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どんなにAIが進化しても「稼ぎ続ける人材」とは? 重要な3つのキーワード

2025年08月27日 公開

樋口恭介(SF作家/ITコンサルタント)

AI時代を生き残る

この数年の間で、めまぐるしい進化をとげるAI。どこまで到達するのか? そして、これからの時代を生き延びるために、どうしたら良いのか?
ITコンサルタントでSF作家でもある樋口恭介氏に聞いた。(取材・構成:杉山直隆)

※本稿は、『THE21』2025年8月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

オフィスワーカーの仕事はあと10年でなくなる

AIエージェント

「AIがオフィスワーカーの仕事を奪う」。ChatGPTやGeminiなどの生成AIを使っている人なら、そんな日がすぐ近くに迫っていることを実感していることでしょう。

多様なAIを駆使して自分の仕事を劇的に効率化している人が、この1年で急増しました。そうした人ほど、「あれ、私の仕事もいずれほとんど奪い取られるのでは......??」という恐怖感も抱いているのではないかと思います。

生成AIの進化はすさまじく、ここ数カ月でも状況が激変しています。

象徴的な進化の1つが、アルゴリズムをAI自身が見つけ出せるようになったことです。5月14日にGoogleから発表されたAlphaEvolveがまさにそれ。コンピュータサイエンスに不可欠な「行列計算」において、これまで最適解とされていたものよりもさらに速くできるアルゴリズムを見つけ出したのです。従来は、人間が開発しなければならないことが生成AIの進化のボトルネックとなっていましたが、それを自ら解決したのです。

また、少し前のAIはリアルなトレードオフに基づく具体的な意思決定を勧めたりはせず、どちらともとれるような無難な回答をすることが多かったと思います。

しかし、最近のAIは多様性が出てきており、必ずともそうとは言えなくなってきました。X上で使えるGrokやChatGPT4.5のように、人間の感情に寄り添うEQ高めのものが次々と登場する一方、OpenAI o3のようにロジカルで淡白な回答を突き詰めるものもあり、AIのアウトプットの幅は明らかに広がっています。

そして、ここ数年のうちに「AIエージェント」が普及する未来も見えてきました。AIエージェントとは、様々な生成AIを組み合わせて複雑なタスクを自律的に判断し自動的に行なうAIシステムのこと。

ただ、これまではAIツールの規格がバラバラなため、使えるツールが限られていました。ニンテンドーSwitchのソフトが、プレイステーションでは使えないようなものです。しかし、この問題にも解決のメドが立ちました。

昨年、Claudeを開発したアメリカのAnthropicが、「MCP」という、複数の外部AIツールを管掌できる規格を開発しました。これによって、AIエージェントが様々な外部ツールを自律的に判断して、縦横無尽に使いながらタスクを遂行できるようになります。「この件をいい感じでやっておいて」と指示すると、勝手に仕事をしてくれるのです。もはや、人間に仕事をお願いするのと変わりません。

AIエージェントが本格的に普及すれば、オフィスワーカーの仕事は本当になくなるでしょう。少なくとも「生産性を高める」という観点でオフィスワーカーがやるべきことは、1つもなくなると思います。

生成AIやAIエージェントが進化すると、組織の形態も変わってくるでしょう。AIが仕事をしてくれるので、会社に大勢の人を抱える必要がなくなります。すると、組織をピラミッド型の階層構造にする必要がなくなるので、中間管理職も要らなくなるのです。現場の仕事もなく、管理の仕事もなくなれば、いよいよオフィスワーカーに仕事は残されていません。その未来があと10年も経たずにやってくるのです。

 

「土地・法律・宗教」を支えるしかない?

土地、法律、宗教

もちろん、どんなに生成AIが進化しても、人間の仕事として残るものはあります。例えば、看護師や介護士、エンジニア、警察官、トラックドライバーなど、身体性の必要なエッセンシャルワーカーは残り続けるでしょう。ロボットや自動運転車の普及によって仕事は減っても、すべて代替されることはないはずです。

では、オフィスワーカーはどうでしょうか。「何もすることがなくなる」と言いましたが、今後も確実に残り続ける仕事はある、と私は考えています。そこには、大きく分けて2つの方向があります。

1つは、「土地・法律・宗教」を司る権力に携わることです。「土地・法律・宗教」の3つは、AIが普及しても絶対に価値を失うことはありません。

まず土地は、生命としての安定性を担保するものであり、人間が人間の形をしている限りは、土地がないと生きていけません(もっとも、肉体を捨て電子の世界に置き換えられるような未来が訪れれば話は別ですが)。土地は有限なので、広い土地を持っている地主は、この先も権力を保ち続けることができます。

また、その土地を戦争などの暴力で強引に奪い取られないようにするには、土地の使い方のルールを決めることが必要です。すなわち法律を司る立場にある人も、権力を保ち続けることができます。

