2026年04月20日 公開

福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームの優勝・日本一に貢献した伴元裕氏。仕事や勉強を前に「集中できていない」と感じる場合、どうすればよいのか。プロの見識を解説してもらった。
※本稿は、伴元裕著『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(Gakken)より一部抜粋・編集したものです。
たとえば、勉強しようと机に向かった瞬間、「何から手をつけるんだっけ......」と立ち止まってしまうことがあります。やることがまったくわからないわけではない。
ただ、集中を戻す先がまだ整理されていないと気づく瞬間です。このとき、落ち着かない感覚だけが先に立ち、注意の置き場所が定まらなくなり、周囲の人がとても集中しているように見えることがあります。その瞬間、頭の中でこんな言葉が浮かび始めます。
「集中できていないな」「勉強のペースが遅れているかもしれない」「ちゃんとやれているだろうか」
その言葉が出てきた瞬間、注意は今の行動から離れ、結果や評価のほうへと引き寄せられ始めています。
ここで大切なのは、この状態を「失敗のサイン」だと決めつけなくていいということです。集中できていないと感じたとしても、何かが壊れているわけでも、能力が足りていないわけでもありません。ただ、これから何に注意を向けるかを、整理し直せる地点に立っているだけです。
集中できていない瞬間を切り取ると、注意を向けられる対象はいくつも存在しています。やるべき行動もあれば、うまくやれているかどうかという問いもあります。不安や焦りといった感情もあれば、その瞬間に起きている事実もあるでしょう。私たちは、その中から無意識のうちに一つを選び、そこに注意を向けています。
今、注意がどこに向いていたのかに目を向ける――。選択肢の整理が必要な瞬間に気づくことが、すべてのスタートになります。
試合に向かう時間は、いつも独特の緊張感があります。会場に入る前、アップを終えたあと、あるいは試合開始や自分の出番を待っている数分間......。まだ何も始まっていないはずなのに、頭の中ではすでに何かが動き始めている、そんな感覚です。
準備を怠ってきたわけではありません。これまで通り練習を重ねてきたし、やるべきこともやってきました。身体の動きも、感覚も決して悪くはありません。少なくとも、自分でわかるほどの不安要素があるわけではない状態です。
それでも、気づくと意識は少しずつ先へ向かっていきます。
「結果はどうなるだろうか」「うまくやれるだろうか」「失敗したらどう見られるだろうか」
こうした考えが頭の中に浮かんだ瞬間、自分の中に「評価する目」が立ち上がります。プレーする前の自分を、外側から眺め、ちゃんとできているかどうかを確認し始めてしまう、そんな、自分を外側から確認する管理者モードに入っていることに、ふと気づいてしまうのです。
そんな意識に気づいたとき、多くの場合、人は焦るものです。このままではいけない、ちゃんと整えなければならない。湧いてきた緊張や不安を、どこか間違ったものとして扱い、正しい状態に戻そうとします。あるいは、感情を否定し、消そうとし、落ち着こうとする人もいるでしょう。
しかし、そこでふと立ち止まってほしいのです。
「違う、感情は否定しなくていいんだ」と。
緊張していることも、不安を感じていることも、この場面では自然な反応なのです。それ自体が、これからのパフォーマンスを壊しているわけではありません。
ではこのとき、「今、自分で、できること」は何でしょうか。ここで求められるのは、結果を変えようとすることではありません。自分がこの場で、どんなプレーをしたいのかというパフォーマンス目標に、注意を戻すことなのです。うまくやれているかどうかではなく、少しでもその意図に近づこうとする姿勢を保てているか。その確認が、次の行動を選び直すための土台になります。
そのうえで、注意を置く先は、「今、ここで、実際に動かせるもの」になります。
たとえばゴルフであれば、うまく打てるかどうかを考える前に、アドレスに入ったときの足裏の感覚に注意を向けます。地面に体重がどう乗っているか、呼吸がどこまで下りてきているかなどを確認します。
あるいは、サッカーやバスケットボール、ラグビーであれば、自分の役割や保ちたいプレーの意図に一度立ち返り、そのうえで、ボールを受ける前の立ち位置、視線の置き方、身体の向きといった、次のプレーにつながる行動に注意を戻します。
注意が再び逸れることもあるでしょう。周囲のノイズ、人の動き、結果への期待や不安、自分のパフォーマンスへの評価......。これらは何度でも顔を出しますが、それでいいのです。できているか、できていないかが問題なのではありません。良い状態か、悪い状態かを判断する必要もありません。
注意が逸れたことに気づいたら、そのたびに「今、ここで、できる行動」に注意を戻し続ける。そのあり方を保てばいいのです。集中とは、保ち続けるものではありません。逸れたことに気づき、戻し続けるものなのです。そして、その過程そのものが、パフォーマンスを支えることになります。
更新:04月22日 00:05