2020年03月17日 公開
2012年に豪州で設立されたThe Dream Collectiveは、働く女性たちに向けて、リーダーシップ開発のためのセミナーやワークショップなどを行なってきた。250社以上のグローバル企業をクライアントに持ち、豪州の他、シンガポール、東京、上海にも拠点を持つ。今年3月には日本のクライアントへのインタビューをまとめた書籍『女性が共に、さらに輝くということ』(幻冬舎メディアコンサルタント)を出版するなど、現在、特に注力しているのが日本での事業だ。いったい、なぜなのか? 創業者のサラ・リュー氏に話を聞いた。
――サラさんはThe Dream Collectiveを豪州で起業しました。なぜ、日本での活動に力を入れているのでしょうか?
サラ きっかけは、豪州でのクライアントであるユニリーバやコニカミノルタといった企業から、日本オフィスもサポートしてほしいとご要望をいただいたことでした。実際に日本で仕事をしてみると、私たちのビジネスにとって、日本は非常に大きなポテンシャルを持っていることがわかりました。例えば、世界経済フォーラムが毎年発表している男女平等ランキングを見ると、日本は非常に順位が低いですし、過去、長きにわたってほとんど変化がありません。私たちがメッセージを伝えるマーケットが大きいと考え、事業を拡大しています。
――日本では政府も女性活躍推進を打ち出していますが、「人口が減少し、労働力が不足するから、女性にも活躍してもらわなければならない」という論調も見られます。女性が企業で活躍することの意義は、どこにあると考えていますか?
サラ 女性は単なる労働力ではなく、ダイバーシティや新しい意見、イノベーションをもたらします。たとえ話をすると、無人島で10人がサバイバル生活を送らなければならなくなったとして、その10人は全員同じような人がいいでしょうか? あるいは、多様性があるほうがいいでしょうか? 多様な経験知やバックグラウンドを持った人たちがいるほうが、新しいアイデアが生まれて、生き残れる可能性が高いと思います。ビジネスでも同じです。男性も女性も、色々なバックグラウンドの人が活躍できる場のほうが、イノベーションが起きやすくなります。
また、例えば日本の観光業界では意思決定者のほとんどが男性ですが、顧客の約8割は女性です。男性の意思決定者は、女性の顧客のニーズを本当に理解できているのでしょうか? 女性が従業員として働くだけでなく、ビジネスの意思決定をするリーダー層にいることも重要なのです。実際、女性がリーダー層で活躍している企業は業績が業界平均より15%高く、市場平均より28%高いという結果も出ています。ビジネスを加速させるために、女性はいなくてはならないのです。
――日本企業は、男女平等ランキングが日本よりも上位の欧米諸国と同じ施策を取り入れるべきなのでしょうか?
サラ 豪州も米国も完璧というわけではありません。日本と比較するのではなく、どの国にもまだ改善する余地があると考えて取り組むことが大切です。国によって文化が違っていて、その中で女性が担ってきた役割も違いますから、国によって出発点も違います。
ただ、欧米諸国では、政府や企業が目標を明確に設定し、それにきちんとコミットしてきたのに対して、日本では、政府がウーマノミクスなどの目標を立てたりしても、目標を掲げるだけで満足してしまっているところがあると思います。販売目標なら、達成できなければボーナスが減額されるといったことがありますが、ダイバーシティの目標はそうではありません。だから、達成できなくてもかまわない、という風潮があるのでしょう。
大きな変化を起こすためには、誰にとっても心地の良い施策ではなく、不快に思う人もいるような施策を取る必要があります。
――女性の企業での活躍を推進するためには上層部による経営判断が必要だと思いますが、現場マネージャーでもできることはありますか?
