
「言いたいことを言葉にする」のは容易ではありません。多くのリーダーが以下のような課題を抱えています。
・指示があいまい:わかりづらいから人が思ったように動かない
・考えがまとまらない:要領を得ないから相手に伝わらない
・話の内容がフワっとしている:説得力がないから相手に刺さらない
このような課題を解決するために、数々のビジネスリーダーを育成してきたグロービスが「言いたいことを、瞬時に伝わる言葉に変換する25のトレーニング」を紹介します。本稿は「あるべき姿を正しく伝える」レッスンです。
※本稿は、グロービス,嶋田毅著『思考力を高める 人を動かす MBA 言語化トレーニング』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです

問題解決というと何か好ましくない状況が生じ(例:機械の故障、人間の病気など)、それを通常あるいは定常の状態に戻すことをイメージする人も多いかもしれません。機械の故障であればそれを修理する、病気であればその治療を行うなどです。
もちろんこれも問題解決ではありますが、ビジネスにおいてはより広義に問題という言葉を定義するのが一般的です。
広義の問題解決では、あるべき姿(「ありたい姿」と表現することもあります)と現状のギャップを問題と捉えます。
たとえば、昨年の第一四半期の売上高が10億円、今年の第一四半期の売上高が目標12億円だったのに対し、11億円しか数字が達成できなかったら、目標未達ですから、問題があったと考えるわけです。
この観点に立つと、あるべき姿をどのように設定するかによって、その後の問題解決のアプローチがまったく異なってくることがわかります。
たとえば、「従業員の英語力をTOEICの平均点数800点としたい」とあるべき姿を定義すると、解決策は自ずとTOEICの点数を高めるといったテクニカルな方法論になってしまいます。
それが絶対的に悪いという訳ではないですが、TOEICの点数が高いことと、不自由なくビジネス英語を使えることは多少異なります。
一方、あるべき姿を「すべての従業員が英語学習に強い関心を持ち、職場でも自発的に学び使う環境を実現する」とすると、アプローチはまったく異なるものになるでしょう。
あるべき姿の言語化にあたっては、図2‐1に示したように大きく3つの要素を強く意識します。
ほどほどのストレッチ感があり、みんなが「この状態を目指してみたい」と思える像を、まずは頭の中にビビッドにイメージすることが効果的です。
そのうえで、その像を具体的に言葉に落とし込む手順を踏むとよいでしう。
■設定
あなたはある企業の採用責任者。ここ数年間、新卒採用者は予定数採とれているのですが、3年目の退職率が上がっており、現場から「せっかく時間をかけて育てたのに...」という声がよく聞こえてきます。採用担当者として何とか手を打ちたいと考えていますが、どのようにあるべき姿を描けばいいのでしょうか。
■回答例・解説
[NG例]
-----------------------------------------------
新卒採用者が絶対に辞めないようにしたい。そのために採用方法を一新するとともに、若いうちから会社に対して強い愛社精神を感じるような施策を講じる。
-----------------------------------------------
この例では、「絶対に辞めない」はやはり実現可能性が低いですから、「無理だよ」と思う人が出る可能性が高そうです。
また、近年の若手社員に愛社精神を強要するのは、共感を得にくいでしょう。総じて、先の3つの要素がどれも満たされておらず、あまり良い「あるべき姿」とは言えません。もう少し、3つの要素を意識して現実感を持たせてみましょう。
[OK例]
-----------------------------------------------
新卒採用においては、採用数の達成を強調しすぎるのではなく、新入社員が会社の文化に溶け込み、一個人としてもビジネスパーソンとしても成長できる環境をつくることで彼らのエンゲージメント(会社に対する愛着、貢献意欲)を高い状態に保つ。
そのためにも入社前の期待値のすり合わせができているのはもちろん、適切な受け入れ・戦力化プロセスやキャリア支援体制などが充実していないといけない。人事部だけが頑張るのではなく、会社全体として新人の受け入れと定着を促そうという意識が高まっていることも必要である。
もちろん、人事部全体としても、採用と育成をシームレスにつなげる体制が整っていることが望ましい。
-----------------------------------------------
このレベルであるべき姿を描けば、「絶対に無理」と反対する人はいないでしょう。より具体的な施策についても生産的な議論ができますし、その後のアクションもよりとりやすくなるでしょう。
