
生成AIのさらなる進化やヒューマノイドAIの誕生に向け、GAFAMなどハイテク大手が開発競争を繰り広げている。2040年には、グローバルな経済はどう変化しているのだろうか。本連載では、未来予測の専門家(フューチャリスト)である鈴木貴博氏に、5回にわたってこれから起こりうる未来について、様々な切り口から読み解いてもらう。
※本稿は、全5回の短期集中連載「2040年の経済学」の第1回です。
『THE21』2026年3月号の内容を一部抜粋・再編集してお届けします。
AI投資に熱狂するアメリカで、「巨額のAI投資は、回収できない過剰投資なのではないか?」という疑念があります。
競争の最前線では、その懸念を感じつつ、それを考えないようにというのが企業内部のルールのようです。競争に勝たないと何もかも失ってしまう。だから、巨額の投資に疑問を抱く時間すら惜しいのです。
巨額な投資が必要となる理由は、AIの世界を支配する「スケーリング則」というルールにあります。AIの性能は、(1)学習するビッグデータの量、(2)データセンターの計算能力、(3)パラメータの数、という3つのスケールに左右されます。これがスケーリング則です。
これまでのスケール向上競争では、優秀なAIエンジニアをどれだけ投入できるかで差をつけてきたのですが、2025年に入り、スケーリング則で勝つためには、データセンターの能力確保に力を入れたほうが早道だという状況が生まれました。ここから先は、AIが人間の手をわずらわせずに自律的に巨大化していくのです。
GAFAMでは、早くもAIエンジニアのリストラが始まる一方で、巨大なデータセンターを建設する計画が次々とぶち上げられています。その投資の合計規模は400兆円に達します。このタイミングでは「その投資は回収できるの?」と考えていてはいけません。敗者の手には何も残らないのです。
直近では、ChatGPTの能力をGemini3が大きく超えたと評価された結果、グーグル株が高騰し、OpenAIの大株主のマイクロソフト株が売られました。「競争に勝つための大量の半導体を果たして調達できるのか?」、そして「巨大な消費電力を確保できるのか?」が、ハイテク大手の命運を左右するところまで来ているのです。
その先にある、未来のグローバルなAI市場の大きさは、いったい何兆円になっているのでしょうか?
当事者であるGAFAMとは違い、株式に投資をする資本家は、競争の先にある未来をきちんと予測したいものです。
最先端をひた走るグーグルは、検索連動広告が主な収入源ですが、AIが優秀になれば検索は不要になります。「その時代にはGemini3がいくらで売れるのか」で、未来のグーグルの大きさを測りたくなります。
ライバルのマイクロソフトも同様です。ChatGPTが加わることで、月1800円のofficeのサブスク収入がいくらに増えるのかで、未来の企業価値を測るべきだと思いませんか?
今はAIを無料で利用する人が大半ですから、ハイテク大手のAI売上はまだ微々たるものです。しかし2040年には、先進国や新興国で、誰もが有料版のAIを利用するはずです。
ChatGPTでもGeminiでも、一番使われている有料版の価格は月20ドル、つまり3000円。それを世界の中間層人口14億人全員が支払う未来の市場規模はどれほどか?
それは計算してみるとわかります。3000円×14億人×12カ月で合計は年間50兆円ですね。はっとする数字です。今現在、マグニフィセントセブンと呼ばれる巨大IT企業だけで、年間100兆円のAI投資が行なわれていて、かつこれから5年間、その投資額は確実に増えていく計画です。もしその先にある未来市場の大きさが50兆円だったとしたら?
この投資の先にあるのは、確実なバブル崩壊という未来になってしまいそうです。
投資対効果的にいえば、毎年100兆円を投資して作る未来市場ですから、到達点は少なくとも50兆円ではなく500兆円であるべきです。
だとすればAIのサブスクも、今の10倍の価格で売れるキラーアプリをこれから考えなくてはいけません。これは、ことわざの「泥縄」と同じ世界観です。「今、目の前に泥棒がいるのだから捕まえるのが先で、縛っておくための縄は捕まえたあとから考えるべき」というのと同じです。
今はAI競争に勝つことが重要なので100兆円を投資する。未来の500兆円の回収は、あとから考えればいいというのがAI競争で勝ち抜く企業にとっての優先順位です。
そこで読者の皆さんにお訊ねしたいのです。今現在の、ただでさえ苦しい家計の中で、一人暮らしの日本人が、毎月のスマホ代が5000円、ネットフリックスのサブスクが1500円、電気代が1万円といった生活感のある数字と比較して、有料版AIの10倍の価格である「月3万円の出費」が成立するには?それだけ支払ってもよい「未来のキラーアプリ」のあたりはついているのでしょうか?
IT大手のプレゼンテーションでは口をそろえて、そのキラーアプリになるのは「AIエージェントだ」と主張します。あなたに代わって買い物も、旅行計画も、スケジュール管理も、友達と会う計画も全部こなしてくれるAIの相棒です。
面倒な作業はみんなAIエージェントがこなしてくれるので、あなたはただ出かけて、おいしいものを食べて、友達と会話を楽しんで、カラオケを歌って、ライブを楽しんで、スマホの画面で見たかった映画を観て毎日を過ごすだけ。とてもタイパが良い毎日を送れます。
便利だとは思いますけれども、その便利さにあなたは月3万円を支払いますか?
