2025年02月10日 公開
Z世代向けのアパレルブランドを数多く展開し、2023年12月にアパレル企業として史上最速で東証に上場したyutori。創業社長の片石氏は、その時点で30歳。アパレル企業の経営者として最年少での上場だ。社員の平均年齢も25歳(24年8月時点)と若く、売上高も急伸中。「若者帝国」を目指す片石氏に話を聞いた。
写真撮影(片石氏):吉田和本
※本稿は、『THE21』2025年2月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
──yutoriは、70くらいまでブランドを増やして、日本で一番数多くのブランドを展開する企業になることを目指しているということですが、その理由は?
【片石】今はコンテンツがものすごく多くて、飽和しているので、一つのブランドの売上は最大で10億~30億円くらいだと見ています。また、ファッションにはトレンドがあるので、それに合わせてブランドの売上規模をコントロールし続けることが重要です。
ですから、会社を拡大するためには、ブランドのポートフォリオを持つことが必要。このことは、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が証明しています。
もし1980年代や90年代に起業していたら、マス向けのブランドで拡大を狙ったかもしれません。でも、SNSが普及したことによって、偏愛が多種多様になっている今は、それが勝つ方法ではない。
やっぱり、勝たないと意味がない。勝ってこそ、自分たちの考え方が正当化される。資本主義って、そういうゲームなんで。
──yutoriという社名は、片石社長が前職で「ゆとり世代っぽい」と言われたことが由来だということですが、それを社名にした意図は?
【片石】自分自身にゆとりがなかったから、ということもありますが(笑)、「ゆとり世代」ってコミュニティネームじゃないですか。その世代に向けてビジネスをするうえで、第一想起を取れるなら、そんな「おいしい」ことはないだろうと考えました。
また、クリエイティブは余白からしか生まれないと思っているので、それも大きな理由です。
苦しみの先に生まれるものもあるとは思いますが、基本的に、面白いものって、真面目に考えてもあまり生まれない。皆でラフに話す中で生まれたアイデアや、ふと思いついたアイデアのほうが、意外と刺さったりする。努力と正比例しないと思うんです。
僕は努力信者が嫌いなんですよ。努力信者で商売の本質をつかんでいる人は、あまりいないと思います。
例えば、コロナ禍が始まったときに、すぐにマスクを売れば儲かった。けれど、今、どんなに頑張って、いいマスクを作ったり、調達するルートを開拓したりしても、当時ほど儲からないですよね。商売の本質は努力じゃないんです。
――yutoriはZ世代向けのアパレルで急成長してきました。
【片石】僕は20代前半くらいまでの「初期衝動」をすごく重視しています。若者の才能がひしめき合って、それぞれが偏愛している尖ったブランドが多種多様に、カオスのように存在している会社って、面白いと思うんですよね。これも、ブランドの数を増やしたい理由の一つです。
――若者の初期衝動を具体的な商品にして、ビジネスにするには、どうすればいいのでしょうか?
【片石】yutoriでは「マネジメント」という言葉を禁止していて、「プロデュース」という言葉にしています。マネジャーじゃなくて、プロデューサーです。若者の才能を管理するんじゃなくて、プロデュースする。
――プロデューサーの役割は?
【片石】基本的には、ブランドの作り手に好きなことをやってもらうこと、主権を持たせることです。
もしプロデューサーが「微妙だな」と思ったとしても、作り手が出したい商品は出す。アパレルは、1カ月に10アイテムとか、出す商品の数が多いので、チャンスはいくらでもあるわけです。出して、フィードバックして、修正していけばいい。
──yutoriのYouTubeチャンネル「ゆとらない日々 アパレル企業の裏側」には、会議で社員に厳しい言葉をかけている動画もあります。
【片石】もちろん、「やりたいなら全部OK」というわけではありません。僕が出る会議は限られていますが、「俺の感情すら揺さぶれないやつが、お客さんの感情は揺さぶれない」という考え方なんで。
僕のキャラクター的にも、それが威圧感を持って伝わっていると思うんですけど、お客さんの反応と比べたら、ずっと優しいですよ。お客さんは、買うか買わないかというだけで、すごくドライですから。
そもそも、自分が作りたいだけのものは、創作ですらありません。単なるエゴです。トレンドをキャッチアップするなど、お客さんとの広義のコミュニケーションを大切にしています。
――動画からは、ただ厳しいだけでなく、相手をよく見て、かける言葉を考えている印象も持ちました。
【片石】人を見る才能は、ものすごくあると思います。
人を知るためのフレームはいくつかありますが、人格形成に特に影響が大きいのは、生まれ育った家庭環境と学生時代の環境でしょう。ナイーブなテーマなので、直接聞くのは難しいところもありますが、知っておいたほうがいいと思います。
若者に対しても、「Z世代はこうだ」というような共通のラベルを貼るのではなく、その人を理解してあげること。理解しようとする努力自体が誠意になって、いい関係を構築する一助に、間違いなくなります。
――ブランドの撤退基準を、「Yリーグ」というもので決めているとか。
【片石】一定の期間で、一定の規模にまで成長しなかったブランドは撤退する、ということを決めています。ネガティブな掟を作ることを重視しているんです。
若者の初期衝動を大事にすることと、経済合理性の中でそれを否定することは、矛盾してしまいます。ただ、長期的に見れば、成長しないブランドはスパッとやめて違うことをやったほうが、その人の幸福度も上がる。でも、当人は没入しているから、俯瞰して捉えられない。捉えるべきでもない、と思います。
そこで僕らが「やめろ」と言うと嫌われちゃうんで(笑)、共通の掟を作って、その掟のもとに、僕も含めた全員がいるようにしています。
──今後、会社が大きくなったり、平均年齢が高くなったりしても、初期衝動は薄まりませんか?
【片石】薄まらないように努力するしかないですね。自分の考えをブレさせずに、これまでやってきたのと同じことをやり続けることにこだわるしかないんじゃないですか。
僕は、先日、アーティスト活動を始めたのですが、上場企業の社長がアーティスト活動を始めるなんて、普通はしないじゃないですか。そういう姿勢を貫いているのを背中で見せるとか。
YouTubeも、普通の上場企業は公開しない内容ですが、やってよかったと思います。yutoriは社名から牧歌的な会社だと思われることもあるのですが、好きなことができる自由がある一方で、自分で自分を律する部分が強い。YouTubeを観て、そのことを理解した人が採用に応募してきますし、社員もよく観ています。
──今後の展望は?
【片石】上場まではスピード重視で、ストリート系にこだわってきましたが、今後はジャンルを広げていきたいと考えています。SNSで流行をキャッチアップして商品開発をするという手法が、コスメでも再現性があることがわかったので、コスメにもさらに注力していきたいですね。
――ブランドを増やすペースは維持する?
【片石】一定のペースで増やすことにこだわるのはナンセンスです。状況を見ながら、出すべきタイミングで出していく。待つというのも、怠惰ではなく、戦略です。
【片石貴展(かたいし・たかのり)】
1993年、神奈川県生まれ。明治大学商学部卒業後、(株)アカツキに入社。2017年12月、インスタグラムのアカウント「古着女子」を個人的に開設。日本最大級の古着コミュニティとなる。18年4月、(株)yutoriを設立。23年12月、国内アパレル企業の経営者として最年少、かつ、創業から最短で東証グロース市場に上場。24年にはタレントの小嶋陽菜さんが代表取締役を務めるheart relation社を子会社化したことでも話題になった。
更新:02月19日 00:05