2026年02月21日 公開

社員の早期退職や、採用したい人材をとり逃すことは避けたいもの。人材不足に悩まされる中小企業ならなおのことだろう。経営者が陥りがちな、採用の罠とは何か。書籍『人が来ない会社の採用戦略 求人媒体に頼る前に考えるべきこと』より紹介する。
※本稿は、岩崎千夏著『人が来ない会社の採用戦略 求人媒体に頼る前に考えるべきこと』(インプレス NextPublishing)より内容を一部抜粋・編集したものです。
運良く採用できたとしても、入社した社員がすぐに辞めてしまうーー。この現実は、経営者にとって非常に辛く、解決すべき問題です。どれだけ採用が上手くいっていても、定着ができなければコストだけが膨らんでしまいます。
社員がすぐに辞めてしまう理由の多くは、採用段階での「安易さ」に起因します。「待遇さえ上げれば解決する」という短絡的な思考を取っていませんか?「会社の良い面だけを強調し、悪い面を伝えないでおこう」と考えていませんか?面接で良い部分だけを強調し、入社後に現実とのギャップに直面すれば、社員のモチベーションは急速に低下します。
確かに、高額な給与は一時的に応募者を集めるかもしれません。しかし「待遇を重視して入社した社員は、より良い待遇があれば去る」という事実を忘れてはなりません。競合他社がより良い条件を提示すれば、すぐに離職してしまうリスクが高まります。
人は決してお金だけで動いているわけではありません。離職の要因は、結局のところ「価値観の不一致」です。これらは、金銭的な待遇では埋められない、より本質的な問題です。給与や休みといった物理的な条件だけでなく、「なぜこの会社を選び、何を求めているのか」といった内面的な動機に真摯に耳を傾けることが、社員の定着には不可欠です。
待遇などの一時的な解決策に飛びつくのではなく、社員が「この会社で働き続けたい」と心から思える本質的な魅力を長期的な視点で築くこと。それこそが結果的に「採用してもすぐ辞める」という負のサイクルを断ち切ることに繋がるのです。
では「パーパス採用」をすればいいのではないかと、採用のトレンドを勉強された方は思うかもしれません。近年、「パーパス採用」が注目されていますが、私は安易なメッセージを使うことに警鐘を鳴らします。むしろ、パーパス経営が浸透していない状態で、パーパスを打ち出すのは逆効果だと考えます。
たとえば、パーパスとして「地域貢献」を掲げる会社があるとします。その理念が現場の業務に反映されていなければ、社員は「結局はきれいごとで、ただ忙しいだけじゃないか」と不信感を抱きます。求職者も、「パーパスは立派だけど、実態のない会社だ」と感じます。
本当のパーパス採用とは、会社のビジョンを「日々の意思決定に使うもの」として、現場の行動に落とし込むことです。例えば、「地域貢献」というパーパスを実現するために、社員の提案で地域の清掃活動やイベントを企画する、といった具体的な行動が伴って初めて、その言葉に説得力が生まれるのです。言葉だけのパーパスならば、ない方がマシです。
多くの経営者は、特に中途採用において「即戦力」を求め、資格や経験を何よりも重視します。しかし、一部の専門職を除けば、入社後の活躍と定着を左右するのは、スキルや経験よりも「カルチャーマッチ」だと考えます。
どれほど優れたスキルを持っていても、会社の価値観や文化に馴染めなければ、その人は定着できません。求人票には書かれていない、日々の業務におけるコミュニケーションのあり方、仕事への向き合い方、チームワークの価値観ーーこれらが合致しないとき、人は必ず違和感を覚えます。違和感はやがて不満となり、退職という選択肢へと繋がります。
一方で価値観が共有できていると、会社がピンチのときでも共に戦う仲間ができます。困難があっても簡単には辞めず、「会社のためにがんばりたい」という意識を持ってくれます。そして共にピンチを乗り越えることができます。採用の際にもカルチャーマッチを大事にし、普段の業務もカルチャーの浸透を大事にすることこそが、定着の鍵です。
