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ゴールしなくても勝ち!? 人気小説家もハマった自転車競技の奥深さ

松尾清貴(作家)

ゴールしなくても勝ち!? 人気小説家もハマった自転車競技の奥深さ

新刊『偏差値70の自転車競技部』を上梓した小説家の松尾清貴氏。松尾氏の目から見た、競技自転車の魅力とは何か?実体験も含め、語ってもらった。

 

ロードバイクに初めて乗ってみて...

ーー最新シリーズ作『偏差値70の自転車競技部』を発売された松尾さん。今回、このような企画を開始されたきっかけを教えてください。

【松尾】『偏差値70の野球部』というシリーズを14年前に執筆しました。

その後、同じような企画をもう一度やることはあまり考えていませんでしたが、編集者さんに「ロードレースや自転車競技だったらどうか」と提案され興味を持ったのがきっかけです。

ーー松尾さんご自身は元々ロードバイクについて詳しかったのでしょうか?

【松尾】いえ、その時点ではロードバイクに乗ったことがありませんでした。一般的な自転車とそう違わないだろうと思っていたのですが、実際に乗ってみるとまったくの別物でしたね。

どのあたりが違うかというと、まず軽さが段違いです。圧倒的に軽量化されているので、当然スピードも出る。

あと、驚いたのが形状の違いです。ママチャリは背筋を伸ばすような姿勢で乗りますが、ロードバイクはハンドルの形が違い、サドルの方がハンドルより高い。すると自然と前傾姿勢になり、空気抵抗を感じにくいフォームになるんです。

ーーあの独特の形状にはそんな理由があったんですね!

【松尾】今では、日常的にロードバイクに乗っています。足が痛くなることもあまりないので、かなり長い時間乗っていられます。

 

知られていない競技自転車の魅力

ーー競技自転車の戦略性や科学性は、取材などを通して理解されていったのでしょうか。

【松尾】実際に高校生の練習や試合の様子を見学しました。高校の自転車競技部にはロードレースだけでなく、競輪場で行うトラック競技もあります。ご存じの方は少ないでしょうが、高校生のトラック競技は競輪場で行われているんです。

ーーそうなんですね!?

【松尾】中へ入っても観客はおらず、私だけが見ているような状態でした。これではなかなか普及しないのではないかと思いましたね。高校野球なら、県予選でも観客がいます。決勝ともなれば神宮球場や横浜スタジアムのような大規模な場所で行われ、大勢のお客さんが入ります。自転車競技には、そういう雰囲気があまりありません。

ーー業界全体のことを考えると、少しもったいないですね。

【松尾】実際に見てみるととても面白いんですけどね。私も調べるまで、競輪場で高校生の競技が行われていること自体を知りませんでした。

日本は世界的に見てトラック競技が強いんですよ。その要因として、国中に競輪場という練習場所があるからとも言われています。そうした日本のポテンシャルも知られていないのは残念です。

ーー競技自転車の世界全体が科学的なトレーニングをしているため、主人公たちが他とどのように差をつけるかを書くのが難しかったというお話がありました。そのジレンマをどのように打破されたのでしょうか。

【松尾】自転車競技では科学的な研究が蓄積されているので、まず研究成果を作品の中に落とし込むことができます。そのうえで、現実ではまだ行われていないことを探しました。

たとえばコーナーを曲がるときは、距離の短いインコースを走るのが当たり前です。では、アウトコースを回るとどうなるのか。そこに何か理屈がつけば使えるかもしれない。そういう発想で探していきました。

ただ、厳密に言えば、そういうアイデアも現実の競技の中ですでに検討され、否定されているので表に出ていないだけ、という可能性もあります。

ーー現実には再現が難しいことでも、演出によって画期的に見せられるのはフィクションならではの魅力でもありますね。

【松尾】そもそも理論自体が大事なのではありません。その理論が主人公の性格やその後の展開、心情の変化に関わってくる。大雑把に言えば、メタファーです。

ーー実際に競技場へ足を運び、さまざまな資料を調べたうえで感じた、競技自転車の魅力は何でしょうか。

【松尾】間近で競技を見ると迫力がすごいです。思っているより自転車は速いんです。

トラック競技を行う競輪場は、速く走るのに適した形になっています。街中で普通の自転車を見る感覚で見ていると、スピードの違いに驚きます。

またトラック競技には、まったく異なる種目がたくさんあります。ルールも複雑かつさまざまで、何も知らずに見たら何をしているのかわからないこともあります。でもルールがわかると、選手が何をしているのか、駆け引きまでわかって一段と面白く感じますよ。

ーー具体的に、面白いルールを1つ教えていただけますか。

【松尾】今作、トラック競技でメインにしたのは「チームパーシュート」という競技です。4人1組のチームで走ります。

4人が一列になり、空気抵抗を避けながら走るのですが、ゴールするのは3人でいいんです。つまり、1人は途中で脱落してもよい。その選手が思い切り先頭に立ち、長い距離を引いて、途中で力を使い果たすことができます。

先頭の選手はローテーションで交代します。高校の競技は4キロくらいだと思いますが、4キロを1人でずっと引くのは合理的ではありません。

交代しながら先頭を引き、最後は1人が力尽きるまで走って途中で脱落します。

ーーそれは面白いですね!ルールを理解していないと、「何をやっているの?」と思ってしまいそうです。

【松尾】今作の主人公は、アシストで活躍したいと考えているという設定です。

アシストとは、チームのエースを1着でゴールさせるために、自分が犠牲になるようなポジションです。その役割は、ロードレースよりもチームパーシュートの方が見えやすい。ルール上、ゴールしなくてもいい選手がいるからです。

ーー作品の中でも、そうしたルールの面白さを主人公のキャラクター性と掛け合わせて楽しめるということですね。

【松尾】そのとおりです。

プロフィール

松尾清貴(まつお・きよたか)

小説家

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