2024年12月27日 公開

感染症やその他の病気から身を守るには「免疫力」が大切......というのは知っているものの、どうすればその免疫力をアップできるかはよくわからない。そんな人が多いのでは。そこで、免疫のスペシャリストに、「免疫力を「高める生活習慣」を教えてもらった。(取材・構成:石澤寧)
※本稿は、『THE21』2024年1月号より、内容を抜粋・編集したものです。
「免疫力を上げる」というテーマで私がまずお伝えしたいのは、「粘膜免疫」の大切さです。ウイルスが口・鼻・目から侵入した際に、唾液や涙といった粘液が第一関門としてガードしてくれるのですが、この粘液が十分に出ておらず、粘膜免疫が機能していない人が多いのです。
長時間PCのモニターを見ることで目が疲れ、まばたきが減り、涙の量が足りなくなる「ドライアイ」の人が増えています。また、PCに向き合って黙々と作業するだけで人と話をしないと口を動かしませんから、唾液の分泌が減って「ドライマウス」にもなります。
粘液が十分分泌されている人は、菌やウイルスが口や目に飛び込んできても、粘液の中に含まれるIgAという抗体がくっついて、排除してくれます。赤ちゃんが唾液を流しながらあちこちを舐め回しても、そう簡単に病気にならないのは、このIgAの働きがあるからです。
もちろん、ウイルスを100%ガードできるわけではありませんが、感染しやすい人としにくい人の最初の分岐点は粘膜免疫の分泌量にあると言っていいでしょう。ドライアイ、ドライマウスは、この粘膜免疫が効いていないわけですから、目や口の中が乾燥してつらい、というだけの話ではなく、実はもっと深刻な状態なのです。
ドライアイは、目薬のほか、目を使う作業では休憩を多めにとり、遠くのものを見るなどして目の筋肉を動かすことで改善されます。ドライマウスは、あごの下にある唾液腺をマッサージしたり、人とたくさん会話をしてあごの筋肉を動かしたりすることで唾液の分泌が促進され、口の中の潤いが戻ってきます。
加えて、より積極的に粘膜を強くする方法として有効なのが、お風呂に入ることです。シャワーではなく、40°Cくらいのお湯に10分ほどゆっくりつかって身体を温めましょう。すると、体の中の循環が良くなり、粘膜強くなって粘液もたっぷり出てきます。こうして、体を守る最初の砦である粘膜免疫を強化することが、免疫力を上げるファーストステップです。
免疫力を上げる次のステップは、体の中の免疫を強化することですが、ここで理解しておかなくてはならないのが、免疫には「破壊」と「再生」の二つの役割があるということです。
免疫は、菌やウイルスなど体にとって有害なものの排除はもちろん、傷ついたり古くなったりした細胞や、がん細胞のようなエラーのある細胞を破壊して、新しい細胞に入れ替える役割を担っています。この働きのおかげで、私たちは健康が維持できているわけです。
しかし、40代、50代に入ると、「破壊」のほうが強くなってきます。それは年齢を重ねて「再生」の働きが弱くなることもありますが、生活習慣の影響もあります。睡眠不足や食べすぎ、飲みすぎ、バランスの悪い食生活などが積み重なることで、免疫の「破壊」と「再生」のバランスが乱れてしまうのです。
そして、免疫のバランスが乱れることによって引き起こされあるのが「慢性炎症」です。「慢性炎症」とはその名の通り、体のあちこちが慢性的な炎症状態になることです。
この慢性炎症が、生活習慣病や動脈硬化性疾患、がんや自己免疫疾患、アルツハイマーといった神経変性疾患など、様々な病気の原因になっていることが次第に明らかになっています。40代になると、多くの人の体の中でこの慢性炎症が起こっていると考えられます。
しかし「炎症」といっても痛みや異変を感じるわけではないので、本人も気づかずにその状態が続いてしまいます。40代・50代のまだ若いと言われる年代で、心筋梗塞などで突然倒れて亡くなってしまう人は、この慢性炎症が進行し、自分でも気づかないうちに体にダメージが蓄積されていた可能性が高いのです。

