「係長」「課長」「部長」「社長」......よくある役職名ですが、実は、このような旧来から使われている役職名を使っているために、社内改革が起きにくい状態になっている企業が多いといいます。これからの会社での役職のネーミングはどうあるべきなのか、中小企業向けの経営コンサルティングを行なう株式会社ブレインマークスの安東邦彦さんに話を伺いました。
最近、経営者の皆様から「組織を改革したい」、「トップダウン型からフラットな組織に変えたい」というご相談を数多くいただくようになりました。
色々とお話を聞いていくと部長、課長といった役職者の呼び名によって間違った対応や振る舞いが数多く生まれているようです。
◯◯課長や□□部長、社長もそうですが、ネーミングには固定観念が付きまといます。その固定観念が社内の全員で同じならそれでかまいませんが、普通は人によって異なります。
例えば部長は、責任感が強くてチームで一番頑張るとか、チームワークを一番意識していると思っている人もいれば、権力を持っていて命令すれば誰かが必ず動くと思っている人もいます。部長は偉い人だと思っている人は、いざ自分が部長になったら偉ぶったりする。
それぞれがその役職に対して持っている固定観念が、組織運営に大きな影響を与えていることが問題だと、私は考えています。
実際には、役職というのはあくまでも職場においての役割と責任を示しているだけです。例えば、部長というのは、チームをまとめて業績や社員の能力を高めていくのが役割で、会社全体においては業績の責任を負っています。
ところが、単なる役割と責任だったはずが、それを履き違えて「部長になったら偉そうにしてもいいんだ」「多少横暴になっても大丈夫だ」などと勘違いする人が日本の縦社会では数多くあります。
それを正すという意味において、役職のネーミング変更は組織運営において効果的な方法の一つです。
実際に役職のネーミングを変更したことによって、良い変化が起こった例は数多くあります。例えばMeta(旧Facebook)社は、日本で言うところの部長を以前は「マネージャー」と呼んでいましたが、それを「コーチ」に変えました。
マネージャーというと組織を管理する偉い人というイメージがありますが、それがコーチに変わると、管理する人ではなく、チームや組織の潜在能力を引き出していき、チーム内のコミュニケーションを活性化させ、業務において成果をあげる役割というイメージになります。
ここで重要になるのは、役職の名称を変えるだけでなく、その役割と責任を再定義することです。コーチの役割はチームと個人の潜在能力を最大限に引き出して、組織内でのコミュニケーションを高めて成果を上げる。そして成果を出すことで評価に繋がることを明確にして、それを組織内に浸透させることが必要なのです。
そうすることによって、その役職に対する社員みんなの意識が変わっていく。それが一番わかりやすい役職のネーミング変更のスタイルだと思います。
例えば私どもの会社では、役職を全て廃止しました。うちは組織内で上下関係のない会社を作ることをベースにしており、呼びかける際には全員「さん付け」です。私も社員から「社長」と呼ばれることはなく、「安東さん」と呼ばれています。
社長というのはあくまで会社の中での役割であって、その役割を再定義すればいい。うちの会社での定義では、社長の役割は「経営理念とビジョンを実現すること」「社員満足を徹底的に追求すること」。私はたまたまその役割を担っているから社長なのであって、偉いわけでもなんでもないと考えています。
さらに、うちの会社は全員リーダー経営という形になっており、社員全員が何らかの役割と責任を担っているリーダーであるという状態です。すべての仕事は役職ではなく役割と責任で分担していると考えているわけです。
また、うちの会社は◯◯部という呼び方をやめて、◯◯サークルという名称にしています。例えば「人事部」というと縦割りの上下関係があるイメージなのに対し、「人事サークル」とすれば、丸い円の中で人事という役割にみんなが上下なく所属しているというイメージになるからです。
部門の名称変更による組織改革の成功例としては、アメリカのアパレル関連の通販小売店「ザッポス」が挙げられます。この会社はコールセンターのホスピタリティの高さが自社の独自性になっている会社です。
ザッポスの顧客対応部門は、「コールセンター部門」と呼ばれていましたが、それだと単に電話を受けて注文を取るだけというイメージになり、電話のオペレーターもマニュアルどおりに受け答えするだけになっていました。
そこでザッポスは、コールセンターを「カスタマーロイヤリティチーム」という名称に変えました。そして、オペレーターの役割と責任は、電話をかけていただいたお客様を一人残らず自社のファンにすることと再定義したのです。そして評価基準もそれに合わせて変更しました。
すると、オペレーターの電話対応が大きく変わり、ホスピタリティの高さが大きく評価されるようになりました。そしてそれが、ザッポスの企業としての独自の個性や強みにつながっていったのです。ネーミングを変えたことで、自社の強みの部分をより光らせることに成功したわけです。
このように、ただネーミングを変えるだけでなく、役割と責任を明確化する、もしくは再定義して、その役割と責任を全うできる人材を組織の中に作っていくと考えていくと、ネーミング一つでいろいろな組織改革や企業イメージの改善が可能になるのです。
弊社の例も一つご紹介します。私どもはコンサルティングの際には二人一組で顧客企業のサポートをしているのですが、以前はこの二人をコンサルタントとアシスタントと呼んでいました。
ところが、そうするとコンサルタントは相方のことを自分のアシスタントだと考えてしまい、自分の雑用をやらせるようになってしまいました。これではいけないと考え、アシスタントではなく「クライアントパートナー」という名称に変更しました。
つまり、コンサルタントのアシスタントではなく、クライアントサクセスを実現するための「お客様のパートナー」だということです。イメージとしては病院におけるドクターとナースの関係に似ています。
ナースはドクターのアシスタントではなく、ナースとしての専門性を持って患者さんが完治するためのお手伝いをする。同じように、クライアントパートナーの役割は、お客様のクライアントサクセスを実現するために努力することであると定義したのです。
そうすることで自然と、コンサルタントとクライアントパートナーはそれぞれの専門性を持って、クライアントのために協力していくようになっていきました。
そしてこの二人一組によるコンサルティングが、今や私どもの会社の強みになっています。このように、ネーミングを使って会社の個性や強みを作っていくことも可能になっていくわけです。
役職のネーミングの方法にもコツがあります。可能な限り、役割と責任がわかりやすいものにすること。あとは耳に残りやすいものです。私どもの会社には「働きがいのある企業文化作りチーム」という部門があります。人事部の中のチームなのですが、それだけでどういった役割の部門なのかがすぐにわかります。
また、顧客や外部企業の人に会った際、「これは何をする部署なんですか?」とか「どういう肩書なんですか?」と聞かれることがよくあります。それをしっかりとご説明することで、自社の個性や特長をアピールする機会になると考えています。
世間に通りがいいように一般的な名称を付けるのではなく、自社独自の考え方を反映した独自の名称を持っているほうが、会社の個性が明確になるのです。
理屈をつけてネーミングすることで、社内改革や自社の個性の強化に繋がるはずです。ぜひ、取り組んでみてはいかがでしょうか。
更新:01月31日 00:05