
「最近元気がないな」と感じた部下を、
※本稿は、西原亮 著『コンサル時代に教わった 仕事ができる上司の当たり前』(ダイヤモンド社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
仕事はきっちりできているのに、なぜか自信がなく漠然とした不安を持っている部下を見たことはありませんか。
伸び悩む部下に対しては「一体何が原因だろう?」と問題を探す上司が大半です。
しかし、原因分析をしていくうちに、仕事以外のプライベートの悩みなどが出てきたら、もはや上司では何も解決することができず、沼にハマってしまうことになります。
大事なのは、部下の問題解決をする前に「次の期待」と「そこへの階段」を明確に示すことです。
コンサルティング会社時代、私は部下のAさんにクライアントとの会議の議事録を作成するよう依頼していました。部下のAさんはみるみるうちに議事録作成の時間を短縮し、質も高まっていきました。一般的なコンサル1年生と比べてもAさんの成長は早いほうでした。
一方で、Aさんは、「このままでいいのか、自分に力がついているのかわからない。評価されているのだろうか」という仕事への漠然とした不安を感じていたのです。
なぜ、仕事ができているにもかかわらず、Aさんは不安を感じていたのでしょうか?それは、「この仕事の先に何があるのか」という未来の景色がまったく見えていなかったからです。
たとえるなら、Aさんは暗闇の中でランニングマシーンの上を走っているような状態でした。上司である私から見れば「スピードが上がっている」「フォームがきれいになっている」と成長が手に取るようにわかります。
しかし、走っている本人からすれば、景色は変わらず、どこに向かっているのかもわからず、ただ「走り続けなければならない」という疲労感と、「いつまで走ればいいのか」という恐怖感しかありません。この状態で「君は速くなっているから大丈夫だ」と声をかけても、不安が払拭されるはずがないのです。
そこで私は、Aさんとの面談で、明確な「成長の地図」を渡すことにしました。それが「次の期待」と「そこへの階段」です。
私はAさんにこう伝えました。
「Aさん、あなたの議事録はもう完璧で、チームで一番信頼している。だからこそ、次のステージに進んでほしい。私が期待しているのは、この会議のファシリテーター(進行役)をできるようになることだ。議事録で議論の構造を誰よりも理解しているAさんなら、絶対にできる」
Aさんは驚いた顔をしていました。「ただの議事録係」だと思っていた自分の仕事が、チームを動かす「ファシリテーター」という役割につながっているとは想像もしていなかったからです。
とはいえ、いきなり「明日からファシリテーターをやってくれ」と言えば、新たな不安を生むだけです。そこで、具体的な「階段」を示しました。
例えば次のようなことです(下図)。
1段目は、会議の決定事項とネクストアクションを構造化して捉える力(Aさんはもうこれを手に入れています)。
2段目は、「アジェンダ(議題)の作成」。会議のゴールを設定し、どのような順番で話せば結論が出るかを設計する力です。来週からはここをAさんに任せたいと伝えます。
3段目は、「タイムキーパー」。限られた時間の中で、アジェンダ通りに議論が進んでいるか、時間を管理する力です。
そして4段目が、「ファシリテーター」。場の空気を読み、意見を引き出し、合意形成を図る力です。
これらを伝えた瞬間、Aさんの表情から「漠然とした不安」が消え去ったのを鮮明に覚えています。「今の議事録作成という仕事は、単なる作業ではなく、ファシリテーターになるための基礎トレーニングだったんだ」と、自分の仕事に「意味」と「方向性」が生まれたからです。
翌日からAさんの働き方は劇的に変わりました。ただ議事録をとるのではなく、「次のアジェンダはどう組み立てればいいか?」「今の議論は時間が押していないか?」という、ファシリテーターの視点を持って会議に参加するようになったのです。
結果として、Aさんは数ヶ月後には見事に会議の進行を仕切るようになり、クライアントから「Aさんがいないと会議が締まらない」と言われるまでに成長しました。
多くの上司は、部下が悩み始めると、つい「飲みに行こうか」と誘ったり、「最近どうだ?」とメンタルケアをしようとしたりします。
しかし、伸び悩む部下が抱える「漠然とした不安」は、人間関係や待遇への不満ではなく、「自分の現在地と目的地がわからないこと」による迷子状態からくるものがほとんどです。
必要なのは、慰めや励ましではありません。「あなたは今ここにいて、次はあそこを目指してほしい。そのために、まずはこの一歩を踏み出そう」という、「期待」と「階段」をセットにしたクリアな成長の地図を示すことなのです。
もし部下が、仕事は順調なのにどこか浮かない顔をしていたら、「地図が欲しい」という無言のサインです。そのときこそ、上司であるあなたの出番です。迷子から抜け出した優秀な部下は、自分の力で歩き出してくれるはずです。

更新:08月18日 00:05