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「どう説得するか」を考えた時点で負け 「検討します」で終わる営業が見落とすサイン

奥村友裕(株式会社クラフトアール代表取締役)

「検討します」で終わる人と、その場で相手に決断させる人の違いとは?

提案を聞いた相手は何度もうなずき、質問にも的確に答えてくれた。ところが最後に返ってきたのは、「社内で検討します」のひと言。その後、何度連絡しても返事はない――。営業や商談の場で、こうした経験に心当たりのある方は多いのではないでしょうか。

「検討します」で終わる人と、その場で相手に決断させる人。両者を分けるものは、話術でも提案の質でもありません。大手コンサルティング会社で3年連続の年間受注記録を更新し、殿堂入りを果たした奥村友裕氏は、「違いはたった1つ。説明を始める前に、何を見ているかだ」と語ります。

※本稿は、奥村友裕著『決断の正体 説得しなくても相手が動き出す条件』(Publish &)の内容を基に書き下ろしたものです。

 

「検討します」と言われてからがセールスだと思っていた

私は長いあいだ、人が「決める瞬間」と「決められない瞬間」を観察してきた。営業として、コンサルタントとして、そして経営者として。

その中で、ほぼ確信をもって言えることがある。
「検討します」は、断りの意思表示ではない。

多くの人はこの言葉を「やんわりとした拒否」と受け取り、追加の資料を送り、事例を足し、値引きを持ちかける。だがその大半において、相手は提案を退けているのではなく、「決めたい気持ちはあるのに、決めきれない」状態に置かれている。

これを裏づける調査がある。営業研究の古典であるニール・ラッカムの「SPIN」研究は、35,000件超の商談を分析し、「大型案件ではクロージング技術を多用する営業ほど成約率が下がる」という結果を報告した。説得の圧力を高めるほど、相手は決められなくなる。「検討します」の正体は、説明不足ではないのである。

とはいえ、私がこのことを本当に理解したのは、ずいぶん後になってからだ。若いころの私は、「『検討します』と言われてからがセールスだ」と、本気で思っていた。

 

5時間の商談を経て届いた一通のメッセージ

コンサルティング会社で営業をしていたころ、ある地方都市の経営者との大型商談に、期待していた部下を同席させたことがある。「目の前で受注する姿を見せることが、彼の飛躍の一助になれば」という気持ちもあった。かなり息巻いて、その商談に臨んだのを覚えている。

私は導入すべき理由を理路整然と並べた。それでも相手が迷えば、別の角度から説明した。最後には、「今やらないと男じゃない」というくらい感情にも訴えた。論理でも感情でも、四方八方から受注に向けて攻め続け、商談は合計で約5時間に及んだ。そして結果として、私は大型の受注を取りつけた。

ところが、帰りの地方路線バスに揺られていると、その経営者からショートメッセージが届いた。

「先程の話は、白紙に戻してください」

その瞬間、私はめちゃくちゃに腹が立った。「あれだけ営業したのに」と。

 

「あれだけ営業したのに」という怒りが、すべてを物語っていた

振り返ると、この「あれだけ営業したのに」という感情そのものが、当時の私が完全に自分本位だったことを象徴している。5時間も話していながら、私はずっと「どうすればこの人を説得できるか」を考えていた。「この人は何を守ろうとしているのか」を、一度も考えていなかったのだ。

さらに、今でも引っかかっていることがある。その経営者は商談の途中で、息子さんの話をしていた。将来的には息子に経営を継がせたい。しかし、まだ会社に馴染めておらず、今は社内で別の仕事をさせている、と。私はその話を聞き流した。それが白紙撤回の直接の理由だったかどうかは今もわからない。ただ、今の私なら、その言葉を絶対に素通りしない。

息子に会社を継いでもらいたい経営者にとって、新しいシステムやサービスを入れるという判断は、「自分が決めること」ではなく、「息子の代に何を残すか」という判断だったのかもしれない。もしそうなら、そこにはためらいがあり、社内への配慮があり、時間軸があったはずだ。もちろん、それが本当の理由だったかどうかは本人に確かめていない以上、予測の範囲を出ないだろう。だが、相手の言葉からそうした仮説を置き、決めつけずに問いかけて確かめる。それが、当時の私にはできていなかったのだ。

 

「どう説得するか」を考えた時点で、もう負けている

「検討します」で終わる人は、「どう説明すれば納得してもらえるか」を考えている。一方でその場で決断させられる人は、「この人は何を守ろうとしているのか」を考えている。これが両者を分ける、唯一の違いである。

人は、目の前の提案が客観的に優れているかどうかで決めているわけではない。自分が抱えている制約の中で、「これなら大丈夫だ」と感じられるかどうかで決めている。だとすれば、必要なのは提案の優位性を証明することではない。相手が何を失うことを恐れ、何を守ろうとしているかを理解し、その内側で安心して踏み出せる道筋を示すことだ。

前述の商談で言えば、息子さんの話が出た瞬間に、私は説明をやめて、こう尋ねるべきだった。「息子さんが継がれることを考えると、今のタイミングで新しい仕組みを入れることに、迷いがありますか」。

相手が強く反応すれば、仮説は当たっている。反応が薄ければ、別の角度から問い直せばいい。相手から出る懸念や、ふと漏れる余談は、反論ではなく、その人の判断構造を読むための最良の手がかりなのである。

 

YESは取れたけれど、決断は取れていなかった

あの日の私は、持っている営業技術を総動員して、YESを取りにいった。そしてYESは取れた。だが、本当の意味での決断は、取れていなかった。相手は説得に押されてうなずいただけで、自分の中で「やる理由」を完成させていなかったのだ。だから、私が視界から消えた瞬間に、YESは消えた。

私の言う「即決」とは、その場でイエスを取りつけることではない。相手の内側で引っかかっていたものが言葉になり、本人が自分で決められる状態をつくることだ。構造が見えると、相手は「この人は、自分が守ろうとしているものをわかっている」と感じる。人は、自分の事情を理解していない相手に判断を委ねようとは思わない。逆に、理解してくれる相手には自然と信頼を寄せ、その信頼の上でなら、自ら一歩を踏み出せる。そのとき「検討します」は出てこない。検討すべき論点が、もうその場で言語化されているからである。

 

追加資料を送る前に、自分に問うべきたった一つのこと

「検討します」と言われたら、資料を送る前に一つだけ問い直してほしい。自分は「どう説明するか」を考えていなかったか。「この人は何を守ろうとしているのか」を、先に考えていたか。その順番の違いが、たった1つの違いである。

これは営業に限らない。会議での合意形成も、部下への指示も同じだ。人が動くのは説得されたときではなく、自分の中で「やる理由」が完成したときであり、その理由は、相手が守ろうとしているものの延長線上にしか生まれない。5時間かけてYESを取り、バスの中でそれを失った日から、私はそのことを考え続けている。

プロフィール

奥村友裕(おくむら・ともひろ)

株式会社クラフトアール代表取締役

1976年、大阪府生まれ。「決断学」研究家、ディープコーディング提唱者。大学院で組織心理学・人材マネジメントを研究。その後、一貫して「人はなぜ動くのか」「人は何によって決断するのか」をテーマに探究を続ける。大手コンサルティング会社で、後に「ディープコーディング」として体系化する独自のアプローチを実践し、3年連続で年間受注レコードを更新、殿堂入りを果たす。現在は、ブランディング・経営コンサルティング・幼児教室運営の3事業を展開。企業の商品開発やブランド構築、人材育成を通じて、人や組織の意思決定をデザインする独自理論「ディープコーディング」を提唱・実践している。

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