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日本はAI時代に「雇用維持の姿勢を貫く」ことができるか? 俯瞰すべき3つのポイント

2025年10月01日 公開
2025年10月02日 更新

後藤宗明(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)

AI時代の組織の未来を創るスキル改革

AIは驚異的なスピードで進化し、すでに多くの業務を人間に代わって担い始めています。では、この流れが日本社会にどれほどのインパクトをもたらすのでしょうか。本稿では、その予測に欠かせない3つの視点を、書籍『AI時代の組織の未来を創るスキル改革 リスキリング 【人材戦略編】』より解説します。

※本稿は、後藤宗明著『AI時代の組織の未来を創るスキル改革 リスキリング 【人材戦略編】』(日本能率協会マネジメントセンター)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

技術的失業を防ぐ議論の再燃

2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授らが発表した衝撃的な論文から2025年9月で12年の歳月が経過します。米国の47%の現行の雇用が失われるというものでした。

実際にオズボーン教授も予測の経過を振り返り、予想通りだったもの、予想とは異なる経過をたどったもの等について述べられています。2025年3月の日本経済新聞の取材では、医者、看護師、美容師等複雑な手仕事が多い職種は引き続き代替されづらい一方で、低スキルの労働者については生成AI等の活用により代替リスクがある旨を述べられています。

2022年11月にChatGPTがリリースされて以来、米国では技術的失業に対する議論が再度活発になり、実際にコピーライターやリサーチ業務のアシスタントなどの業務担当者、複雑性の低いソフトウェアエンジニア等の業務に就いている人たちの解雇やレイオフがさかんになってきました。

デジタル等新しい分野における雇用が増えるので技術的失業は起きないという専門家の方もいらっしゃいます。最終的には長い時間をかけて成長分野への労働移動が実現されれば理論上の技術的失業は大きな問題にならない可能性もあると考えていますが、実はいくつかの条件が揃わないと実現できないと考えています。

 

テクノロジーの進化のスピードと新しい雇用の創出数

まず1つ目に、「新技術が増やす新しい雇用>技術が奪う雇用」が成り立っていないといけません。

例えばここ数年、AI関連の雇用は増えているし、求人も増えていますが、雇用主が求めるレベルのスキルを持っている人が少ないので、実際に採用に至る優秀な候補者の方は少ない状況です。テクノロジーの進化が急激すぎて、先行して自動化による雇用削減が進むと、人間のスキルレベルのアップデートのスピードが追いつかないので、時間差で技術的失業は顕在化するのです。

 

自動化の意思決定を行う経営者の判断

2つ目は、経営者など雇用主の意志の問題です。競争に勝つために徹底した効率化を進めていく場合、人間の雇用を守ることを最優先にできる経営者がどれくらいいらっしゃるでしょうか。皆さんが働く会社では、どのような価値観でしょうか。

当たり前の話ですが、現時点ではAIやロボットが直接意思決定して、人間の仕事をなくすわけではありません。経営者や上級中間管理職の方が意思決定し、コスト削減のために人間がやっていた業務を自動化可能なツールを導入して人間の仕事を代替していくのです。

自動レジの導入は分かりやすい事例です。自動レジが人間の仕事を奪うのではなく、自動レジを導入する組織が「レジは今後人間の行う仕事ではない」と意思決定し、自動レジを開発導入して、実際に人間が行うレジの仕事がなくなるわけです。グローバルな熾烈な環境下にある企業においては、この流れは避けられない宿命にあると思います。

 

リスキリングに取り組む意志と成功度合い

3つ目は、働く個人の意志や能力の問題、そしてリスキリングの成功の度合いです。リスキリング導入の現場にいて日々感じるのは、皆さん頭では「このままだと自分の事務仕事は今後なくなるな」とわかっていても、具体的なアクションを起こしている方は本当に数少ないのではないかと思います。気づいた時には、部門ごと廃止になったり、会社の経営状態が悪化して人員削減の決定が下されたりして、初めて自分の今後のスキルについて真剣に再考し始めるのではと思います。

リスキリングを日本で広める活動を開始して今年で8年目、法人化して5年になりますが、AIやロボットと一緒に働く時代が来ることを理解して真剣にリスキリングに取り組んでいる方は、100人に1人いるかいないかくらいの実感です。Old habit die hard、今までの雇用習慣から脱して自分の意志でリスキリングに取り組むことができなければ、労働移動は難しく、技術的失業の犠牲者に陥ってしまいます。

生成AIの開発競争はさらに激化し、業務の生産性を上げていくためにこの流れは不可避だとすると、日本企業がどこまで従来の雇用維持の姿勢を貫くことができるのか、にかかってきます。なかなかこの技術的失業の議論は日本では本格化しませんが、手遅れになる前に対策を講じなくてはいけません。

技術的失業を未然に防げるか、それとも深刻な問題となるのかはわかりません。しかしある程度前述のような3つを同時に俯瞰することで、一定レベルで技術的失業が深刻化するかどうかの経過を予測することができるのではないかと思います。

 

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