2026年05月25日 公開

野球評論家のゴジキ氏が歴代の名将を分析し、4刷重版も決まった著書『マネジメント術で読むプロ野球監督論』。今回はその内容より、ソフトバンクホークスを監督として連覇に導いた小久保裕紀氏について分析・解説する。
※本稿は、ゴジキ著『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
25年シーズン開幕当初、小久保はレギュラー陣を固定し控え選手の役割も明確にした固定メンバーで戦う理想を掲げた。
しかし、開幕直後にそのプランは崩れる。近藤が腰の手術、柳田が右脛骨の骨挫傷で長期離脱し、周東も死球で戦線を離れた。守備の要だった今宮も負傷離脱が相次ぎ、山川は調子の波が激しく、野手陣の主力は厳しい状況に。4月下旬には一時リーグ最下位にまで沈んだ。
しかし、小久保はこれまで培ってきた経験を活かし、主力の不在を埋めるように若手・中堅を台頭させる。柳町達はブレイクを果たし、131試合に出場してチーム最多の129安打。俊足とパンチ力を兼ね備えた野村勇も126試合に出場し、遊撃の先発も任されるなどユーティリティぶりを発揮した。
さらに川瀬晃も102試合に出場し、堅実なプレーを見せた。最終的にチーム打率はリーグ1位、本塁打数はリーグ2位の101本塁打で、複数選手が二桁本塁打をマーク。盗塁数もリーグ2位の98個と、機動力も大きな武器だった。
野村や川瀬、首位打者の牧原、周東といった選手はユーティリティプレーヤーとしても計算できたため、シーズンを通して誰かが欠けても他のポジションで補う起用が徹底された。
甲斐が移籍した捕手には海野隆司が台頭し、105試合に出場。野手陣は世代交代が着実に進んでいることを印象づけた。守備面では失策数こそ多かったものの、海野が捕手に定着して以降は安定した。
首位を巡り日本ハムとデッドヒートを演じた8月下旬には、柳田の戦列復帰を切り札に据えた。小久保は柳田を慌てて起用せず万全なタイミングを待ち、その存在感でベンチの士気を高める。そして、打撃コーチの村上隆行の進言もあって柳田を1番打者として起用。他に適任がいないからとのことだったが、シーズン最終盤のチームに大きな勢いを与えた。
さらに、山川の起用にも小久保の心遣いが光った。前年は4番に固定したがこの年の5月、極度の不振を鑑みて「4番を外す判断はかなり迷ったけれど......」と悩み抜いた末に、「7番DH」に。打順降格でプレッシャーを軽減させる策だった。
また、6月にスタメンを外す決断をする際には、練習前に直接本人へ伝える丁寧な対応を取っている。山川はプレッシャーから解放され徐々に持ち直し、終盤には代打や下位打線で勝負強さを発揮した。
投手陣に関しては、先発投手4人が二桁勝利を挙げる万全の布陣だった。モイネロはこの年も安定し、最優秀防御率を獲得。絶対的エースとして君臨した。有原は最多勝、大関友久は最高勝率のタイトルを獲得。新戦力の上沢も期待に違わぬ働きを見せた。彼らだけで計51勝をマークし、大津も要所でチームを救った。チーム全体で19試合の継投含む完封勝利を挙げているのは先発の安定あってこそだ。
クローザーにはオスナが開幕から起用されていたが、相次ぐ救援失敗で配置転換となり、チームは一時最下位に沈む。この危機を救ったのが藤井と杉山だった。両者は交流戦期間中に8試合無失点の快投を見せ、オスナ離脱後の勝ちパターンを支える立役者となった。
シーズン途中からは杉山がクローザーに定着し、最終的に最多セーブのタイトルを獲得。さらに松本がセットアッパーとして最優秀中継ぎ投手に輝いた。シーズン中盤からの追い上げは、7回以降の藤井、松本裕、杉山の勝ちパターンが確立したことが大きく影響している。
他にも、ヘルナンデスや津森は前年と比較して調子を落としたもののセットアッパーの一角を担い、左のワンポイント等で大江竜聖が結果を残した。松本晴は先発に転向するまでリリーフとして好投し、大山凌も成長を見せた。こうした駒の多さがソフトバンク中継ぎ陣の強みだった。
こうしてリーグ連覇を果たしたソフトバンクは、CSファイナルステージで日本ハムと激突した。前章で解説したように3勝3敗という互角の戦いを繰り広げ、最後はソフトバンクに軍配が上がった。何より、追い込まれた第5戦で中4日起用したモイネロの熱投が決め手だった。
阪神との日本シリーズは、勢いそのままに4勝1敗で阪神を下し、5年ぶりの日本一に輝いた。戦力的には互角もしくは阪神優勢ともいわれていたが、終わってみればソフトバンクが短期決戦の経験値と総合力の差を示す形となった。
不振の山川を第2戦から先発起用すると、ダメ押しの3ラン。甲子園での第3戦・第4戦にも本塁打を放ちチームを勢いづけた。シーズン途中には4番剥奪や二軍調整まで味わったが、小久保が見限らず起用し続けたことが、ここに来て実を結んだ。また、第2戦と予想されていたモイネロを第3戦に起用したり、第4戦で若手の大津を先発に抜擢するなど、小久保の用兵が光った。
小久保がソフトバンクの巨大戦力をここまで巧みに使いこなせている背景には、間違いなく代表監督としての経験が活かされている。
WBCでの采配を通じて得た「多様な個性を束ね、短期間で最大成果を出す」経験は、ホークスの指揮にも落とし込まれている。役割を明確に設計し、誰がどの場面で何を担うのかを事前に共有することで、主力も控えも迷わず動ける状態をつくる。〝型〞が整っているからこそ、層が厚いチームでも機能不全に陥らない。
代表では常に「代替案」を持っておくことが求められたことで、ソフトバンクは勝ち筋を複数持つことができている。仮に誰かが欠けても、別のルートで勝ち切る構造を保つ。さらに、スターと若手を共存させるマネジメントも代表経験の賜物だ。そして何より、WBCの重圧を経験したことで、連敗や不調にも動じない冷静さを身につけている。
更新:05月26日 00:05