ちょっとだけ、「目のつけどころ」を変えることで、今までの悩みが意外に簡単に解決することは、よくあることです。
最近、ビジネスシーンで「商品やサービスが売れない」「時代の変化についていけなくなった」という声を聴くことがありますが、そうした場合でも「目のつけどころ」を少し変えれば、どこかに突破口があるのではないでしょうか。
本稿では、放送作家で戦略的PRコンサルタントの野呂エイシロウさんに、「いいアイデアを考える」コツについて解説して頂きます。
※本稿は、野呂エイシロウ著『道ばたの石ころ どうやって売るか? 頭のいい人がやっている「視点を変える」思考法』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
視点を変えられない、増やせないという人を見ていると気づくことがあります。
それは「意見の数が少ない」「思いつきだけで話している」ことです。
例えば、街のレストランでお客さんになかなか来てもらえず困っているお店があるとします。このままではつぶれてしまうので、どうすればお客さんに来てもらえるか、スタッフみんなでアイデアを出し合うことにしました。
「チラシを配ったらどうですか」
「もっとメニューを増やしましょうよ」
「インスタのアカウントを作りましょう」
悪くはないですが、どの意見も普通で、ライバル店もこのくらいは当たり前にやっていそうです。これだけでは勝てる気がしません。
「ちゃんと考えたよ。けど、これくらいしか思い浮かばないんだよ」
そう言うかもしれません。たしかに、まったく考えていないわけではないかもしれませんが、「とりあえずその場で少しだけ考えて、何か思いついた意見を言ってみた」という感じがぬぐえません。
薄い意見が「ウスイケ」なら、思いつき意見は「オモイケ」でしょうか。
なぜ、なかなかいい意見が出ないのか。主に2つの理由があると思います。
1.普通のことを1つ、2つしか思いつかない
2.面白いアイデアを思いついたのに、批判が怖くて言えない
時には2のケースもあり得ますが、ほとんどは1ではないでしょうか。
会議の参加者がその場で思いついたことを、パッと言って課題解決ができれば誰も苦労はしませんよね。だいたい1つ目のアイデアというのは、誰もが思いつく中身であることが多く、つまらないものです。
こういう時に大事なのが「思いつき」を増やすこと。
1つ、2つで終わらせずに、3つ4つ5つと重ねて「思いつきの深度」を深めていくイメージです。1つ目の思いつきは、最初の視点にすぎませんから、そこから視点を変えていきましょう。
「けど、その3つ目、4つ目が出ないんです」
「そんなに、面白いアイデアがポンポン出てきませんよ」
そう言うあなたは、ひょっとして「すごくいいアイデア」を出そうとしていませんか? そういう思い込みが、視点を変えられない元凶です。アイデアは面白くなくていいのです。
たくさん案を出せば、そのなかに1つくらい使えそうなアイデアがあったりします。
あるいは、1つひとつは弱くても「これとこれを組み合わせればいけるかも」といった具合に、アイデアをつなげたり、掛け合わせたり工夫すれば面白くなるかもしれません。
「いいアイデア」を出そうとして、自分の案に「あれもダメ」「これもダメ」と自主規制をかけ続ければ続けるほど、視点を広げることができなくなります。その結果、アイデアが浮かばなくなり、意見が言えなくなります。
私が思うに、「最高のアイデアを出そう」と思っている人は、失敗を恐れている人です。なぜ、そんなに失敗をしたくないのか。完かん璧ぺき主義なのか、人目を気にするシャイな人なのか、あるいは上司が鬼のように怖くて失敗できないのか。
失敗を恐れないことについては、かのイーロン・マスクも「ロケットの世界では、全部で1000通りの方法があっても、そのなかで上手くいく方法は1つ」と語っています。
あなたは、イーロン・マスクのような有名な人なら、すごい方法をバンバン思いついて、全部成功させているようなイメージを持っているかもしれません。しかし、実際には999回も失敗を重ねているのです。
言い換えれば、成功する人とは、頭のいい人でもアイデアマンでもなく、失敗を恐れない人なのかもしれません。
フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグも「いまだかつてない最大の成功は 、失敗する自由から生まれる」と語っています。
視点を変えるということは、失敗を恐れないというと同義だと思います。「いいアイデアを出そう」なんて思わず、ダメなアイデアをじゃんじゃん出そう、と視点を切り替えたほうがいいかもしれません。できたら、ぶっ飛んだ案を出していきましょう。
電通のコピーライターで、ギャラクシー賞を受賞した経験を持つ橋口幸生さんは著書『100案思考』(マガジンハウス)のなかで、「いいアイデアを考えてくる人には共通点があります。それは『とにかくたくさん数を出すこと』。一案しか持ってこない人のアイデアが優れていたことは、ただの一度もありません」
「最高の一案は、山ほどのつまらない案の中に、ひっそり埋もれているものなのです」と語っています。
大事なのは「ダメな答えでいいからとにかくたくさん出す」ということ。「面白い」答えを100考えるのは、かなり困難です。
机の前でうんうんと唸って考えて、1つ2つありきたりな答えを出しても意味がありません。どうせ100考えるのなら、思い切って「やんちゃな」「常識外れな」「あり得ない」考えを、どんどん出してみてはどうでしょうか。
そもそも、100も考えるとなると、「正しい」答えだけでは達成できないので、自然と型にはまらない考えが出てくるようになるものです。
どうしても100がしんどいのであれば、30でも40でもいいのですが、誰もが感心するような「正解」を出そうとせずに、間違えていてもいいから「たくさんの数」を出すことを意識しましょう。
アイデアを出す段階では「実際に使えるかどうか」は考えなくてかまいません。まずは、あらゆる方向に視点を変えてみること。実際に、その案を実行するかどうかは、後で精査して考えてみればいいのです。
そもそも「ちゃんとした案を出さなきゃ」と思うとしんどくないですか? くだらなくても、下手でもいいからじゃんじゃん案を出しましょう。そのほうが楽しいと思いますよ。一発必中でいいアイデアを出すなんて無理です。私のように、アイデアで飯を食っている人間でも、無理なのです。
先ほどのレストランのアイデアも、もっといろいろ出せるんじゃないでしょうか。
例えば、レトロな音楽が好きな人であれば「80年代ディスコミュージックナイトを実施しましょう」でもいいですし、映画やアニメが好きな方なら「コスプレイベント」でもいいのです。アウトドア好きであれば、レストランを飛び出して、農家とコラボをして収穫体験ツアーとセットにした食事会を開催してもいいでしょう。
こうした、ちょっと面白いアイデアは、なかなかすぐには出てこないと思います。
自由な雰囲気で、できるだけたくさんの案を出していけば自然と視点が変わり、そのうち突破力のある案が生まれてきます。
更新:09月03日 00:05