「メンバーが自分の言いたいことを言い合うだけで、結局何も決まらなかった......」。あなたのチームの会議は、そんな残念なことになっていないだろうか。参加者の時間・労力・人件費といった貴重なリソースを投じている会議。そこでしっかり意思決定し、結論を出すことはリーダーの重要な役割だ。会議の場を正しく機能させるための方法を解説する。(取材・構成:辻由美子)
※本稿は、『THE21』2025年5月号特集[ムダに迷わない「意思決定術」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
私は、前職のIBMに在職していたときから業務改善のコンサルティングに従事し、これまでに社内外合わせて3000を超える会議に出席してきました。
ご承知のように、会議には「報告・連絡」「アイデア出し」から「課題発見」「意思決定」まで、様々な「目的」があります。
今回は、リーダーである皆さんが意思決定を行なうために、どのように会議を活用すれば良いのかについて考えていきたいと思います。
意思決定を目的にした会議でも、しっかり結論が出せるものと、何も決められずに、ただ時間の浪費で終わるものとがあります。
「メンバーが自分の言いたいことを言い合うだけで何も決まらなかった」「その場で結論が出せず、あとでリーダーが一人で再検討して決めることになった」......。皆さんにもそんな経験があるのではないでしょうか。
しかし会議は、メンバーの時間と人件費という貴重なリソースを使って行なうものです。望むものが得られなければ、その会議は意味がありません。そして、会議で望むものが得られるか否かは、リーダーの力量に掛かっています。
会議の目的が「意思決定」であるならば、「今回の会議の目的はこれで、最低限決めたいゴールはここです」ということを事前にメンバーに明確に伝えましょう。
そうすることで、参加メンバー全員の意識を擦り合わせることができます。会議へ臨む姿勢も変化し、会議中に議題が無駄に逸れたり、堂々巡りしてしまうことを避けられるでしょう。
どんなタイプの会議でも、皆さんにやってほしいことがあります。それは会議中の「議論の可視化」です。
一般的に1時間の会議でやりとりされる情報量は、1万8000字~2万字になると言われています。それだけの情報を、耳で聞くだけで処理するのは現実的ではありません。
また、会議での発言は、ロジックがしっかりしているものばかりではありません。一部の人が理解できていたとしても、他の参加者がついてこられていないと、参加者全員の納得感を醸成することができません。
そのために、発言している人が「何について話しているのか」を明確にして、その論理構造を整理、可視化し、全員がリアルタイムで共有することが重要なのです。
上の図は可視化の一例ですが、ホワイトボードや画面共有できるパワーポイントなどを使って、まず発言内容について「ひと言でいうとどういうことなのか」という要約を記述していきます。そして、その次に要約を分類していきます。
分類の仕方は様々で、「賛成意見/反対意見」や「メリット/デメリット」でも良いですし、あるいは上図のように「業務プロセス/組織・制度/人材・スキル」でもかまいません。メンバーに思いつく分類項目を挙げてもらって、仕分けするのでも良いと思います。
こうして意見をまとまりごとに整理すれば、何について話し合われているのかがひと目でわかります。ある分類項目で意見が少なければ、リーダーがその分野の議論を促すことで、それまで見落とされていた重要な抜けモレを防ぐこともできるでしょう。
さらにそれぞれの項目について対応策や具体的な方法を募っていくことが可視化によって容易になるので、より建設的な議論が進められます。
このように議論の過程を共有することで、リーダーは意思決定者としての説明責任を、会議の途中途中でしっかり果たすことができるのです。
ところで、会議には必ず反対意見が出てきます。「進行を妨げる要因」と否定的に捉える人もいるかもしれませんが、むしろ反対意見は議論の質を向上させるために歓迎すべきものと捉え直し、逆に効果的に使いましょう。
例えば、A案に対してB案という反対意見が出てきたとき、内容によってはA案、B案ともに採用することも選択肢としてはあります。
1つに絞らなくてはならないときは、AかBの二者択一ではなく、AとBの折衷案がないか、探る方向性を示しましょう。「A案とB案の2つが出たけれど、この2つを踏まえたうえで、もっといい案はないかな」とファシリテートするのもリーダーの役割です。
また、延々と議論が続いて結論が出ない会議で多いのが、議論がループ(堂々巡り)することです。原因としては、会議のゴールが明確でなかったり、議論の進捗状況を参加者が把握できていなかったりすることが挙げられます。
