05