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睡眠負債は解決できるか 「首が痛くならない」と評判の枕を開発した若手起業家が語る

2026年02月10日 公開

川嶋伶(株式会社太陽 代表取締役)

川嶋伶

OECDの調査によれば、日本の平均睡眠時間は先進国の中で圧倒的最下位。国民の多くが慢性的な睡眠不足、いわゆる「睡眠負債」を抱え、その経済的損失は年間15兆円にのぼると試算されている。この深刻な社会課題に、真正面から挑む若手起業家がいる。株式会社太陽の代表取締役、川嶋伶氏だ。

大学院在学中に同社を設立し、『ヒツジのいらない枕(R)』というユニークなネーミングのプロダクトで寝具市場に殴り込みをかけた。単なる寝具メーカーに留まらず、ヘルスリテラシーの向上やウェルネス領域での革新を目指す川嶋社長に、その原点と未来図を聞いた。

 

すべての始まりは、自身の「悩み」だった

すべての始まりは、私個人の悩みからスタートしています。私自身、眠れる時と眠れない時の差が非常に激しく、「眠れない」という状況がこんなにも辛いのかと痛感していました。眠れなかった次の日というのは、本当に何も楽しくない。何を食べても美味しいのかどうかわからず、感情も「無」に近いような感覚でした。

この個人的な悩みが「ビジネスになる」と確信に変わったのは、睡眠の悩みは多様であると気づいた時です。「途中で起きてしまう」「体が痛くて起きるのが辛い」「朝起きられない」など、睡眠における悩みは多岐にわたります。しかし、もし「よく眠れた」という一点を実行できれば、それらすべてが解決できるかもしれない。世界中の全人類がよく眠れたら、もっとハッピーな世の中になるのではないか。そう考えた時、これはビジネスとして大きな可能性があると直感しました。

 

社会課題としての「睡眠負債」

自身の経験もあり、睡眠負債は、社会全体の"生きる質"を下げている深刻な課題だと考えるようになりました。睡眠の質が悪いと、慢性的に生産性や幸福感が低下します。それが続くと、「自分は何のために生きているんだろう」という感覚に陥りかねません。

また、日本には「努力」や「我慢」を美徳とする文化的な背景があると感じています。睡眠を削って一生懸命働くことが無意識に「正義」とされ、結果として「疲れを誇る社会」が形成されてしまっている。ちゃんと休むことに罪悪感を抱いてしまうような構造になっているのではないかと危惧しています。

 

「就職」ではなく「起業」を選んだ理由

私が「起業」という手段を選んだ背景には、二つの大きな要因があります。

一つは、私の親が会社を経営していたことです。その影響もあってか、将来は自分も何かしらやるのではないかと漠然と思っていました 。

もう一つは、タイミングです。私が起業したのは大学院時代なのですが、ちょうど世の中的に「クラウドファンディング」という仕組みが流行り始めた時期でした。銀行融資といった従来の概念ではなく、良いものに対して一般の人々が資金を募る。このフローであれば、私たちのような小規模なチームでもチャレンジできるのではないかと感じたのが、最初のスタートです。

今振り返って、学生起業家であったことの最大の『武器』は、「失うものが何もなかった」ことです。学生には時間があります。たくさん考える時間と、それを素直に実行に移せる環境があったことは、本当に良かったと思っています。

事業が「絶対にうまくいく」と自信が確信に変わったのは、クラウドファンディングでの成功です。以前販売していた旧モデルをリメイクし、『ヒツジのいらない枕(R)』としてクラウドファンディングに出したところ、日本の枕製品として過去最高の支援額を集めることができました。これが一つの大きなマイルストーンになりました。

ただ、それ以上に「もっと広げていかなくてはいけない」という使命感と責任を感じました。

 

常識を覆すプロダクトの発想

『ヒツジのいらない枕(R)』のアイデアの源泉は、製品の「コンセプト」と「ネーミング」で少し異なります。

製品のアイデアそのものは、海外の展示会で出会った「素材」がきっかけです。当時、一緒にビジネスを始めた今の商品開発部長が、大学院で「ソフトマター(柔らかい素材)」の研究をしていました。その彼と「この素材なら、めちゃくちゃいいものが作れる」と話し合い、製造できる工場を見つけてスタートしたのが始まりです。

『ヒツジのいらない枕(R)』という名前は、なかなか良いアイデアが浮かばず、家に帰ってベッドに横になった時に思いつきました。「眠れない時って何するかな...あ、羊数えるか」と。「じゃあ、羊数えなくて寝れたらいいよな」という発想から、『ヒツジがいらない枕』という名前が生まれました。次の日、会社でメンバーに伝えたら「それしかない」とすぐに決まりました。

 

睡眠は全ての未来の「土台」

私たちは「眠っている時」の商品を提供していますが、睡眠は人生の3分の1を占めます。逆に言えば、3分の2は起きている時間です。この「3分の1」がきちんとできていないと、起きている「3分の2」の時間もハッピーに過ごせない。その「3分の2」の時間をハッピーに過ごせるためであれば、私たちは何でもやります。そこを追求し続けたいです。

10年後、私たちの睡眠や健康管理は、もっと面白くなっていると期待しています。例えば、将来的に「見たい夢が見られるようになる」ことができたら、すごく面白いですよね。今は枕に頭を預けた瞬間に意識が飛んでしまう商品を作っていますが、将来的には「頭を預けた後もワクワクできる」ような、眠っている時間そのものを幸せにできる体験を創出していきたいです。

生きていれば色々なことがあると思いますが、「良く眠っていれば大丈夫かな」と私は思っています。きちんと眠れて、気持ちいい朝を迎えられたら、大抵のことはポジティブに考えられますし、美味しくご飯も食べられます。睡眠は「全ての土台」です。

ですから、何かあったら、まず寝る。

とりあえず何かあったら寝たらいいよ、と社員にも話しています。そこを大事にしてほしい。目覚めたら、また新しい1日が始まっていますから。

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