
近年増えつつある「年上部下」。年下として相手の顔を立てながら、上司として指示も出さなければならないという矛盾した対応を迫られ、困っている管理職も多いだろう。コミュニケーション研修講師として、これまで5万人以上のビジネスパーソンを指導してきた濱田氏に、年上部下との接し方の秘訣を聞いた。(取材・構成:坂田博史)
※本稿は、『THE21』2024年11月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

一定の年齢になると部長や課長といった役職を離れる役職定年制度が広がったこともあり、「年上の部下」をもつチームリーダーが増えています。
年上の人とのコミュニケーションは、誰にとっても気を遣うもの。それは年上部下に対しても同じであり、リーダーとして注意すべきことや指導すべきこともあるため、対応に苦慮するリーダーが多いのかもしれません。
まず、リーダーが知っておくべきは、年上部下の気持ちです。「役職定年で役職がなくなったけれども、自分の能力が下がったわけではない」「自分が下の立場にいるのは、会社の人事制度や評価制度、それに評価者がおかしいから」──こうした会社への不満などもあり、年上部下には、モチベーションが低い人が多くいます。
会社に対する不満を若いメンバーに頻繁に話す人もいれば、ミーティングで冷めた発言をする人、会議でネガティブな発言ばかりする人などもいることでしょう。
しかし、それにリーダーがいらだってしまい、その場で年上部下を非難してしまうと、関係性が壊れてしまいます。過剰に反応することなく、笑ってやり過ごすことも、ときには必要です。
また、年上部下の中には、年下リーダーに気を遣って、チーム運営の邪魔にならないように発言を控える人もいます。
リーダーと年上部下が、お互いに気を遣って遠慮し合い、コミュニケーションが不足する。あるいは、お互いが本音を話さないため、いつまでたっても、よそよそしい関係が続く。こうした状態は、両者にとって良いことではありません。
年齢や会社での立場から、前向きな未来を描きにくい年上部下の気持ちを理解したうえで、リーダーから様々なコミュニケーションをとることが大切になります。
なぜなら、モチベーションが低い年上部下であっても、何とか活躍してもらうことが、リーダーの重要な役割だからです。
チーム運営やマネジメントにおいて、年上であっても、年下であっても、リーダーが同じように行なわなければならないことがある一方、年上部下であることを考慮に入れ、少し工夫した対応をとったほうが良いこともあります。
例えば、リーダーが決めたチームの方向性と各メンバーの意向をすり合わせて役割を決めていくのは、年上であろうと年下であろうと一緒です。
ただ、年上部下の場合、本人の意向が現状維持で、成長を望んでいないことがあります。
「もう先が見えているので、あとは定年まで大過なく勤めあげられればいいので......」
こうしたことを言う年上部下に対しては、リーダーからその人に相応しい役割の提案を行なう必要があるでしょう。
「Aさんのこうした経験が、この仕事のこういった部分に活かせると思うので、この役割を担っていただけませんか」
このように言えば、「私の経験が役立ちますかね」と言いながらも悪い気はしないはずです。「大いに役立ちますよ」と言って、前向きにその役割を担ってもらうようにします。
年上部下だからと遠慮して、「できたら、この仕事をやってもらえるとありがたいのですが」などと中途半端な指示を出すと、「やっても、やらなくてもいいんだな」と年上部下が思う可能性があります。
指示を出すときは、丁寧な言い方をする必要はありますが、目的、内容、期限、要求水準、やり方は、明確な表現で伝えましょう。
ただし、やり方については、細かく指定しすぎると、やらされ感が生まれ、年上部下としてはやる気が出ません。先に述べた「目的、内容、期限、要求水準」をしっかり示したうえで、やり方には自由度を残し、任せることも大切です。
例えば指示は次のようにします。
「来期、新人を受け入れるときに使う(目的)、備品の発注マニュアルを作ってください(内容)。今月中に(期限)、新人が読むだけで実務ができるレベルのもの(要求水準)をお願いします。マニュアルフォーマット(やり方)はこれを使ってください。あとはお任せします」
このような自由度の高い指示は、年上部下を信頼し、尊重しているというメッセージにもなり、年上部下のやる気に火をつけることができます。
仕事内容などによって、ケースバイケースで指示の仕方を使い分けることも、リーダーには求められるのです。

