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なぜ高IQ人材が成果を出せないのか? 日本のホワイトカラーが世界とズレた理由

布留川勝(グローバル・エデュケーション アンド トレーニング・コンサルタンツ㈱創業者)

「ニュー・エリート論」

AIの急速な発展により、ビジネスにおけるIQ(知能指数)の重要性は下がっている。では、代わりに重要視されるようになっているのは、どのような能力なのだろうか。布留川勝氏の著書『ニュー・エリート論 世界基準のビジネスパーソンが鍛える6つの知性』(PHP研究所)より解説する。

※本稿は、布留川勝著『ニュー・エリート論 世界基準のビジネスパーソンが鍛える6つの知性』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ゲームルールは変わったーートーマス・L・フリードマン氏が示した現実

「ニューヨーク・タイムズ」の名物コラムニスト、トーマス・L・フリードマン氏。ピューリッツァー賞を3度受賞した彼は、2005年に世界的ベストセラーとなった書籍『フラット化する世界』を著した。そのなかで彼は、世界の競争環境が根本的に変わることを警告し、次のような公式を示している。

IQ(知能指数) < CQ(好奇心指数) + PQ(情熱指数)

知能の高さよりも、好奇心と情熱の総量のほうが重要だーーどれだけ頭が良いかではなく、どれだけ「知りたい」「やってみたい」という思いを心のなかで燃やし続けられるかが問われる、という指摘である。私はこの指摘をワークショップで繰り返し引用してきた。

これからの時代は、好奇心を持ち、情熱を燃やすことが、自分を社会の変化にあわせてアップデートし続ける原動力になる。過去に得た知識という資産で食べていくのではなく、変わり続けられる人こそが生き残るのだ。

『フラット化する世界』が出版されてから約20年。AI時代を迎え、この指摘はむしろ重みを増している。IQ的な処理能力(整理・要約・分析・翻訳など)はAIがいくらでも補完・代替できる。だから人間に求められるのは「なにをAIに問うか」という適切で鋭い問いであり、その問いは好奇心と情熱から生まれる。

フリードマン氏は「ゲームのルールが変わった」と鮮烈に言い当てたが、彼の主張はアメリカ中心的で、世界をやや一様にフラットに語りすぎる側面もある。現実の競争環境には文化・制度・価値観の違いという凹凸が厳然と残り、そこでこそ個人のCQとPQが試される。

つまり、世界は完全に平らではない。だからこそ、好奇心と情熱を起点にその凹凸を学び取り、自分を更新し続けることが日本のビジネスパーソンにとって決定的に重要になる。

 

安全圏が成長を奪うーー茹で蛙シンドローム

問題は、多くの日本の大企業では、CQ(好奇心)やPQ(情熱)が入社後に削ぎ落とされてしまうことだ。入社時には「グローバルで活躍したい」「成長したい」と燃えていた若手が、評価制度と慣習のなかで安全圏に適応し、ぬるま湯に浸かって脚力を失っていく。

私はこれを「茹で蛙シンドローム」と呼んでいる。茹で蛙とは、水温がじわじわ上がっているのに気づかず逃げ出せなくなる蛙の寓話で、変化にうすうす気づきながらも行動を起こさず、知らぬ間に活力や成長の機会を失っていく人や組織を象徴している。

会社も表向きは「大いに挑戦せよ、失敗から学べ」というが、実際には効率やスピードが最優先で、失敗は許されない。前例がないから却下される、リスクを過大に見積もって結局同じやり方を繰り返す、上層部のなにげない一言を拡大解釈して右往左往するーーそんな組織の日常が、挑戦意欲を静かに削いでいく。

この茹で蛙化が深刻なのは、IQ偏重の企業文化と結びついているからだ。日本のエリート層は勉強熱心で、多くのフレームワークを「知っている」。しかし好奇心や情熱を失ったままでは、その知識を磨き込み、実践に活かすところまではいけない。

たとえば、戦略を学ぶ際に定番のSWOT(Strengths:強み、Weaknesses:弱み、Opportunities:機会、Threats:脅威)分析を例に考えてみよう。すでにSWOT分析の知識があり、自社分析も経験済みだという人は多い。

