2025年12月17日 公開

突然死の原因となる代表的な疾患「クモ膜下出血」。脳神経外科医の佐野公俊医師によれば、クモ膜下出血は予防できるという。予防のために必要な知識を、医療ジャーナリストの木原洋美さんが解説します。
※本稿は『PHPからだスマイル』2026年1月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
例年1月、2月の寒い時期には、突然死が増える傾向があります。突然死とは「発症から24時間以内に死亡する予期せぬ病死」のこと。「昨日まで元気で楽しそうだった人」が突然亡くなってしまったという話は、決して珍しくはありません。
実際日本では、年間約10万人が突然死で命を落としていると推計されています。突然死の原因として最も多いのは、全体の約60〜70%を占める心臓疾患。次いで多いのは脳血管障害で全体の約14%を占めています。脳血管障害による突然死の内訳は、脳出血が約52%、クモ膜下出血が約48%です。
世界で最も多くクモ膜下出血の原因となる脳動脈瘤手術をしたことでギネスブックにも掲載されている脳神経外科医の佐野公俊医師は「クモ膜下出血は予防できる疾患です」と語ります。
クモ膜下出血のおよそ9割は、脳動脈瘤(未破裂脳動脈瘤)が破れることで起こります。脳動脈瘤とは、脳の中にある動脈の血管にできるコブのことを指し、さらにそのコブが破裂していないものを未破裂脳動脈瘤といいます。
クモ膜下出血の死亡率は約50%と高く、一命を取り止めても約20%に後遺症が残り、社会復帰できるまで回復するのは残りの30%程度。防げるものなら、なんとしてでも防ぎたいですよね。
予防のためには、少しでも異変や気になる症状があったら専門の医療機関を受診する、また症状がない場合でも脳ドックなどを行なっている医療機関で定期的に検診を受けることが望ましい、ということになります。
しかし、未破裂脳動脈瘤の破裂率は全体の約1%程度(年間)。未破裂脳動脈瘤が見つかっても、心配し過ぎないようにしましょう。
では、脳ドック等を受診すべきなのは、どういう人なのでしょうか。
「家族歴のある人は30歳を過ぎたら一度はMRI検査を受けた方がいい」と佐野医師はアドバイスします。発症しやすいのは40代以降ですが、最近は30代の患者も増加傾向にあるからです。ちなみに40代、50代では男性に多く、60歳以降は女性に多くなる傾向がみられます。
「とくに脳卒中を起こした家族がいたり、糖尿病の治療中だったり、慢性的な頭痛に悩まされていたり、血圧が高い人は、ハイリスク群です」(佐野医師)
未破裂脳動脈瘤が見つかって、破裂の可能性が高いと判断された場合には、瘤の根元をクリップで挟んで瘤を枯らす手術や、カテーテルを使用しての塞栓術(詰め物をして瘤を埋める)を行ないます。
破裂しやすさは、脳動脈瘤の大きさや形状、コブのある場所で見極めます。一般的に、大きさが7㎜を超え、いびつな形をしているコブは破裂する確率が高いとされますが、診断には高度な専門性を要するので、医師とよく相談することが大切です。
クモ膜下出血の発症前に現われる兆候のひとつが「血圧の乱れ」。数日前から血圧の乱高下をくり返したあと、発症する例が見られます。
もうひとつは「警告頭痛」。脳動脈瘤から少量の出血があったり、脳動脈瘤が神経を圧迫したりするために、急な頭痛を経験する人が多いようです。このほか、「目の異常(痛み、二重にみえる、まぶたが下がるなど)」や「めまい」「吐き気」を感じる人もいます。これらの症状はしばらくすると治まりますが、数日後に大きな発作を起こす例が少なくないといいます。
クモ膜下出血の典型的な症状は、「激しい頭痛」「意識障害」「嘔吐」などです。経験したことがない強烈な頭痛におそわれたら、迷わず救急車を呼んでください。
「病院では、救急搬送の患者を優先的に診ますので、自家用車やタクシーではなく、救急車で大病院へ向かってください。脳血管障害の治療は時間が勝負です」(佐野医師)
◎監修:佐野公俊医師(総合新川橋病院副院長・脳神経外科顧問)
更新:12月17日 00:05