
『結局、熱狂できる人がうまくいく。』(PHP研究所)を上梓したプロ経営者・福田淳氏と、昨年11月に『後継者不足時代の事業承継』(集英社新書)を出版した大塚家具元社長・大塚久美子氏の特別対談。前編では、逆境を乗り越えるための「楽観する意志」について語り合った。後編では、福田氏の著書のテーマでもある「熱狂」の正体に迫る。
(取材・構成:井尾淳子、写真撮影:織田桂子)
【大塚】福田さんのご著書のタイトルには「熱狂」という言葉が入っていますね。私はビジネスにおいて、多分これと似たような感情を「愛情」と呼んでいるんです。
【福田】プリミティブ(根源的)な意味で、ですか?
【大塚】はい。「それだけ自分のエネルギーをつぎ込めるかどうか」という意味です。
ファミリービジネスであろうとなかろうと、仕事にはこの感情的なコミットメントが絶対に必要だと思います。仕事をしていると、楽しくないこと、退屈なこと、理不尽なこともたくさんやらなきゃいけないじゃないですか。辛い仕事だからこそ、根底に愛情や熱狂がなければ絶対に続かないんですよ。
【福田】本当にそう思います。楽しいことばかりやりたいと思っても、現実は楽しくないことの方が多い。その根底を支えるのが「愛」であり、「熱狂」なんですよね。
だから僕は、愛情を注げなかったり、熱狂できなかったりするような仕事のために、毎日満員電車に揺られて通うのはやめなさいと言いたいんです。僕自身、生まれてからそんな働き方はしたことがありません。何かを見つけたら、大切に育てて、水やりを欠かさない。そうやって熱狂を注いできました。
【大塚】どこかで「没頭する部分」があるからこそ、退屈なことにも我慢できる。熱狂は、ビジネスにおける絶対の必要条件だと思います。

【大塚】ただ、面白いのは「熱狂(愛情)」だけでは経営はできないということです。熱狂の一方で、どこかに必ず「冷静な部分(合理性)」がなければいけません。福田さんはそこのバランスが絶妙な方ですよね。
【福田】悩みながらやっていますけどね(笑)。でも、愛と合理性のバランスというのは非常に面白い視点です。
【大塚】実はファミリービジネスの研究の中には、「お婿さん(娘婿)」が社長になった時の経営が、業績が良いというデータを示しているものがあるんです。
【福田】面白いですね!娘婿だと、創業家からの岩盤のようなプレッシャーがすごいから頑張るんでしょうか?
【大塚】それもあるかもしれませんが、やはり「愛情と合理性のバランス」が一番取りやすい立ち位置だからだと思います。
娘婿は第三者として外から入ってきますから、生まれた時からその家の価値観に“洗脳”されきっていません。だから客観的にビジネスを見る「冷静さ(合理性)」を持っています。
一方で、自分の子どもが将来その後を継ぐわけですから、家族やその家に寄り添い、盛り立てようとする「愛情(熱狂)」も自然と湧いてくる。血縁がなくても、愛情や熱狂を持つことができれば、大きな成果を上げられるという証明ですよね。
【福田】なるほど、「娘婿理論」ですね。与えられた環境に対して真剣になり、愛を持ちながらも、合理的に判断できる。ビジネスパーソンにとっても非常に参考になるスタンスです。

【福田】僕はいろいろな経営者から相談を受けることが多いのですが、外からはわからない基本的なこと――例えば「借金はいくらですか?」「どんな新規事業がありますか?」と質問したとき、スパッと答えられない人が意外と多いんです。
【大塚】自社の状況を正しく把握できていないのですね。
【福田】そうなんです。みんな「日常ってそんなに簡単には変わらない」と思い込んでいますが、僕はけっこう変わると思っています。
注意深く毎日を観察し、日常を「再点検」しなければ、ビジネスの飛躍はありません。会議ひとつとっても、そこに必ずヒントは落ちています。
だからこそ、大塚家具をどうリブランディングするかと久美子さんとお話ししていた時は、すごくワクワクしました。久美子さんには愛もあるし、知識も経験もある。「ここには飛躍の条件が揃っている!」と感じたからです。
【大塚】失敗したとしても、なぜ失敗したのかと「問い続ける」ことが大事ですよね。結果が表面的には失敗に見えたとしても、そこから得るものが、学びになる。そうしてまた、バッターボックスに立ち続けることが一番大切なんだと、今回自身の本を書いて、改めて感じました。
【福田】久美子さんには、世間にあまり知られていない「ものすごいひたむきなエネルギー」がある。それが今回のご著書を通じて、多くの人に伝わっているのを感じます。
【大塚】ありがとうございます。私の経験を言語化し、整理したことが、事業承継やビジネスの壁に悩む方々の力になれれば嬉しいです。
【福田】熱狂って、特別な才能じゃないんですよね。今日またバッターボックスに立ってみようと思えること。その積み重ねなんだと思います。
【大塚】結局、またバッターボックスに立つしかないんですよね。
【福田】本当に(笑)。だから僕は、100回失敗しても101回目に立てばいいと思っています。
【大塚】そのくらいの気持ちでいた方が、人生はずっと楽しいですよね。
更新:08月13日 00:05