だからワークショップで題材にすると「簡単すぎる」「もうやったことがあるので、もっと難しいことをやりたい」と言う。知っていることをもう一度やるのは時間の無駄ーーそう考えるのだ。

しかし、そういう人にかぎって自分の領域で戦略や新しいアイデアを生み出せない。これは典型的な「知っている病」だ。大切なのは、知識を所有していることではない。知識を再現し、何度も繰り返して習慣化し、仕事の場において成果を出す、というプロセスを踏むことだ。

好奇心と情熱があれば、その知識を使い倒し、磨き込み、人生や仕事に活かすところまでいけるはずだ。知識で止まるか、再現と習慣化を通じて実践知に昇華させるか。この差が未来のキャリアを決定づける。知っている病を放置すれば思考は止まり、進化のチャンスは閉ざされる。

CQとPQが高い海外のプロフェッショナルは違う。同じSWOT分析をワークショップで取り上げても、彼らはこう考える。

「この場、この時間をどうすれば最大限レバレッジできるか?」

質問をし、突っ込み、即座に自分ごととして捉えて実践に移す。フレームワークを知っていても、一緒に議論する仲間やそのときの文脈が変われば、これまで気づかなかった新しいインサイト(本質を突く深い気づきや洞察)が得られることを理解している。そして、そのインサイトが自分の行動を変えるきっかけになると知っている。

加えて、海外の現場は弱肉強食だ。フレームワークを知っているだけでは不十分で、その場で手持ちの道具を駆使し、結果を出せるかどうかがすべてだ。「知っている」だけでは1円の価値も生まない。結果が出なければ即座に評価が下がり、ときに解雇される。ポジションも肩書きも保証されない。

 

快適さを選び停滞するか、不確実性を選び進化するか

残念ながら日本では、知識だけはあって賢そうに見える「高IQ型」の人が少なくない。実績が伴わなくても真の成果を問われず、解雇もされず、ポジションも守られる。そのぬるま湯の環境こそが、茹で蛙化を加速させている。

そもそも日本型ホワイトカラー社会は、学歴や肩書き、安定した雇用といった外的報酬に支えられてきた。報酬や地位の安定が最優先されるため、評価基準は「決められたルールを守ること」や「前例通りに効率良く仕事をこなすこと」に置かれる。外的報酬を失わないことが目的化するため、新しい挑戦やリスクを取る行動は避けられがちになる。

その結果、快適さは得られる一方で進化は止まり、先に述べた「茹で蛙シンドローム」に陥ってしまうのだ。

対照的に、グローバル社会で活躍する人材は外からの指示ではなく、自分の内側から湧き出る動機(内発的動機)にもとづいてキャリアを築いている。

アメリカの作家、ダニエル・ピンク氏が著書『モチベーション3.0』で示したように、人は「やらされている」と感じるときよりも、「自分で選んでいる」「成長している」「意味がある」と感じたときに最大の力を発揮する。自律性や成長し続ける力(熟達)、そして目的意識を持ち、不確実さを成長の糧として自己を更新し続けるのだ。

さらに、この内発的動機はCQとPQに直結する。IQを必要とする知識処理がAIに代替される時代には、むしろCQとPQを原動力に自己をアップデートできる人材こそが生き残る。これはすでに説明した通りだ。

つまり、日本型が「Comfort without Growth(成長なき停滞)」にとどまるのに対し、グローバル型は「Growth through Discomfort(不確実性を通じた進化)」を実践しているのだ。この個人レベルの問題は、実は組織全体の構造とも密接に関連している。

プロフィール

布留川勝(ふるかわ・まさる)

グローバル・エデュケーション アンド トレーニング・コンサルタンツ㈱創業者

2000年に「グローバル人材育成を通して日本に貢献すること」を目的に、グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社を創業。世界中の教育機関やビジネスパートナーとの協働を通じて、400社以上の企業向けグローバル人材育成プログラムの企画・開発・コーディネートを手掛ける。2020年に同社の代表を退任後も、企業向けプログラムの講師・コーチとして活躍。著書に『パーソナル・グローバリゼーション』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『gALf な生き方』(クロスメディア・パブリッシング)ほか。

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