■設定
あなたは春から小学5年生になる子どもの親。子どもに中学受験をさせたいのですが、あまり勉強が得意ではなく、塾にも行きたがりません。親として悩んでいます。
■回答例・解説
まず、以下のあるべき姿は妥当でしょうか。
[NG例]
-----------------------------------------------
子どもが勉強好きになっている。毎日予習復習を欠かさず、最低4時間は机に向かっている。読書なども好きになっており、さまざまな分野の本を読んでいる。スマートフォンを見るのも本当に必要な時だけである。
-----------------------------------------------
親としてはこうなってほしいのかもしれませんが、親のエゴが強すぎますし、人間はそう簡単に変わるものではありません。具体的な方法論は見えませんし、子どもも反抗しそうです。
むしろ、「勉強ができる=善」という意識から親が脱し、より広い角度で「子どもの幸せとは何か」を考え、そこからあるべき姿を考えるほうがいいかもしれません。以下は、勉強に過度にこだわらない、あるべき姿の例です。
[OK例]
-----------------------------------------------
子どもが自分自身の興味や強みを理解し、それらを探求することを楽しむ環境を提供する。学校の勉強に限らず、アートやスポーツ、プログラミングなど、さまざまな活動を経験してもらい、子どもがワクワクできるものを探す。それが将来の職業につながることも念頭に入れる。
また、社会性や対人コミュニケーションスキルの向上などにも力を入れる。子どもが自信を持ちながら、他人と協力して楽しく人生を送ることができるよう支援する。
-----------------------------------------------
子ども自身が幸せと感じることができる状態に目を向けるのは、ある意味クリエイティブなあるべき姿像ともいえるでしょう。この発想は、人材が多様化するこれからの時代の部下育成にも応用できるでしょう。
■コツ・注意点
先に触れたように、あるべき姿を描く際には、まずはその実現可能性を意識することが大切です。
たとえば、日本のベンチャー企業が「アマゾン以上のECサイトを構築する」というあるべき姿を掲げたとしても実現は容易ではないでしょう。
理想の状態を模索することは重要ですが、それが現実的な経営資源や時間、あるいは外部環境の制約内で実現可能であるかは常に念頭に置く必要があります。
一方で、テクノロジーなどの進化により、かつては実現不可能だったあるべき姿が到達できるようになったという側面もあります。
たとえば、かつては顧客一人ひとりにあつらえたマーケティング施策を打つことは不可能でした。しかし昨今ではビッグデータやAIを活用することで、「Aさんにはこの施策をうつ、Bさんにはこの施策をうつ、Cさんには...」ということも可能になってきています(グロービスでは、テクノロジーを活用した、こうした問題解決のアプローチを「テクノベート・シンキング」と呼んでいます。テクノベートとはテクノロジーとイノベーションの造語です)。
その時代における「手の届く」あるべき姿がどのくらいの距離感なのかを正しく理解するためにも、最新の技術動向や他社事例などは押さえておきたいものです。
【グロービス】
グロービスは1992年の設立以来、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」ことをビジョンに掲げ、各種事業展開を進めてきました。
「ヒト」の面では、学校法人としての「グロービス経営大学院」ならびに、株式会社立のスクール「グロービス・エグゼクティブ・スクール」「グロービス・マネジメント・スクール」、企業内研修事業を行うグロービス・コーポレート・エデュケーションとeラーニングやオンラインクラスのほか定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」などを提供するグロービス・デジタル・プラットフォーム、「カネ」の面では、ベンチャー企業への投資・育成を行うベンチャー・キャピタル「グロービス・キャピタル・パートナーズ」、「チエ」の面では、出版事業ならびにオウンドメディア「GLOBIS 学び放題×知見録」により、これを推進しています。
さらに社会に対する創造と変革を促進するため、一般社団法人G1によるカンファレンス運営、一般財団法人KIBOW による震災復興支援および社会的インパクト投資を展開しています。
企業サイト:
グロービス:https://globis.co.jp/
グロービス経営大学院:https://mba.globis.ac.jp/
更新:05月31日 00:05