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レシピ解禁! 佐々木俊尚流・まったく飽きない自家製レモンサワー

佐々木俊尚(文筆家・ジャーナリスト)

「名もなき料理」

「美味しい料理ほど飽きる」という、一見矛盾した現象がある。毎日続く家庭料理だからこそ、「感動する一皿」ではなく「飽きない一皿」が健康と料理の負担を減らす鍵になるという。

※本稿は、佐々木俊尚 著『人生を救う 名もなき料理』(ダイヤモンド社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

飽きる家庭料理は破綻する

名もなき料理の第二原則「過剰な美味しさを求めない。毎日食べ続けられるひと皿を」のメリットとして、「健康に良くて飽きない」ということを挙げた。

強いうま味には、その料理に飽きやすいという問題がある。この問題を乗り越えることが、日々の食事にはとても大事なのだ。なぜなら飽きてしまうと、日々の食事を用意するのがたいへんになる。手を替え品を替え、新しい料理を編み出さないといけなくなる。

それは面倒だし、頭も使う。そんな面倒に手を染めないで、水が自然に流れるように日々の料理をできるようにしたほうが良い。そのためには飽きない料理を食べることが大事なのだ。

この「うま味が強いと飽きる」問題は、書籍『コクと旨味の秘密』でも指摘されている。ラーメンの流行りからそれがわかるというのだ。引用しよう。

「お客の行列の方向は強烈なコクとあっさりしたコクとの間を周期的に振れているようにも見えます。実は強烈すぎるコクは、誰にでも強い感激を与えられるパワーの反面、飽きられやすい弱点があります。あまりにも満足しすぎると人間は飽きというやっかいな感覚を抱くようです。誰もが求めるコクなのにコクが強すぎると飽き易いのは不思議です。ポテトチップスなどのスナック菓子でも業界では同様のことが言われています。あんまりおいしすぎると飽きられやすいのだそうです」

たまに食べに行くラーメンなら飽きても問題ないが、日々の家庭料理で「飽きやすい」というのは重要問題である。

なぜなら飽きてしまったら、他の料理を考えなければならないからだ。淡々と続いていく日常の暮らしの中で、なるべく料理はシンプルにしたい。できれば毎日同じものでもいい。たくさんのレシピを覚えなくてもいいし、作るのにも頭を使わないで済む。

知人に「朝ごはんは毎日毎日、卵かけご飯。1年365日、卵かけご飯」という人がいる。

最初に聞いたときは驚いたが、よく考えてみればこれは素晴らしい朝食だ。生卵はタンパク質と脂質、ビタミンBなどがたっぷりだ。うま味であるグルタミン酸も少量含まれている。これに適度な塩分のある醤油と炭水化物の米を合わせるのだから、すぐれた完全栄養食ではないだろうか。そして何より、卵かけご飯は決して飽きない。生卵のうま味が強すぎないからだ。

わたしは卵かけご飯はときどきにしか食べないが、朝ごはんはいつも同じような献立ばかりである。

白米か玄米のご飯と味噌汁、自家製の浅漬け、それにハムかソーセージか卵焼きを添える。あるいはうどんかそば。つるんとした喉ごしが好きなので、冬でも冷水で締めてざるにあげる。醤油とみりん、水を1:1:4にして昆布とかつお節を入れて弱火で五分ほど煮た自家製の麺つゆ。夏はキンキンに冷やして、冬は熱くして豚肉や鶏肉、刻んだ小松菜などと一緒に食べる。

こういう朝ごはんをもう二十年以上も繰り返し食べているが、「飽きた」と感じたことは一度もない。うま味調味料や市販の麺つゆ、だし入り味噌などは使わないようにして、過剰なうま味を避けているからだ。

わたしは原稿を書く仕事をメインにしているので、長くパソコンの前に座っていると脳が疲労してくる。そういうときに、糖の入ったものを少し食べると脳が元気になるのだが、ここでも「うま味に走りすぎないように」と自制している。

常備しているのはひと口サイズの羊羹や、カカオ成分の多いチョコレート、素焼きのミックスナッツ。さらには乾パンまでガラス瓶に入れて置いてある。「乾パンって非常食のあれを...日常的に食べるんですか?」と聞かれることがあるが、乾パンは意外に美味しい。昔はもっと不味かったような記憶があるが、企業努力で美味しくなったのだろう。かみしめるととても味わい深い。そして飽きない。

 

まったく飽きない自家製レモンサワーの話

飽きないと言えば、お酒の話もしてみよう。

わが家の晩酌の定番は、手ごろなワインや日本酒だ。軽く飲みたい、というときには缶チューハイにも手を出すことがある。

このジャンルの進化はものすごい。21世紀に入ったころにキリンが「氷結」を発売したときには「すごい、生のレモンの味がする!」と驚愕したのを覚えているが、そこからどんどん味は進化し続け、2019年にコカ・コーラが「檸檬堂」を出したときには「これはもう完成形ではないか」とさらに驚愕した。実にうまいのは間違いない。

ところが、である。何日も連続してこの手の缶チューハイを飲んでいると、だんだんと飽きてくる。美味しすぎて、疲れてくる感じがするのだ。

最近の缶チューハイは焼酎と生のフルーツの果汁が主成分だが、それ以外に香料や酸味料などが加えられ味に工夫がなされている。とにかく「美味しくする」という創意工夫が凄まじいのだが、その凄まじい美味しさが逆に人の舌を飽きさせてしまうのである。

そこでわが家では近年、缶チューハイはやめて自家製のレモンサワーを作っている。

作り方としては、まず1リットルぐらいの密閉できるガラス瓶を用意する。レモンは輪切りにはせず、リンゴの皮をむくようにして黄色い皮だけをぐるりと切り取って瓶に入れる。濁ってしまうので、実の部分は使わない。実は別にとっておいて、サラダなどを作るときに使うのだ。

氷砂糖を、大さじ2杯か3杯ぐらい。入れすぎると甘ったるくなり、かといって皆無だとちょっと飲みにくい。うっすらと甘いぐらいがちょうど良い。そこに焼酎をたっぷりと注ぎ、ふたをして常温で保管する。3日目ぐらいから美味しく飲めるようになる。

そしてこの自家製レモンサワーは、まったく飽きないのだ。シンプルで何の創意工夫もしていないから、ものすごく美味しいという要素は皆無。だからこそ飽きないのである。

先ほど紹介した『美味しんぼ』のエピソードで、主人公の山岡はこう言っている。

「どんなに素晴らしいレストランでも、一週間通えばウンザリするけれど、ちゃんとした家庭のお惣菜は毎日食べ続けても飽きないよね」

もう一度言っておくが、わたしはうま味を否定しているのではない。うま味は料理に必要なものなのだが、今の日本の家庭料理はあまりにもうま味を過剰に求めすぎていると思う。だからうま味が強い調味料を使いすぎるのではなく、食材からにじみ出るうま味を中心にして料理を考えたいと思っている。これならうま味は過剰にならず、依存することもなく、飽きないからだ。

「名もなき料理」

プロフィール

佐々木俊尚(ささき・としなお)

文筆家・ジャーナリスト

1961年生まれ。兵庫県出身。〔株〕毎日新聞社などを経て、2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルに至るまで幅広く取材・執筆している。『フラット登山 日本を歩く旅60』(かんき出版)、『この国を蝕む「神話」解体』(徳間書店)など、著書多数。電通総研フェロー。

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