多くの企業で、採用は「欠員が出たから補充する」という、「場当たり的な欠員補充」として捉えられがちです。しかし、採用は単なる欠員補充の作業ではなく、会社の「未来」を左右する「経営戦略」そのものです。経営者は、「どんな会社にしたいか」という問いから、未来予想図を描き、具体的な制度や施策に落とし込んでいく必要があります。
採用活動は、単なる人事の業務ではありません。経営活動と密接に連携させ、実行まで支援されるべきです。採用する理由を明確に語れるか、そしてそれが経営計画に紐づいた採用計画となっているかが極めて重要です。
例えば、売上目標や事業拡大の計画があれば、それに必要な人材の数、スキル、ポジションが明確になります。人事制度の構築、社員教育、定着、活躍といった人事全般の施策も、全てが経営目標達成のために連動していくようになります。
社長の中には、こうした将来像を十分に考えていない方もいらっしゃいます。特に2代目や3代目社長の場合、創業者のような強い意思を持っていないことが多いように感じます。しかし、「社員にどのような成長を期待するか」「会社を拡大するか、現状を維持するか」といった基本的な問いに答えるだけでも、採用の方向性は大きく変わります。
採用が経営と無関係になっている会社は非常に多く、人件費を単なる「コスト」としてしか見ていないことも少なくありません。しかし、採用を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えることが重要です。「人的資本経営」の視点が叫ばれる現代において、人材は会社の成長に不可欠な「資本」なのです。
欠員が出ると、焦りから採用基準が安易に引き下げられる傾向があります。例えば、製造ラインの欠員が出た際、焦って募集をかけ、本来であれば見送るような人材を採用してしまうケースです。しかし、このような安易な採用は、その人が「早期離職のリスクが高い人材」となり、負の連鎖を生みかねません。
そもそも欠員が出たからといって、すぐに1人補充するという考え方を見直す必要があります。一時的に工場長がその業務を担ったり、他の部署から人員を配置転換したりするなど、組織全体で柔軟に対応していくことも重要です。
現場からも、「なぜそのポジションに、どのようなスキルを持った人材が、何人必要なのか」という具体的な根拠やデータを示すべきです。そのためにも経営層は、現場の動きを積極的に知ろうとする姿勢が不可欠です。
目の前の欠員補充に囚われず、未来の組織をデザインするための採用戦略を構築することが、持続的な成長への道となるのです。
今の時代はまさに「採用戦国時代」です。多くの企業が人材確保に苦戦する中で、従来のやり方では、もはや勝ち残ることはできません。経営者には、本気で採用に取り組む覚悟が求められます。
採用において大事なのは「戦略」であり、「気合」だけでは成功しません。にもかかわらず、「コストをかけずに解決したい」「旧態依然のやり方を続ける」と現状に安住していては、ライバル企業に大きく遅れを取ることになります。
採用における現状維持は、廃業につながる選択です。自社が変わらなければ、同じ地域、同じ業種、同じ規模のライバル企業が頑張ったときに、あなたの会社は間違いなく「他社に見劣りする企業」と映ってしまうでしょう。
この厳しい現実を受け入れ、「変化を受け入れる覚悟」を持つことこそが、採用の激戦時代を勝ち抜くための最初の、そして最も重要な一歩です。
採用は、人事担当者だけが頑張れば解決する問題ではありません。全社員が人事の視点を持つ「全社人事化」の視点が必要です。社員一人ひとりが会社の顔として、採用活動に取り組む意識が求められます。
そのためには、まず経営者自身が、会社の未来を語り、明確な方向性を示す「リーダーシップ」の発揮をしなければなりません。採用で現状維持に安住していれば、待ち受けているのは「廃業」です。
経営者も、この厳しい採用市場において、常に自己研鑽を怠らず、変化に対応していく姿勢が、会社の未来を築くための不可欠な戦略となるでしょう。
更新:02月22日 00:05