
SNSで指定された文章をコピペし、リンクを貼るだけ。そんな手軽な副業が、知らないうちに犯罪への入り口になることがあります。
たとえ商品を直接販売していなくても、自分の投稿をきっかけに被害者が詐欺的なサービスへ誘導されれば、「紹介しただけ」では済まない可能性があります。しかも、人はサービスそのもの以上に、紹介してくれた「人」を信用するものです。
本稿では元刑事の森雅人氏が、副業紹介で犯罪に加担してしまうリスクをひも解きながら、安全な紹介と危険な勧誘の境界線、個人と会社が講じるべき対策を解説します。
※本稿は、森雅人(著)、足立直矢(監修)『これだけで、逮捕』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
【危険度レベル】
★★★☆☆ 逮捕リスク
★★★★☆ 懲戒・損害賠償リスク
★★★☆☆ 実名報道されたら人生終了
ある会社員Aは副業としてSNSを運用していた。内容は、「誰でも月10万円」「スマホだけで稼げる」「初心者歓迎」といった文言をSNSに投稿する、副業紹介。紹介リンクから申し込みが入ると、紹介料が支払われる仕組みだった。しかし、本人は実際に副業の内容を確認していなかった。紹介文も、運営側から渡された文章をコピペしてそのまま投稿していた。
その後、紹介先の事業者が高額情報商材を販売していたことが発覚。さらに、一部の利用者から「騙された」「説明と内容が違う」という相談が相次いだ。
警察は紹介経路を捜査。SNS上で継続的に勧誘を行っていたAにも事情聴取を実施した。Aは、「紹介しただけ」「違法だとは思わなかった」と説明したが、詐欺グループの勧誘活動に加担したとして逮捕・送検された。
【ココがアウト!】
〇詐欺罪に加担する可能性
虚偽の説明で利用者を勧誘し、財産的被害を発生させる行為が対象。
〇職業安定法違反の可能性
無許可で求人・勧誘を行うケースに適用。
この手の事件を見ていて、いつも感じることがあります。それは、多くの人が副業そのものを信じて申し込んでいるわけではない、ということです。
もし見ず知らずの人から突然、「誰でも月収100万円」「スマホだけで稼げる」「絶対に失敗しない投資です」と紹介されても、ほとんどの人は信用しないでしょう。
しかし、その紹介してきた相手が友人だったらどうでしょうか。普段からSNSで見ている人だったらどうでしょうか。同じ会社の先輩だったらどうでしょうか。「あの人が言うなら...」と、思ってしまうのではないでしょうか。
人は、副業を信じる前に紹介者を信じます。だから、「紹介」という行為には、思っている以上の影響力があるのです。
刑事として話を聞いていると、「私は紹介しただけです」という言葉をよく聞きました。この手の事件で怖いのは、紹介している本人が悪意を持っていないことです。
自分も信じていた。本当に儲かると思っていた。相手のためになると思っていた。
そう本気で思っていたから、ブレーキがかからないのです。
人は副業そのものより、人を信じます。
だからこそ、紹介する前に「これは本当に、人にすすめても大丈夫なものなのか」について、しっかり考えなければいけません。
まず知っておいてほしいのは、副業を紹介すること自体は違法ではありません。実際、アルバイト情報を紹介する、転職サービスを紹介する、自分が使ってよかったサービスを紹介する、といった行為は日常的に行われています。
問題になるのは、紹介した内容が違法だった場合です。この時、最も問題になるのは、詐欺罪への加担です。
たとえば、「誰でも月収100万円」「絶対に儲かる」「リスクはありません」。そんな言葉で人を集め、実際には説明と異なる商品やサービスを契約させていた場合、勧誘した側も責任を問われる可能性があります。
多くの人は、「自分は運営者じゃない」「実際に商品を売ったわけじゃない」「説明会へ案内しただけ」と考えます。
しかし、被害者から見れば、その勧誘がきっかけで申し込んだことに変わりはありません。そのため、内容や関わり方によっては、勧誘した側も問題視されることがあります。
また、投資案件の場合は、金融商品取引法や出資法。求人案件の場合は、職業安定法。勧誘内容によっては、これとは別の法律が問題になることもあります。
つまり、「紹介しただけだから大丈夫」とは絶対に言えないのです。
さらに重要なのは、継続性と報酬です。一度だけなのか。何十人も勧誘しているのか。紹介料を受け取っているのか。苦情が出ていた、返金トラブルが起きていた、SNSで悪評が広がっていた、それでも勧誘を続けていた。こうした事情は、関与の深さを判断する材料になり、「知らなかった」という説明が通りにくくなります。
このテーマで問われるのは、「紹介したかどうか」だけではありません。何に勧誘したのか。その実態をどこまで理解していたのか。
ここが、合法な紹介活動と、犯罪への加担を分けるポイントになります。
大原則はシンプルです。実態を理解していない副業は、人にすすめないこと。
SNSには、
・リンクを貼るだけ
・D Mを送るだけ
・説明会へ誘導するだけ
といった紹介系の副業が数多くあります。
しかし、人を動かす行為には責任が伴います。「紹介しただけ」では済まないこともあります。
だからこそ、何を売っているのか、どんな仕組みなのか、どんなリスクがあるのか。
そこまで理解できないものは紹介しないようにしましょう。
次に、「簡単に稼げる」という言葉は必ず疑うことです。
・誰でも稼げる
・絶対に儲かる
・スマホだけで月収100万円
・紹介するだけで報酬がもらえる
こうした言葉が並んでいたら、一度立ち止まってください。
私が刑事時代に見てきた詐欺や闇バイトも、最初は魅力的な言葉から始まっていました。しかし、本当に安全な仕事ほど派手な言葉は使いません。
そして最後に、自分自身へ質問してみてください。
「この副業を家族にすすめられるか」「親友にすすめられるか」「仕事内容を全部説明できるか」。少しでも迷うなら、勧誘しないほうが安全です。
目先の報酬より、自分の信用を守ること。それが最大の対策です。
近年は副業を認める企業が増えています。それ自体は悪いことではありません。
問題なのは、副業そのものではなく、その中身です。
社員本人も気づかないうちに、
・詐欺的な投資案件
・情報商材販売
・闇バイト
・違法な勧誘行為
などに関わってしまうケースがあります。
だからこそ会社は、「副業をするな」ではなく、「どんな副業をしているのか」を把握することが重要です。副業申請制度。事前相談制度。利益相反の確認。こうした仕組みを整えることで、多くのトラブルは未然に防げます。
SNSに関する教育も欠かせません。
多くの人は、SNSで副業を紹介することに法的リスクがあるとは考えていません。しかし実際には、本人は情報発信のつもりでも、第三者から見れば勧誘と受け取られることがあります。その危険性を、社員へ伝える必要があります。
さらに、副業トラブルは個人だけの問題ではありません。
社員が詐欺的な案件を勧誘していた。会社名をプロフィールに記載していた。制服姿で発信していた。こうしたケースでは、会社の信用問題に発展することもあります。
重要なのは、社員を監視することではありません。社員が違法行為や詐欺的なビジネスに巻き込まれない環境を作ることです。
会社の就業規則などに反しなければ、副業は自由です。しかし、自由には責任が伴います。
会社としても、社員としても、「何を紹介・勧誘しているのか」を確認することが最大の予防策になります。
更新:09月14日 00:05