年上部下に対しては、人生の先輩という敬意をもち、それを言動に表すことも重要です。
例えば、出先で一緒に食事をする際には、「どうぞ」と言って必ず上座に座ってもらう。年輩の人には、こうしたことに敏感な人も多く、「気を遣ってくれているんだな」と思ってもらえると、その後のコミュニケーションがスムーズになります。
ミーティングのときに、年上部下に対してだけ、言い方を明らかに変えるのも1つの方法です。他のメンバーには、「これ頼むね」「よろしくね」と言い、年上部下には「Aさん、お願いします」と言えば、「自分を立ててくれているのだな」と思うでしょう。こうした細かな配慮の積み重ねが、年上部下の気持ちを前向きに変えていきます。
来期のチーム方針を発表する前に、年上部下にだけ方針を見せて意見を聞くといった「特別扱い」をすることが有効な場合もあります。「影響力の大きいメンバー一人に事前に方針を伝えておく」というのは、方針をより早く浸透させるための常とう手段です。その一人を年上部下にすることで特別扱い感を与える、まさに一石二鳥の手です。
年上部下に何か注意する場合には、別室に呼ぶなどします。人前で注意すると、恥をかかせることになりますし、相手も素直に聞くことができず、言い訳をして、押し問答になってしまうこともあるからです。
注意の仕方にもコツがあり、私はよくこう言いました。
「どうしたんですか。Aさんらしくないじゃないですか」
いつもはきちんとやってくれていることを暗に伝えることで、本人のプライドを傷つけることなく、注意することができます。
そこで言い訳が返ってきても、それは聞いてあげて「そうでしたか。それは大変でしたが、次からはお願いしますよ」と言い分を受け入れたうえで、次に同じことが起きないように念を押しておきます。
年上部下のモチベーションを高めるために名誉職的な役割を与えるのも有効です。
「Aさんは、私たちの部署の渉外・折衝担当部長ですから」などと言って、その役割を担ってもらいます。
あるいは、「Z君を成長させるためには、Aさんの力が絶対に必要なので協力してください」と言って育成担当を担ってもらう。教えるということは、立場が上になりますので、気持ちも上がります。
会社としての役職がなくても、こうした明確な役割があれば、前向きになれます。
「自分の仕事には価値がある」「自分は職場で価値ある存在である」「自分は成長している」という3つの実感があると、モチベーションが上がります。

人事評価の伝え方は、年上、年下に関係なく、同じやり方で伝えるのが基本です。大事なのは、こうなれば評価が高くなるし、逆にこれができないと評価は低くなる、といった人事評価のルールをしっかりと理解してもらうこと。
リーダーも会社のルールを運用する一人に過ぎませんので、人事評価のルール通りにやることが大事で、そこに私情を挟むと絶対に上手くいきません。
「これも、これもやりました」と主張する年上部下に対しては、「おっしゃる通り、やっていただきました」と認めたうえで、「ただ、それは、現行の評価制度では、この評価になります。このレベルまでやっていただければ、1つ上の評価になりますので、ぜひ来期は、このレベルまでお願いします」といった言い方をすると角が立たず、次への意欲を高めることもできます。
フィードバック面談や1on1面談などは、上司が話す場ではなく、部下の話を聞く場だと心得て、とにかく話を聞く姿勢に徹します。
その際に役立つのがコーチングの手法です。コーチングは、質問と傾聴で相手の考えを引き出す手法です。例えば、「課題はなんでしょうか?」「原因はどういったことだと思いますか?」「次の一手はどうお考えですか?」といった質問で、答えを引き出し、具体的な行動イメージをつくっていくのがコーチングです。
リーダーと部下は上下関係であるため、リーダーの発言はどうしても「上から」になりがちです。しかし、コーチングは相手から引き出していくので、上から感が出ません。年下にも有効ですが、年上部下に対してより効果を発揮しますので、活用することをお勧めします。
年上部下をもつリーダーは、オーソドックスなマネジメントスキルに加えて、今回ご紹介したような、より多くの引き出しをもつ必要があります。
それを「大変だ」と思うのではなく、「自分のマネジメントの幅を広げ、スキルを向上させるよい機会だ」と考えてみてはいかがでしょうか。
【濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)】
(株)ヒューマンテック代表。1960年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社を経て、大手人材開発会社に転職。社員教育のノウハウを習得する。97年に独立。現在はマネジメント、コミュニケーション研修講師として、年間150回以上の講演を行なっている。著書に、『「年上の部下」をもったら読む本』(きずな出版)などがある。
更新:10月30日 00:05