では、乱れた免疫のバランスを整えて慢性炎症を抑えるには、どうしたらいいのでしょうか。一つの有効な方法は、腸内環境を整えることです。
具体的には、腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維をたくさん摂り、有用な腸内細菌を育て、その働きを引き出すことです。腸の中にいる酪酸菌などの善玉菌が働くと腸内で発酵が起こり、酪酸などの短鎖脂肪酸が生まれます。酪酸は、腸内にブレーキ役の免疫を生み出し、そのブレーキ役の免疫が慢性炎症を抑制・改善してくれるのです。
酪酸などの善玉菌の働きを引き出すには、エサとなる水溶性食物繊維をたっぷり摂ることが必要。水溶性食物繊維はオクラや里芋、山芋などのネバネバし野菜や海藻に多く含まれていますが(図3参照)、毎日食べるものには意外に少なく、意識して摂ることが大切です。「発酵食品が腸内環境にいい」ということはすでに常識ですが、今は「発酵食品に加えて、腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維が必要」というのが新しい常識になりつつあります。
食事のメニューを決める際は、好き嫌いやカロリーだけでなく、腸内細菌にいいものを摂るという視点が必要なのです。水溶性食物繊維を意識して摂って腸内環境の改善に努めれば、人によって差はありますが、おおよそ2週間程度で、肌つやが良くなる、よく眠れるようになる、疲れにくくなるといった良い変化が感じられるようになります。
便通改善ならもっと早く実感できるでしょう。こうした変化は免疫のバランスが整ってきた証拠。このように体全体の調子を整えていくことが、新型コロナなどの感染症だけでなく、あらゆる病気の予防にもつながります。
先ほども触れましたが、免疫のバランスには生活習慣が深く関わっています。ですから、免疫力をアップしたいのであれば、腸内環境の改善と同時に生活習慣の改善にも取り組むことをお勧めします。
例えば、年末年始についやってしまいがちな暴飲暴食。食べ物の消化やアルコールの分解には大変なエネルギーを使いますから、飲みすぎ・食べすぎは体にとってダメージになります。そのダメージは免疫が修復してくれるわけですが、その修復に免疫が動員されてしまうと、本来免疫がガードするべき外敵の防御に手が回らなくなってしまい、ウイルスなどに感染しやすくなるのです。
この年末年始も、年明け早々に体調を崩さないためにも、適度な飲食・飲酒を心がけたほうがよいでしょう。
睡眠時間を確保することも大変重要です。私たちが睡眠をとっている間に免疫が体のあちこを修復してくれるのですが、睡眠時間が短いというのは、その修復の時間を奪って、自分の免疫力を削っていることにほかなりません。
6時間から8時間くらいの睡眠が体にいいことがわかっていますから、これより睡眠時間が短いという人は要注意。その状態が続けば慢性炎症が進んでしまいますから、工夫して睡眠時間をなんとか確保するようにしてください。
また、ストレスを溜めない、ということもとても大切。「緊張状態で働くのが交感神経で、リラックス状態で働くのが副交感神経」ということは聞いたことがあると思いますが、ストレスが重なって緊張状態になり、交感神経が優位になりすぎると、ホルモンの分泌が乱れ、免疫を抑える方向に働いてしまいます。
もちろん仕事などで緊張する場面はあるでしょうし、ある程度の緊張は必要ですが、もし最近緊張する機会が多いなと感じたなら、ゆっくりお風呂に入ったり、寝る前に音楽を聴いてリラックスするなど、意識的に副交感神経を優位にする時間をつくったほうがよいでしょう。
また適度な運動も必要です。忙しいビジネスパーソンの中には、なかなか運動ができないという人も多いと思いますが、そうした人でも、毎日8000歩は歩いたほうがいいでしょう。距離にするとだいたい6km弱ですが、通勤の行き帰りや仕事中の移動で、自分では気づかないうちにたくさん歩いている人も多いものです。運動不足が気になる人は、一度万歩計で測ってみてもいいかもしれません。
最後に、免疫力をアップさせ食事をご紹介しましょう。図4に免疫力アップに効果のある食材やメニューを掲載していますが、中でもお勧めなのが「豚肉」です。
豚肉は免疫細胞を活性化させビタミンBやBが多く、牛肉の約10倍以上含んでいます。ビタミンBには、腸の中の免疫のある部分を刺激して活性化する作用があります。それによって、腸が免疫細胞をたくさん作り、体全体の免疫力のアップが期待できます。
豚肉料理の定番・豚肉のショウガ焼きにすれば、豚肉の栄養を摂りながら、ショウガの血流を良くする作用によって、さらに免疫力アップが望めます。豚肉のショウガ焼き定食を「スタミナ定食」と呼ぶお店がありますが、まさにその通り。免疫力をアップするのに最高の組み合わせだと言えます。
「ビタミンB、Bならサプリメントで摂ってもいいじゃないか」という人もいるかもしれませんが、ビタミンだけを摂ればいいわけではありません。ビタミンBBをたくさん摂っても、夕ンパク質が足りなければ免疫細胞はできないのです。その点、豚肉には、免疫細胞を作るのに不可欠なタンパク質や、それ以外の栄養素も含まれています。
足りない栄養素を補うという点でサプリメントは有用ですが、それに頼りすぎてしまうと、栄養のバランスが崩れてしまうことになりかねません。やはり食事で栄養を摂ることを基本にしたほうがいいでしょう。
免疫は何もしなくても勝手に体を守ってくれるもの、と思っている人もいるかもしれませんが、決してそうではありません。免疫の力を活かすには、私たちがその力が働くように生活しなければいけないのです。
その点を意識・実践できる人とできない人では、定年を迎える頃には大きな差がつきます。両者のその後の人生は、健康寿命の点でまったく違ったものになるでしょう。
40代・50代の方はまだ間に合います。この機会に、ぜひ免疫力を高める習慣を生活に取り入れていただきたいと思います。

【飯沼一茂(いいぬま・かずしげ)】
1948年生まれ。 立教大学理学部卒。 米国製薬会 社でリサーチフェローとして勤務。1987年、大阪 大学医学部にて医学博士を取得。 国立国際医療セ ンター肝炎・免疫研究センター客員研究員、 純真 学園大学客員教授などを歴任。 日本免疫予防医 学普及協会。 著書に、 「それでは実際、なにをやれ ば免疫力があがるの?」 (ワニブックス)などがある。
更新:01月23日 00:05