会議がループしているときは、リーダーが今一度、会議の目的や目指すべきゴールについて説明する必要があるでしょう。
議論が迷路に入り込んでしまったら、進捗状況を把握するために、ここでもリアルタイムで可視化する方法が効果的です。ループしているときは、ループしている本人がそれに気づいていないことが多いので、論点を可視化して見せてあげるのです。
例えば、四角い箱を置き、それぞれの意見を入れていきます。重要なのは、ただ意見を要約して書き出すだけでなく、そのつながりを矢印でつないでいくことです。
Aさんが言ったこの意見からBさんのこの意見につながり、Cさんの意見が出てきて、こことここは対立、こことここは包含関係にあるなどと関係性を図式化していきます。
ここに新たにDさんの意見が出てきたとすると、「これは最初のAさんの意見と一致していますね」と図式化することで、Dさんは自分の意見がループしていることに気づくわけです。
するとDさんは、これらを踏まえて議論を一歩先に進めていくことができますし、他のメンバーも議論の論理的なつながりが明確になるので、より建設的な意見が出せるようになります。
会議では様々な意見や論点が出されます。そこから選択肢を絞り出し、意思決定まで持っていくのがリーダーの役割です。
議論を収束させ、最終的に会議の結論を導き出す手段には、「多数決」や「リーダーの独断」など様々な方法があります。
しかし私は、重要な意思決定で多数決を使うことをお勧めしません。
その理由は大きく分けて3つあります。それぞれについて少し詳しくご説明しましょう。
《理由①意思決定の質が下がる》
意思決定を多数決で決めるということは、つまり「多数派の選択が少数派よりも正しい」と見なすことです。しかし、多数派の選択が本当に論理的・客観的に正しいとは限りません。
それに多数決では、組織全体に利益があったとしても、その会議に参加した多数派に不利なことは否決されてしまう傾向にあります。
例えば、ある部署でペーパーレス化が議題になったとき、複数人の年配社員が「変化することへの抵抗感」から、その推進に難色を示したとします。そしてその部署で、年配社員の割合が多ければ、たとえその後の業務が滞ることになったとしても、多数決でペーパーレス化は否決されてしまうでしょう。
《理由②意思決定後に悪影響が出る》
多数決で意思決定を行なうと、もし結果が振るわなかった場合の責任の所在が曖昧になってしまいます。責任が曖昧になると、うまくいかなかったときに誰が率先して対応すべきかも、わからなくなります。
また多数決によって反対派と賛成派の間に分断や対立が生まれ、会議後も業務上の協力体制が揺らいでしまうかもしれません。これは明らかに組織にとってマイナスです。
《理由③業務の生産性が下がる》
意思決定が多数決で行なわれることが事前にわかっていると、自分の希望に沿った結論に導くために、他の参加者への事前の根回しに走る人も出てくるかもしれません。本来はもっと別の価値を生んでいたはずの時間と労力を根回しに費やしてしまうことで、生産性の低下を招いてしまうのです。
また多数決で決めてしまうと、意思決定が誤っていた際に、そのプロセスのどこに問題があったのか検証できません。そのため、次回以降の意思決定の精度を向上させることもできないままになってしまうのです。
多数決以外の方法で、「会議で意見を引き出すだけ引き出して、あとはリーダーが持ち帰って結論を決める」というやり方を取っている人もいるかもしれません。
しかし私は、この方法もお勧めしません。なぜなら、リーダーがどういうロジックで意思決定を下したのかという過程が共有されないからです。
また仮に「私はこう決めました」と伝えても、「この視点がもれていませんか」という新たな論点が出てくる可能性があります。それで、また会議を開くようでは二度手間です。
決定する会議では、その場でオープンに論点を出し合って、「みんな、これで納得だよね」という解を求めるべきです。
もちろん、先のことは誰にも見通せないので、完全な正解を求めることはできません。ですから、いかにみんなが納得できる結論に辿りつけるかがポイントになるのです。
ところで、会議中は発言しないけれど、明らかに態度や表情で反対の意思表示をしている人や、意見が採用されず不服そうなメンバーはいるものです。そうした人たちには、会議後のフォローを忘れてはいけません。そうしないとあとになって「協力する気はない」と態度を硬化させたり、「自分は反対だった」と結果を反故にする危険性もあるからです。
できれば会議終了直後にリーダーが個別に話を聞くこと。そうやって丁寧にフォローすることで、協力的になることが期待できます。
更新:05月09日 00:05