サラ まず、女性の「アライ(味方)」や「アドボケイト(代弁者)」になることです。例えば、誰を昇進させるかを決めたり、新しいプロジェクトを誰に任せるかを決めたりする意思決定の場に出席すると、男性しかいないことが多いと思います。すると、男性を選ぶバイアスがかかってしまうので、自分の周りの女性を推薦するように意識する、というようなことです。
これは豪州での私たちのクライアント企業のシニアリーダーの例ですが、パネルディスカッションに呼ばれる機会が多い方で、呼ばれたら「パネラーに女性はいますか? いなければ参加しません」と伝えていらっしゃいます。このようにして、自分が参加する場のダイバーシティに貢献することもできます。
日本はタテ社会なので、上司に影響を与えることは難しいと思いますが、上司は業績を重視していますから、業績とからめて話をするのが有効でしょう。例えば、先ほど例に出した観光業界なら、「女性の顧客の声を反映できていないことが、業績が伸びていない理由かもしれません。女性を意思決定者に入れてはどうでしょうか」と提案することで、上司の納得が得られやすいと思います。
長期的な施策はなかなか取りにくいので、「とりあえず半年間は女性にフォーカスしてみましょう」とか「今後2回の昇進の会議では、昇進させられる女性がいないか考えてみましょう」というように、試しに取り組みやすい提案をして、その結果を見るのもいいと思います。
私たちが出版した『女性が共に、さらに輝くということ』も、上司とシェアしていただきたいですね(笑)。〔株〕LIXILグループやスターバックス コーヒー ジャパン〔株〕などのCEOが登場して、その取り組みについて話していますから、「だったら自分も何かしないと」と思ってくれるのではないでしょうか。
――日本では昇進を望む女性が少ないとも言われています。
サラ 確かにそういう女性もいますが、それは環境がそうさせてしまったんです。幼い頃から「自分のことばっかり言わないで家族を大事にするんだよ」と教えられて育ったために、「2年くらい働いたら家庭に入りたい」「結婚したら会社を辞めたい」と考えるようになった女性が多いと思います。
こんな調査結果もあります。リンクトインとベイン・アンド・カンパニーが共同で8,000人を対象に行なったもので、キャリアに対する向上心は、キャリアの初めには女性のほうが高いものの、女性はその後下がっていき、男性は上がっていく、というものです。そう聞くと「女性は家庭に入るからだろう」と考えてしまうかもしれませんが、実際には、勤めている会社の中にロールモデルがいないこと、会社の文化に溶け込めないこと、直属の上司のサポートが感じられないことが主な理由でした。つまり、家庭や育児ではなく、会社の環境が女性のキャリアに対する向上心を下げているのです。
――女性の社会進出が進むと、家庭内での家事の分担も見直す必要があると思います。
サラ すごく重要なポイントですね。家事で50:50でなければ、仕事も50:50にはなりません。フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ氏は、著書『LEAN IN』(邦訳は日本経済新聞出版社)の中で、女性のキャリアの中で最も重要な決断は、誰と結婚するか、もしくは、結婚するかどうかだと書いています。家庭でどういう役割を担うかが、仕事に影響するからです。
「家事は女性の責任だ」と女性が思ってしまっているという問題もあります。「忙しいのに子供を迎えに行かなくてはいけない。どうしよう?」となったときに、パートナーに「代わりに迎えに行ってくれる?」と聞くことすら考えたこともないという女性もいるんです。でも、男性は「それは女性の責任だからやらない」とは考えていないでしょう。頼まれればやるけれども、家事という場に招待されていないと感じているから、やらないのです。ですから、女性はパートナーに家事をしてくれないか聞く勇気を持つことと、パートナーに家事をする機会を与えてあげることが重要です。
男性も、家庭や子育てで自分に何ができるかを考える必要があります。私が豪州でのパネルディスカッションで話をした男性のCEOの方は、娘の学校の行事への出席や送り迎えを欠かさず、息子には自分がロールモデルとなって女性への敬意の示し方や家事をやってみせているということでした。そうして、家事に対する考え方が次の世代に受け継がれていくのです。
更新:11月21日 00:05