また、宗教は「本当に神がいるのかどうか」など誰も実証できず、反論不可能なものなので、いかに科学が発展しようが、その価値は不変です。そうした宗教を司る教祖やその側近たちも、権力を保ち続けることでしょう。また、スポーツ選手や芸能人、YouTuberなどもある意味、"宗教の教祖"のようなもので、無価値にはならないのではないでしょうか。

 

良い感じの人になることも生き残りの道

こうした権力と密接にかかわることを生業とする人たちはこれからも稼ぎ続けるでしょうが、誰しもがそうなれるわけではありません。

そこで、現実的な選択肢が、彼らの右腕になることです。事務的な仕事はAIに奪われるかもしれませんが、権力者の身の回りの世話や心のケアはまだ残っています。権力者はたいがい孤独を抱えていますから、それを埋めるための"職業としての友達"のような関係です。カウンセラーまでいかなくても、ライトなキャバクラやホストクラブみたいな関係性で構いません。

私は日頃コンサルティング会社で働いているのですが、すでに「これ、僕はホストではないか」と思う瞬間がたくさんあります。先日も「樋口さん来てください」と指名されたので、経営者のもとに行ってみると、ただしゃべるだけ。ネクストアクションも何も決まらず、何も価値を生み出せていないのに、「今日はお話できて良かったです」と言われて終わりました。謎の時間ではありましたが、「なんとなく背中を押してほしい」「悩みを聞いてほしい」という需要があったのでしょう。

こういうニーズを満たす、ライトなキャバクラやホストクラブ的な役割を果たす人は合理性では選ばれません。「なんかしゃべりやすい」とか「なぜか安心感がある」といった、感情的で非論理的な要素がものを言います。そういった"良い感じの人"になることが、これからの世の中を生き残るための1つの道になるでしょう。

 

ジョブズやマスクを目指すのは間違い

AI時代のオフィスワーカーが生き残るためのもう1つの道は、「正しくはみ出す人材」になることです。

「正しくはみ出す人材」とは、新たなパラダイム・新たな競争を生み出すような斬新なアイデアを練り上げ、提起し、実現することで、組織の拡大に貢献できる人材のこと。他の人が思いつかないようなはみ出したアイデアを創造する力を備えた人材、ということです。

このような人材はAIには代替できません。自分から、「こんなビジネスがあったらよいのではないか」と、アイデアを言い出して、周囲に布教していき、多くの人を巻き込んでいくような意思を、AIは持っていないからです。

ただ、単に「はみ出す人材」だと、よほどの傑物でもなければ人が集まってきません。「よほどの傑物」の代表がスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクです。彼らの功績は言うまでもありませんが、彼らはアイデアだけでなく人間的にもかなり「はみ出した」人物です。

例えばジョブズは、できないことを部下にできると錯覚させたことから、「現実歪曲フィールド」の使い手だったと言われていますが、裏を返せばとんでもないパワハラ人間でした。自分のやりたいことを押しつけ、反対意見に耳を貸すことなく、巧みな弁舌で相手を丸め込んで無理難題に取り組ませる。そして、達成できなければ罵倒する。普通の人間がこんなことをしたら、一瞬で嫌われておしまいです。

実際、創業メンバーの一人でありながら一時はAppleを追い出されていますから、一般的な経営者や組織のマネジャークラスの人が目指すべきキャラクターとは言えません。

イーロン・マスクも同様で、経営者としてはカリスマでも、考え方も生き方もクレイジーなリスクジャンキー。凡人が真似てみたところで、誰もついてこないのは火を見るより明らかです。

組織で働く方には、組織で働く方に合った「正しくはみ出す人材」像があります。それは、ジョブズやマスクのように、周囲を無理やり暴力的に引きずっていく孤高のはみ出し人材とは正反対の、「信頼関係と熱意で周りを巻き込むはみ出し人材」です。オフィスワーカーの方々は、基本的にはこちらを目指しましょう。

 

AIは「妄想」が不得意 その意外な理由とは?

正しくはみ出す人材の3大要素

「正しくはみ出す人材」になるためには、次の3つの能力を身につける必要がある、と私は考えています。

まず最も重要なのは、「妄想力」。周囲の人たちをワクワクさせられるビジョンや、社会的に意義深い「まだ世の中にないアイデア」のタネを見つけ出し、それを社会に実装するまでの方策を妄想・夢想する力です。

ソニーのウォークマンにしても、日清食品のカップヌードルにしても、世界的なイノベーションを起こした商品は、「妄想」から生まれています。

例えばウォークマンなら、「音楽は、コンサートやライブ会場に行って聴くか、CDやレコードを買って家で楽しむものだ」という固定観念を打ち破り、「街中でも音楽を楽しめたらいいのに。そのためには?」という理想を思い描いて、その実現方法を妄想した結果、生まれた商品です。この「妄想力」がなければ何も始まりません。最も重要なスキルだとお考えください。

