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「富裕層ビジネス」の極意 彼らがお金を出す時の判断基準とは?

岸田大輔(株式会社クレディセゾン セゾンAMEX事業部 プレミアムビジネス開発部長)

近年富裕層は多様化している

ビジネスを展開するうえで、「富裕層」を顧客としてつかむことができれば、これほど心強いことはない。そのためには彼らの実情を知る必要がある。想定している富裕層は、資産3000万円の「アッパーマス層」なのか、それとも3億円以上の「超富裕層」なのか。そして彼らはいったい何に価値を置いているのかーー株式会社クレディセゾンで富裕層ビジネスを担当し、1000人以上の富裕層と交流してきた岸田氏が、多様化・細分化する富裕層の実態を分析する。

※本稿は、岸田大輔著『「新」富裕層ビジネスの教科書1000人の富裕層から学んだ秘密の営業術とマーケティング術』(集英社インターナショナル)より一部抜粋・編集したものです。

 

富裕層とはいったい誰のことなのか?

株式会社野村総合研究所(以下、野村総研)によれば、富裕層とは「金融資産1億円以上5億円未満」とされ、2021年の時点で約140万世帯となっています。それ以上を「超富裕層」と定義していて、およそ9万世帯あります。そのほかに5000万円以上1億円未満の層を「準富裕層」としていて、これが約325万世帯。そして、3000万円以上5000万円未満を「アッパーマス層」、3000万円未満を「マス層」と区分しています。

これが2025年2月に発表されたレポートによれば、2023年の時点で日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計されました(図表1-1、図表1-2)。先ほどの2021年のデータに対して2年間で世帯数は約11%、資産総額は約29%増加したことになります。

純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数

さらに、最高値更新を続ける近年の株式相場の上昇を受け、運用資産が急増した「いつの間にか富裕層」も定義されています。主な職業は一般的な会社員であるにもかかわらず、従業員持株会や個人型確定拠出年金(iDeCo)、NISAなどを活用することで"いつの間にか"運用資産が1億円を超えてしまった人たちです。

加えて、同レポートでは「スーパーパワーファミリー」の存在も示唆しています。世帯年収1500万以上を目安とする共働き世帯を指す「パワーファミリー」に子供が生まれたことで、一般的な消費に加えて住宅の購入や子育て、教育など、消費活動がこれまで以上にパワフルになりました。

都市部居住で大企業共働き世帯の場合、組織内で順調に昇格・昇給していくと40歳前後では世帯年収が2000万円を超え、金融資産が急速に膨れ上がります。彼らが50歳前後になる頃には、世帯年収3000万円、金融資産1億円を超える「スーパーパワーファミリー」という富裕層になる可能性が出てきているのです。

 

資産3000万円の富裕層と3億円以上の富裕層は全く別の世界

客観的なデータで富裕層を定義してみましたが、自分のビジネスゾーンが少しイメージできるようになったでしょうか。

「私がイメージしていたのはアッパーマス層だった」とか、「消費に積極的なキャッシュフローリッチの方がイメージに近いかもしれない」など、これまで「富裕層」とひとくくりにしていた世界にさまざまなレイヤーが存在することがご理解いただけたと思います。

いくつかのレイヤーをひとくくりにして考えていた方は、ぜひ今一度立ち止まって、ご自身のビジネスゾーンを再確認することをお勧めします。言うまでもありませんが、資産3000万円の層と3億円以上の層は全く別の世界です。そのままビジネスを進めるのは危険です。

さて、ここで大切なのは「お金がある=お客様になってくれる」とは限らないということです。富裕層が増えたことでビジネスの可能性が増えたことは確かですが、もう少し解像度を上げる必要があります。

例えば「いつの間にか富裕層」は、確かに運用資産は多いかもしれませんが、基本的に生活レベルやライフスタイルはそれまでの暮らしと大きく変わりません。急に高級車を買ったり、広い家に引っ越したりすることはないでしょう。

「スーパーパワーファミリー」にしても、子育てが一段落したからといって価値観や消費スタイルが突然変わるわけではありません。データとして「お金がある」「資産がある」という事実と、自分のビジネスの相手としてフィットするかはまた別の話なのです。

特に、モノや情報が溢れている現代において、新しい商材であっても機能で優位性を出すことは難しいでしょう。高級で予約の取りにくいレストランが価値を持つこともあれば、意外な穴場の美味しいお店が価値を持つこともあります。時計だって車だって、本質的な機能という意味ではそれほど価値に差はつけにくいのです。

私の経験上、富裕層は保有資産が増えるほど、価値観や消費スタイルが多様化・細分化していきます。前掲した野村総研の通称"富裕層ピラミッド"でいえば、ピラミッドの上の方に行くほど、その中が細かく分かれているイメージです。

同図ではピラミッドのトップ層を「超富裕層」とひとくくりにしていますが、実際にはこの層はモザイク状に属性が分かれており、ビジネスをする際には細かく見ていく必要があると感じています。

それでは、富裕層はいったい何を基準に選択をしているのでしょうか?

それは「自分の価値観」です。

ファッションとしてブランド品を手に入れることもあれば、特定のブランドのストーリーや経営者の姿勢に共感して購入することもあると思います。憧れのクラシックカーを手に入れて乗る時間に価値があると考えることもあれば、フェラーリやランボルギーニの限定車など売却時の資産価値を考えて車を選ぶこともあるでしょう。

つまり「お金がある」ということは、「選択肢が多い」ということであり、それだけ自分の価値観を大切にすることができるのです。

ですから、富裕層の価値観は画一化されにくく、十人十色の考え方とニーズが生まれるのです。相手が何を望んでいるのかに想いを巡らせ、その動機まで考え抜く。この姿勢が富裕層ビジネスにはとても大切で、「富裕層マーケティングは"誰に"を最初に考える」ということに繋がっていきます。

プロフィール

岸田大輔(きしだ・だいすけ)

株式会社クレディセゾン セゾンAMEX事業部 プレミアムビジネス開発部長

2002年、株式会社クレディセゾン入社。セゾンAMEXや提携カード担当として、カードリニューアルや新規カード発行を通じてマーケティングに携わる。2017年より東南アジアにてアンダーサーブド層向けビジネス開発に携わる。2019年よりセゾンAMEX事業部にて富裕層ビジネスを立ち上げ。2022年よりブラックカード事業に参入。機能よりも価値に寄り添ったサービスが新富裕層の間で話題となる。

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