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日本で洋上風力発電は難しい? 常識を覆す日本発「垂直軸型」風車

2025年12月03日 公開

秋元博路([株]アルバトロス・テクノロジー代表取締役)

秋元博路

日本では馴染みの薄い洋上風力発電。2025年夏に大手商社が撤退を表明したこともあり、「普及が進む欧州とは自然条件が違う日本では難しいのでは」と思っている方も少なくないかもしれない。しかし、従来とはまったく違う形の風車で、コストの低い洋上風力発電に取り組んでいるベンチャー企業がある。秋元博路代表に話を聞いた。(取材・構成:川端隆人、写真撮影:丸矢ゆういち)

※本稿は、『THE21』2026年1月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

海洋構造物の発想で「垂直軸型」の風車を開発

風車FAWT

――御社の洋上風力発電の風車は、多くの方が持っている常識とは違った形をしています。

【秋元】私たちとしては常識を覆しているつもりはなくて、むしろ基本原理に沿っているつもりです。ただ、今の主流とは違うのは確かです。

多くの方がイメージされるのは、水平軸型の風車でしょう。回転軸が地面と水平な形ですね。

水平軸型の風車は、地上に建てるのならいいのですが、私のように船舶工学を専門としてきた人間から見ると、海洋構造物として合理的ではありません。重心が高すぎるんです。

現在スタンダードになっている15メガワット級の水平軸型の風車は、ブレード(羽根)の長さが120メートルもある巨大な構造物です。軸の部分に置かれた発電機も重いので、頑丈なタワーを建てて、風車と発電機を取りつける必要があります。

土台もしっかりとしていないといけませんから、海底に据えつけて支える着床式にするのが、これまでの常識でした。

つまり、陸上の風力発電を、そのまま海に持っていっただけです。

ところが、波もある、風も強い洋上に、巨大なブレードと重い発電機を最上部に取りつけた、重心の高いタワーを建設して、安定姿勢を維持するには、大変なコストがかかります。

海洋構造物の考え方では、重たいものは海に浮かべればいいし、重心は低くするべきです。

ですから、当社が開発している垂直軸型の風車は、海に浮かべる浮体式で、風車の下、海面のすぐ上の位置に発電機を設置しています。

FAWTが並んだ洋上風力発電所(ウィンドファーム)のイメージ図FAWTが並んだ洋上風力発電所(ウィンドファーム)のイメージ図

 

海外依存から脱し、発電用風車の国産化へ

――洋上風力発電はコストが高いと言われますが、御社の風車だとコストが下げられる?

【秋元】従来の洋上風力発電にかかるコストで大きなものは、まずメンテナンスです。欧州では、洋上風力発電にかかる全コストの36%がメンテナンスだとされています。

高い位置にある風車や発電機のメンテナンスは、作業自体が困難で効率が良くありませんし、波があるために作業できない時間が出てきますので、コストが高くなるのは当然です。

一方、垂直軸型だと、発電機は水面近くにあります。多少波がある程度なら高所より揺れが小さく、メンテナンス作業ができます。作業スペースも広く確保できますから、作業の難易度が下がって、短時間化できます。

また、当社の風車は、製造コストも抑えられます。

水平軸型の風車のブレードは複雑な形をしていますから、型枠の中にカーボン繊維やガラス繊維を並べて造ります。いわば「鯛焼き」方式です。

120メートルあるブレードを造る型枠となると、それを置く工場も広い敷地が必要です。土地が安い場所でなくては造れません。

完成したブレードを出荷するにも広い道路が必要です。

製造には人の手に頼る部分も多く、人件費の問題もあります。

そのため、日本には風力発電用の大型風車を造る会社がなくなってしまいました。

一方、当社の風車のブレードは単純な形をしていて、どの部分でも断面が同じ形をしています。パスタみたいなものです。

ですから製造も簡単で、一度プラントを造ってしまえば、人件費はあまりかかりません。

ブレードもシャフトもアームも同じモジュールの組み合わせで、一つのモジュールの長さは30メートルほどです。小さい工場でも製造できます。これなら日本で造れます。

発電機についても、当社の風車では、シャフトを囲んで、例えば1メガワットの発電機を15個配置するというように、小型のものを使います。

15メガワットサイズの発電機を造れるのは中国をはじめとする海外の限られたメーカーだけで、日本のメーカーが参入するのは難しいでしょう。でも、1メガワットの発電機なら、日本の、必ずしも大企業でないメーカーでも造れます。

――国産化できるというのも魅力的ですね。

【秋元】電力会社も、これまで日本製の風車がないことで困っていました。外国製の風車は高いし、サプライチェーンに問題が起きたら調達が滞ってしまいます。

我々の技術が日本製で完結できることは、一緒にプロジェクトを進めている電力会社もかなり重視してくださっているという印象を持っています。

ただ、我々は従来の大型風車と競争しようとは思っていません。

そもそも、15メガワット級の大型風車が主流なのは、それぐらい大きくないと事業性がないからです。我々は、小さなサイズの風車で、同じだけの経済性を実現できることを示したいと考えています。

ちなみに、モジュールの長さが30メートルだと、パナマ運河を通れます。つまり、輸出に非常に有利なんです。

――海外展開もすでに考えているんですね。

【秋元】洋上風力発電は一国の問題ではありません。日本製でありながら、日本で閉じるのではなく、日本発の技術として世界展開していくことが重要だと思っています。モノを輸出するのでも、製造設備を輸出するのでもいい。

再生可能エネルギーについては、国によっては懐疑的なリーダーが出てきたりもしていますが、大きな流れは変わりません。

むしろ、他国が足踏みするなら日本にチャンスが回ってくるということです。

今は低くなってしまっている日本の「技術自給率」を高めたいですね。

 

ディープでヘビーな技術の日本の底力を示したい

――御社の風車は主流とはまったく違う発想で考えられているので、投資家の理解を得るのが大変だったのではないでしょうか?

【秋元】そうですね。ほとんどのベンチャーキャピタルには、当社の技術を評価していただけませんでした。

そんな中、ある1社の担当者に評価していただき、投資を決めていただきました。1社でも投資の実績があると、他社も真剣に話を聞いてくれるようになりました。

理解してくれる一人の方との出会いが大きかったと思います。

そもそも、日本のベンチャー投資はマネタイズしやすいインターネット系に集中しがちです。我々の技術はディープで、ヘビーで、収益が上がるまでに時間がかかるので、それだけでも投資をしていただくためのハードルがあります。

もっと支援があれば、海外のライバルに追いつける底力が日本にはあります。我々が事業を成功させることで、それを証明したいですね。

――事業化を目指して、現在はどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?

【秋元】大きなものとしては2つあります。

一つはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで、実現性の検証を進めています。実際にモノを造るのではなく、シミュレーションが中心です。

もう一つは、小型の風力発電装置を実際に造って行なう、海上実験の準備を進めています。こちらは、2026年春に長崎県壱岐市の海に浮かべることを目指しています。

 

【秋元博路(あきもと・ひろみち)】
東京大学大学院博士課程修了(船舶海洋工学)、工学博士。日本・韓国で大学教員として教育・研究に従事。2011年の東日本大震災と原子力発電所事故をきっかけに、海洋再生可能エネルギーの実用化を目指して、合同会社アルバトロス・テクノロジーを設立し、19年まで兼業。22年に株式会社へ組織変更して代表取締役に就任。低コスト・国産の大型浮体式垂直軸型風車の実用化・事業化を目指している。

 

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