「そんなアイデアは、AIに聞けばいずれ出てくるようになるのではないか」。そんなふうに思う人もいるかもしれません。確かにAIは本来そういう能力も持っているのですが、現在開発・改良が進められているAIは、ほぼすべてができる限り「変わった回答」を出力しないように、開発サイドの手によって調整がされています。

AIの「はみ出す力」を放置し、AI自身の判断やアイデアを出せるようにすると、事実と異なる情報を発信したり、AIを使う側が欲しい回答とはピントのズレた回答をガンガン推し進めてしまったりして、扱いづらくなるからです。

採算を考えると、正確性重視の最大公約数的なアウトプットを出せるようにしたほうがいい。だから、人間が活躍する余地があるのです。

妄想力は、既存の枠組みからはみ出したものの見方を獲得し、そちら側から世界を眺めることで、より望ましい未来を見つけ出し夢想する力、とも表現できます。この「既存の枠組みからはみ出したものの見方」をいかに持てるようにするかが、ポイントといえるでしょう。

 

みんなの妄想を増幅させるストーリーをつくる力

必要な能力の2つ目が、妄想力によって醸成したアイデアを他者と上手に共有し、周りを巻き込んでみんなで妄想を増幅させる「ストーリー」の力です。

どんなに妄想力を高めても、天才ではない一人の力では、考えられることにも限りがあります。

しかし、組織とそこにいる人々の力を借りられれば話は別。他人をどんどん巻き込めば、一人では到底思いつけない規模の創造性を発揮し、人間だけの「強烈かつ尖ったアイデア」を生み出すことができます。そのときに必要となってくるのが、「ストーリー」です。

アイデアを実現するとどのような未来が訪れるのか。実現するためにはどんなハードルがあり、どのように乗り越えていくのか。このようなゴールまでの道筋が「ストーリー」ですが、やるべきことを整理しフローを可視化しただけのストーリーでは、人の心は動きません。

聞いた人の心を躍らせて、「それならこうやったらどうだろうか?」とアイデアを誘発し、「自分も一緒にやってみたい」と思わせるような、強い引力をまとったストーリーを作ることが必要です。

「そんなストーリーなんて私には生み出せない」と思われる方もいるかもしれませんが、「SFプロトタイピング」という手法を使えば、誰でもストーリーを描き上げることができます。

SFプロトタイピングのSFとは「ここではないどこか」を描くサイエンスフィクションのこと。そのSFを活用して、そんな「ここではないどこか」をリアルに思い描くつもりになって思考の自由度を高め、まったく新しいアイデアを現実とリンクする形で練り上げていくのが、SFプロトタイピングです。

その具体的な手法については、2025年6月に発売された私の著書『反逆の仕事論』で紹介していますので、よかったら参考にしてください。

 

「この人のためなら」と仲間に思わせる力とは

そして最後の3つ目が、「この人の助けになるなら協力しよう、ひと肌脱ごう」と思わせる人間関係を築き、維持し続ける力です。

協調性がなく組織から浮いている人が、いくら「ぶっ飛んだアイデア」を出して、それらしいロードマップを説明してきても、協力したいと思う人はまれです。

そうならないためには、アイデアを出す前から、「この人の頼みならどうにかしてあげたいな」と思わせるような人物になっておくことが重要であり、これこそが「正しくはみ出す人材」に必須の力です。これをしっかり身につけることで、身の回りの同僚や後輩、上司を巻き込んで「妄想」を具現化できます。

そうした力を身につけるために必要なのが「コア業務」。自分の会社や部署にとって役に立つ仕事のうち、自分がいないと回らず、「この人に急に辞められたら困るな」と思われる仕事のことです。会社や部署にとってのメイン業務や花形業務である必要はなく、むしろ縁の下の力持ち的な、地味な仕事にこそチャンスがあります。

こういう業務を密かに握っておくことで、頼れる人間というポジションを獲得できるわけです。

以上の3つの力を身につけると、「はみ出したアイデア」を実現できるようになり、社会に貢献できるようになります。これらの力は会社の中だけでなく、独立してからも威力を発揮する力です。

もちろんこれまで世の中になかったアイデアですから、思うように成功しないこともあるでしょう。しかし多少失敗があったとしても、周囲の人を巻き込んで自分の妄想を実現することは、非常に楽しくエキサイティングなものです。先行き不明なAI時代であっても、人生が豊かなものになるのは間違いありません。

 

【樋口恭介(ひぐち・きょうすけ】
1989年生まれ、岐阜県出身。早稲田大学文学部を卒業後、外資系コンサルティングファームに勤務。2017年、在職のまま、『構造素子』で第5回ハヤカワSFコンテスト(大賞)を受賞し、作家デビュー。20年からは「SFを社会に実装する」スタートアップ・アノンにも参画し、同社のメディア「Anon Press」の運営・編集にも携わる。23年からは東京大学大学院客員准教授。

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