「3000円なら払うけど、月3万円だったらいらないな」もしまだあなたがそう思うなら、その瞬間にAI投資バブルは崩壊するかもしれませんね。そうならないように、もう少しキラーアプリとして進化させたほうがいいでしょう。

そう考える企業家が狙う、究極のキラーアプリに「ペット型ロボット」があります。
ちょっと考えてみてほしいのですが、AIエージェントがスマホに格納されるのではなく、かわいいピカチュウのぬいぐるみに格納されたとしたらどうでしょう?それもかわいい感じで手足を動かしたり、目をぱちぱちさせたり、そのうえであなたに、「ピカー」と話しかけるのです。
今、実はZ世代中心に、SNSよりも生成AIを話し相手にするという若者が増えています。これからの未来に登場するAIエージェントの一番の役割は、買い物や旅行の手配ではなく、あなたの話し相手になる可能性が一番高いのです。
家の中ではかわいいぬいぐるみロボットであり、外出先ではスマホの画面に顔を出して、あなたの相棒になります。ちょっと怖い未来予測としては、このペット型ロボットがAIエージェントの進化系になる未来では、リアルなペットの市場が激減するという予測があります。
今、わが国でペットとして犬を飼っている家計の場合、平均の飼育費は月3.4万円です。あくまで一人当たりではなく世帯当たりの数字ではありますが、それと同じくらい家族の一員になってくれる相棒ロボットならば、月3万円のサブスクを支払う未来は想像できるのではないでしょうか?
中間層14億人の全世帯が、月3万円のペット型ロボットを飼育する未来の市場規模は?単純計算で年間200兆円と計算できます。これならかなりAI投資回収の必要レンジに入ってきたのではないですか?
さて、実はここまでの議論で大きく抜けている市場があります。B2B市場です。
AIの適用分野として、そもそも大きいのが輸送・物流領域です。その輸送分野で、2026年にも市販されると予想されるのが、テスラの「ロボタクシー」です。
テスラでは2人乗りのロボタクシーのプロトタイプを発表していて、イーロン・マスクCEOは、これを3万ドル以下、つまり450万円以下で発売したいと明言しています。
「ロボタクシーの事業化はまだ海外の話でしょ?」と思うでしょうか。でも考えてみてください。読者のあなたも購入を検討し始めたほうがいいかもしれません。現在ロボタクシーが営業運転をしているのは、アメリカではカルフォルニア州やテキサス州の一部のエリアだけです。
とはいえ、サンフランシスコに旅行した方は体験されているかもしれませんが、実際にそのようなエリアに行くと、ロボタクシーは市民の足として普通に普及しています。サンフランシスコだけで、すでに2500台のロボタクシーが営業しているのです。
そこに、もしあなたが購入したロボタクシーも1台走らせておくことができるとしたら?
例えば日本人でも、投資先としてアメリカに不動産を購入することができますよね。購入した不動産は、現地の管理会社に委託して、アパートやオフィスとして貸し出せます。日本にいるあなたには毎月、家賃が振り込まれます。
それと同じで、現地にロボタクシーの管理会社さえあれば、日本人でもロボタクシーを所有して、サンフランシスコでタクシービジネスを始めることができます。そしてこれは「もし」ではなく、「たぶんおそらく確実に」そうなるはずの未来です。
この先、世界の主要都市でロボタクシーが解禁されるごとに、その都市には世界中から投資が集まり、私たちはロボタクシーを所有することで、安定した収入を得ることができるようになります。
「もし」ではなく「おそらく」そのような未来がやってくるとしたら、こんな世界も2040年には現実になります。
それは、ヒト型ロボットが様々な職場に入り込む未来です。工場や建設現場には作業員ロボットが、レストランやホテルや小売店には接客ロボットが、役所に行くと公務員ロボットが私たちの仕事をサポートしてくれます。遠く離れた国の農場には農業ロボットが、鉱山には危険な作業を代わってくれるロボットが活躍します。それも私たち人間と違い、24時間365日働いてくれます。
その所有権に投資できる未来では、世界経済にどのような変化が起きるのでしょうか。私だったらそんな世界が到来したら、早速ロボタクシーやロボットを10台くらい保有したいと思います。4500万円で購入したそれらロボットたちが、諸費用を支払ったあとに年間200万円ずつのお金を稼いでくれる未来。それなら私は、働かなくても年収2000万円です。
そして当然ですが、2040年がそういう未来になるとしたら?AIとヒト型ロボットの未来市場は、現在の投資額の数十倍のリターンが得られるレベル、最終的には8000兆円レベルに拡大するでしょう。この先、株式市場は何度かのクラッシュを経験するかもしれませんが、最後にはたぶんおそらく確実にそのような未来が到来するのです。

更新:02月21日 00:05